土曜日の朝 2
待機してる場合じゃない。そんな事朝から玄関で言われて
みんなに聞かれるなんて冗談じゃない。
が、水本が「ごめん、美月ちゃん。中、入るから」
と言って中へ入って来てしまった。
私の姿を見た水本が「ちっ」と舌打ちをした。
何で舌打ち?
「もう着替えたのか…」水本がぼそっと言った。
「ねぇ美月ちゃん、何でミノリはこんな風な事言うの?」
え…?と戸惑う私。水本の後からついてきたミノリも困った顔をしている。
「気持ち悪いとかさ、…ったく、人の気持ちを何だと思ってんの」
「でも…」ミノリが言おうかどうか迷っている。
ミノリの気持ちもわかる。
私だって、母親が離婚して学区内の引越し先で
すぐに誰かと仲良くなったら、
そしてその相手が母親よりも明らかに年下なのに
少し恋愛感情を母親にチラつかせてきたら
やっぱりすごく気持ち悪いと感じるだろう。
「あの、」と私が口を挟む。
「ミノリもあからさまに言い過ぎたとは思うんですけど
でもやっぱりね、子どもとして感じる当然の気持ちのようにも
感じるし…」
「そうかな」と水本は少しむっとした感じで言う。
「あの、でもありがとう」
「何が?」
「いろいろと」
「いろいろとって何?」水本はむっとしたままだ。
どうしよう。
「何かさぁ、美月ちゃんはそういうふうに『ありがとう』、とか言っても
それが何?本当は美月ちゃん、どう思ってるの?オレの事」
「…」
「教えて欲しいな」
「…」
「カオル君今日メガネかけてない」
ミノリが脈絡のない子ども発言をする。
そうか、何かいつもと違うと思ったらメガネをかけてないのか。
メガネをかけないともっと若く見えるな。
私が水本をどう思っているか…
変だと思っている。会ったばかりの時のような
気持ち悪い感じはなくなった。いい人だとも思う。
けれど変な人だ。それを口に出していいのかな。
それにいい人だというのも、ここ何回か一緒に過ごした
少しの時間でいい人だと私が感じているだけで
本当はどんな人なのかわからない。
だってまだ会って1週間もたっていないのだ。
「だってどうやったって気になるじゃん」水本が言った。
もう隣に住んでんだから」
そう言った水本がゆっくりとうちの台所の椅子に掛けた。
嫌だこの人座ってしまった。
「あの、水本さん?」私は言う。「今日お仕事は?」
「昼からだから。美月ちゃんさぁ簡単に『ありがとう』とか言うくせに
今もオレの事どうやって帰らそうかって思ってるでしょ?」
「…」
「…あ、そうだ!
今から一緒にご飯食べて、そんで昼間で一緒に公園行こうよ」
何で急にそんな話になる?
「ハハハ」と水本が笑った。「何で急にって顔してる」
ダメだな。いい人だと思うし変な人だけど、
やっぱり「ちょっと気持ち悪い」が今入った。
「オレは早く仲良くなりたくて、
でも急に近付き過ぎたらいけないと思って
すんごい我慢してるのに、それでちょっと好きって言い出したら
気持ち悪いって言い出してさ…
そんなんだったらもうオレはがんがん誘う。
いいじゃん、ミノリ。美月ちゃんお父さんとは離婚したんだからさ。
オレが好きだって言ってもそれは誰にも何にも悪い事じゃないんだよ」
ミノリはちらちらと私を見てくる。「何言ってんのこの人」って感じで。
そして私はものすごく恥ずかしい。
「美月ちゃんさ、明日高森美々んとこ行くの?」
「…一応約束しちゃったから。ちょっとだけ」
「気を付けてよマジで。相手が女でもヤバそうな時には
実力行使に出て」
「ミノリも一緒に行くから、
本当にちょっとだけしか美々さんとこには居ないと思う」
「オレ、明日仕事休んで一緒に行ってあげようか?」
「…そんなに危ない感じの人なの?」
「ミノリが一緒なら大丈夫なんだろうけど
あいつはすげーうまいから。人の心にすっと入るのが。
しかも普段はあんまり誰とでも仲良くなれないような人にね」
私か?そうか…
水本から見ても誰とでも仲良くなれないように見れるんだ。
「なぁミノリ、オレと一緒に過ごす時間があんま取れないから
ミノリも誤解するんだよね。
ね?ミノリ?今日キャッチボールやろ?」
キャッチボールはやりたいけど…っていう顔をミノリがしている。
でもミノリは言った。「今日ダメなんだよ」
ミノリはウソをついた。「今日お父さんと会うから」
「マジで!!」水本の結構大きな声にびくりとした。




