土曜日の朝
「…そうか。なんか凄く寂しいな」水本がつぶやいた。
「なんかものすごく仲間外れにされてる感じがする。
オレもそれに参加したいくらいだよ。ダメだろうけど」
そうか、そういう風に思ってくれるのか。
やっぱり変わってるな。参加したいなんて。
でも私も寂しい。ミノリが付いたウソが
会わない父親に会うという事なのが。
「わかったよ。今日どっか一緒に行くのは我慢するから」
水本は言った。「朝ごはんは一緒に食べよう」
この人すごいな、と私は結構感動する。
なんでここまで私達と一緒に居ようとしてくれるんだろう。
「オレだってそうそうパン焼かないし」と水本が言った。
「一緒に遊びにも行けないのに、
一緒に食べようと思ってた朝ごはんまで一人とかありえねー…
冗談じゃねぇっつの。よし、ミノリ!じゃんけん!
ホラ!じゃんけーん、」
と言ってミノリの前に右腕を突き出し、
つられてじゃんけんをしてしまうミノリだ。
水本の勝ちだ。
「よし、オレんちに行こう。
美月ちゃんちにいつまでもいたい気持ちも相当強いけど
美月ちゃんにコーヒー煎れてあげたいから」
「ごめん、わかんないんだけど」
いつものようにやさしく落ち着いた顔になった水本に聞いた。
「何で私達の事そんなに…その…好きだって言ったりしてくれるの?」
水本の頬が紅くなった。「恥ずかしいな。改めて聞かれると」
いや、あんたはもっと恥ずかしい事たくさん言ってるくせに。
「だっておかしいよね」私は言う。「越してきてすぐだったでしょう?
そんな風に言ってくれたのも。
どうしてそんなよく知りもしない私達に…
しかも私よりずっと若いあなたがおかしいよ。
ミノリが気持ち悪がるのも当然だし、その…私だってそう思うよ?」
「オレは知ってたよ」
「え?」
「ここに来る前の美月ちゃんの事を知ってる」
なんか…怖い。
そう言えば高森美々も図書館で私の事を見てたって言ってた。
この人も?
あんな地味な場所のこんな地味な私を
同じアパートの住人が二人も知っていたなんておかし過ぎる。
「オレが美月ちゃんより年下なのが気になるの?」
「年下過ぎるでしょ?」
「オレは若く見られるけど29だよ。美月ちゃんは32くらい?
高森とかと同じくらいって言ってたよね?」
29歳と聞いて何だか嬉しくなっている自分がえげつない。
それでも私は34歳だから、やっぱり5歳も年下だ。
もっと歳下かと思っていたから一瞬恥ずかしくも喜んでしまった。
最低だな私。「私34だよ」
「気になるの?」と水本がもう一度聞く。
「気になるよ」
「オレも気になるよ」
「…でしょう?」
「美月ちゃんが気にしてるって事がね。
でもしょうがないじゃん。痩せてるとか太ってるとかだったら
少しはどうにかできるかもしれないけど、
歳は変えられないもんね。美月ちゃんの旦那さんいくつ?」
それを聞くのか?それに「元の」ってちゃんと付けて欲しいな。
「私と同じ」
ちっ、水本が舌打ちした。「同じか、くそ、何かむかつくな…
…でもさ、もう行こう。オレの部屋。おなか空いてきた」
「カオル君…」黙って聞いていたミノリが聞いた。
「カオル君は母さんと結婚したいの?」
ミノリとしてはいちばん聞きたかった事なんだろうけれど
私としてはいちばん聞いて欲しくなかった事だ。
「したいよ」水本があっさりと答えた。
「でもミノリが嫌だったら一緒に住むだけでもいいよ。
ていうかね、一緒に住みたい」
…コーヒー飲みたいな。ここでちょっと休憩したい。
でもダメだ、ここで頑張って聞いとかないと。
「ここに来る前の私の事を知ってたって事?」
水本がまた顔をあからめた。
わからないな。この人の恥ずかしさの感じどころが。
「まだミノリがもっとちっちゃい時から知ってる」
気持ち悪っ!ダメだやっぱり気持ち悪い。
どうしよう、部屋に入れてしまった。
私、さっき喜んだよな…この人と5歳しか違わなかった事に
喜んでしまった。なんて浅はかなんだろう。
こんなんだから、失敗する結婚も見抜けないで結婚しちゃったんだな…




