住人達 2
料理はどれもおいしかった。
誰がどれを作ったかははっきりわからなかったが、
シリアルとカロリーメイトが
大きなどんぶりにたっぷりと置かれていたのは
オレンジ姉妹の嗜好だと私は思う。
高森弟は紅いワイン。高森美々は泡盛。
管理人夫妻と水本は私と同じビールを飲んでいた。
高森弟は痩せて黒いシャツを着ているので
静かに赤ワインを飲んでいると陰気な印象だ。
姉の美々は対照的に白地に緑の小花柄のシャツに
ひざ下までのカーキ色のカーゴパンツを履いているので
さばさばとした明るい感じ。
本当に双子だなんて思えない。
なかなか料理に手の出せない私とミノリの皿に
水本がとても綺麗に食べ物を盛り付けて渡してくれた。
「呑み過ぎても大丈夫。
オレが部屋まで連れて帰ってあげるから」
水本が笑いながら私に言ったその言葉に被せるように
「水本!」と少しドスの利いた声で水本を呼んだのは
その向こうの席の高森美々だった。
「水本、場所替わって?」
「嫌ですよ」苦笑しながら水本が即答した。
少し高森美々をバカにしたような応対だ。
「水本、場所替わって」
さっきより強い口調で高森美々がもう一度言った。
「今嫌だって言ったの聞こえたでしょ?」
水本の良い方はさらにぞんざいだ。
どうしたんだろう。二人は仲が悪いんだろうか。
高森弟をちらっと見ると、高森美々を心配そうに見つめていた。
「ねえリョウ~」高森美々が高森弟を少し甘えた声で呼んだ。
「水本が席替わってくれない」
「あ~…」高森弟は少し困っている。
「今食べ始めたばかりだしさ。
もうしばらくこのままでゆっくり食べようよ」
「ちっ」と高森美々の舌打ちが聞こえ思わず見てしまった。
目が合った私に、高森美々は頬を膨らませて
ぷん、とした顔をして見せた。
すごく可愛い。可愛いけど今舌打ちしたよね?
間にいる水本は無言でビールを飲み干した。
困った感じで高森美々に笑い返したら
水本が自分のグラスにビールを注ぎながら「ちっ」と舌打ちをした。
今水本も舌打ちしたよね?
やっぱり二人は仲が悪いのだろう。
オレンジ姉妹がものすごい勢いで食べ物を口に入れていく。
二人だけで大食い早食い大会をしているみたいだ。
唐揚げ、とんかつ、クリームコロッケ、チャーシュー、
炊き込みご飯、ポテトサラダ…
その合間にオレンジ色の液体をがぶ飲みしながら
二人でずっとしゃべり続けている。
それは食べ物の味のこと、これがうまい、あれがうまい、
いや全部うまい、ここにはないけど他にアレが食べたい、
今度アソコのラーメン屋に行こう…
どんぶり山盛りのシリアルとカロリーメイトには見向きもしない。
水本が食べ物を皿に取る時に、その脚が私の脚に当たった。
「あ、ごめんなさい」当てられた私が言ったのに
水本は知らん顔をしている。
まあいいや。
ミノリもおいしそうに食べていて私はほっとする。
みんながもっとあれこれと
私やミノリについて質問をしてくるんじゃないかと身構えていたが、
今までどこに住んでいたかとか、仕事は何とか、
そういう当たり障りのないような事も全く訊いてこない。
「それおいしいでしょ?」とか
「何が食べ物で一番好き?」とか
「一日にお菓子どれくらい食べる?」とか
そう言う事を主に管理人の奥さんに訊かれただけだ。
見た目に反して奥さんはよくしゃべったが
私は綺麗な奥さんに人見知りをしてしまって
「はい」とか「何でも」とか「あんまり」
とかしか答えられず、それがとても恥ずかしい。
その間にも水本が食べ物を取るたびに
その脚が私の脚に当たる。
少しミノリの方に避けるが、それでもやっぱり当たってくる。
その度に水本の顔をちらっと見るが、
水本はもくもくと食事をし、
私とミノリの皿やグラスが空にならないように気を使ってくれた。
その水本を睨むように高森美々は舌打ちをした。
「水本!」冷たい声で水本を呼ぶ。
「あんた美月ちゃんにくっつき過ぎ。
美月ちゃん気持ち悪そうにしてんじゃん。離れな」
水本は返事をしない。
「水本~場所替わってって!」
「嫌です」水本はそれには淡々と返事をした。
なんか雰囲気悪い。
「じゃあミノリ!」高森美々に急に呼ばれて
隣のミノリがビクッと体を動かした。
「ミノリ~私と席替わって?」
ミノリが私をすがるような目で見てきた。
「じゃあそろそろ」と管理人が口を挟んだ。
「余興をはじめましょうかね」
「ちっ!」
恐ろしく綺麗な人なのに
高森美々は恐ろしくえげつない舌打ちをする。
「あーそうですねー…」そう言って立ち上がったのは高森弟だ。
「仕方ないですね。美々がなんか感じ悪いから」
オレンジ姉妹が食べるのをピタッと止めた。
「じゃあ準備してきます」
そう言って高森弟が隣の部屋に消え、
管理人の奥さんも高森弟の後に続いた。




