近付く人 1
「美月ちゃん今朝ごめんね」
「ううん。私の方こそいろいろ。それで…」
私はさっそく気にしている事を聞こうとするが
水本の声に遮られた。
「ねえ美月ちゃん、我慢できないから聞いていい?」
「何?」
「今日どうだったの?」
あ~…答えたくないなぁ。だってウソを重ねる事になる。
「どうもなかったよ。っていうか普通」
「普通に楽しかったって事?」
「う…~ん。まぁミノリがね。会いたいから。お父さんと」
「美月ちゃんは?やっぱりまだちょっとは会いたいの?」
ちょっと間を空けてしまう。
全く会いたくないって言うほど毛嫌いしているわけではないのだ。
向こうに会いたいとも会いたくないとも
思われないのが嫌なだけで。
じゃあ私は元夫が会いたいと思ってくれたら会いたいのか…
すごく会いたいと思ってくれるのであれば会いたいかも。
でも夫はそんな風には決して思う事はないし、
そもそもそんな風に思ってくれていたら離婚なんかしていない。
「向こうがね」と私は答える。
「たぶん会いたくも会いたくないもないだろうなと思うと
会いたくない」
「今日はどんな感じだったの?ダンナさん…って、ごめん。
オレって聞き過ぎ?」
「聞き過ぎ」
しばらく無言の私達。
私はそっと聞いてみる。聞きたかった事だ。
「私の事を前から知ってるって言ってたよね?」
「あぁ、うん。見たんだよね。結構何回も。
別に見ようとも会おうとも意識してないのに見て、
それで印象に残ってたから。
だからこの人はオレの人生にこの先も関わる人なんじゃないかと
5回目くらいで思ったんだけど、
6回目までが1年近くあって、あ~やっぱり違ったんだと、
子どももいたしなって思って、、
で、オレも忘れてて、まぁ彼女もいたりしてたし、
でもその後…あ、ごめん美月ちゃん、ちょっと生徒が来た。
今夜仕事から帰ったら、ちょっと遅いけど行ってもいい?」
どうしよう…。
「電話でもいいんだけどさ」水本が言う。
「やっぱ顔見て話したいから。
今から話すとこがものすごく大事なところだから。
じゃあ帰る前にメールする」
水本は私の返事など待とうともせずに電話を切ってしまった。
電話が切れると急に寂しくなった。
土曜の午後なのに車は十台も停まっていない、ただっ広い駐車場。
車の外には秋の風が吹いている。
今私の耳のすぐ脇にいた水本が、
パッと消えて居なくなったみたいに感じた。
私は教壇に立つ水本を想像する。
メガネをかけて無造作に髪をくくったまま先生をやっている姿だ。
そして「やまぶき荘」の階段にいる水本を想像する。
私の事を「美月ちゃん」と呼ぶ水本を想像する。
そして月夜の晩に一緒に歩いた事を思い出す。
誰かと一緒に歩けるのは嬉しい。
誰かと手を繋げたらもっと嬉しい。
私は水本と手を繋ぐ所を想像する。
想像だけだったら抱き合うことだってキスする事だってできる。
実際想像しかけて止めた。
ダメだ止めよう。こんな人気のない駐車場でそんな妄想哀し過ぎる。
私は家に帰る事にした。




