休日 1
水本弟が開け放したまま行ってしまったドアから
普通にゆっくりと高森美々が入って来た。
当たり前のようにサンダルを脱ぐので
私は慌てて玄関へ駆け寄って
出来るなら高森美々を奥へは入れない方向へ持って行きたい。
当たり前のように入ってくるのがものすごく怖い。
「ハルカが来てたみたいだけど」高森美々が水本に言った。
「知ってる」
水本の弟を呼び捨てにしてるのか高森美々。
「違うよ」高森美々は水本をバカにするように笑った。
「客が来てんだから自分の部屋へ帰ればって言ってんの」
「うるせーよ。あんたにそんな指示うけねぇって。
あんたこそ何で人んちに上がり込んでんだよ?」
高森美々はその水本の言葉をまるきり無視して
私に美しく微笑みかけた。
「おはよう美月ちゃん」
「…おはようございます」
「うるさかったから」
と高森美々が言うので私は謝った。
「すみません朝早くから騒いでしまって。
せっかくのお休みの日にすみません」
「水本が美月ちゃんに無理強いして部屋に入り込んで
美月ちゃんが困ってるかなぁって思って来たんだよ?」
「ばかじゃねーの」という水本の言葉はまた無視だ。
「いえ大丈夫です」私は高森美々に笑顔を作った。
水本にはまだ聞いてしまいたい事があったがまた今度だ。
ここで二人に居座られたら私はどうする事もできない。
「あのすみません。今日はちょっと朝から出かけなくちゃいけなくて。
美々さんとこは約束した通り明日伺いますから」
「出かけるの?ミノリと?」高森美々が聞く。
「私も一緒に行きたいな。お弁当でも持って…」
「あ、あの私のダンナさんのとこへ行くんです。
いや『元』ダンナさんですけど。この子のお父さんの所へ」
「何で?」高森美々が美しい顔の眉間にしわを寄せた。
「いえ、何でも」
ミノリがチラチラと私を見るので私はミノリにテレパシーを送る。
あんたが言い出したウソじゃん、今は黙っとけ、
今は何も喋るんじゃない。
「「会うの嫌じゃないの?」」
水本と高森美々がオレンジ姉妹のように声を合わせて言ったので
私はびっくりした。
いや会うのは嫌だけど、ウソだから。
「嫌ではないんです」と私はまたウソをつく。「別に」
水本も高森美々を恐ろしくいぶかしげな目で私を見る。
水本はその後ぎゅっと目をつむって「そうかぁ」と言っている。
「美月ちゃんは自分のダンナの事を『うちのダンナさん』て言うタイプか」
玄関のところで足止めしている高森美々と一緒に
水本も私達の部屋から追い出すために私は笑顔で言った。
「ごめんね水本クン。私、パンは本当に食べたかったんだけど」
「美月ちゃんどうしようもないね」
水本がいつになく冷たい感じで言ったので私はどきりとする。
「全然目の前にいるオレを見てない」
「何言ってんの」高森美々が吐き捨てるように言うと
「うるせぇブス!ホラ、帰るぞ」と言いながら水本が高森美々を
道連れにするようにそろって私の部屋から出て行き、
ドアがバタンと閉まった。
なんか凄く疲れた。
焼き立てのパン食べたかったな。
隣の水本の部屋からごちゃごちゃと声が聞こえてしまう。
そうだよね。水本の言った通り、言う事を聞いて
今朝は朝ごはんもらいに行けば良かった。
取りあえず、と私はやかんに二人分のお湯を沸かす。
管理人の奥さんに昨日作ってもらった弁当の箱を返しに行って…
それから私達はどこに行こう。
行くあても、会う人もいないのに。




