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土曜の朝 1

土曜日の朝だし、引越しの疲れもたまっていたのか

8時半にケイタイがなるまで私もミノリも目が覚めなかった。

1回目ベルが鳴り終わり、ふとんから手を伸ばして

2回目が鳴り始めて慌てて取った。


「もしもし?」という声は…水本だ。

「…はい」

「おはよう美月ちゃん、ごめん起こしちゃったんだね」

「…あ、おはようございます…」起きしなでうまくしゃべれない。

「美月ちゃん…今すぐそっち行ってもいい?」

「へ?…ダメ!ダメです!起きたばっかだから」

「起きたばっかりのとこ見たいなぁ。…すげー見たい…

今起こして申し訳ないってちょっと思ったけど、

ばっかの声聞けて超ラッキー」

「…」

「…行ってもいい?」

「…絶対にダメです」

「絶対って」ハハハと水本は笑った。

「じゃあ、ミノリも起こしてうちに朝ごはん食べに来ない?

パン焼いたんだよ。コーヒーも入れるし」

「…」えーと、どうしたらいいんだろう。頭が回らない。

焼き立てのパンか…おいしいだろな…。


いや、無理だ。朝から水本の部屋へご飯食べに行くなんて無理。

夕べの事を考えるとミノリは行きたがらないだろうし、

私が行こうと言ったら変な顔をするかもしれない。

コーヒーと焼き立てのパンには心惹かれるけど。

すごいな水本。パンまで焼けるのか…。


「どうしたの?美月ちゃん。うち来るのヤだ?

ミノリが一人でうちに来るのダメなんでしょ?

美月ちゃんが一緒だったらいいんじゃないの?」

いや、そういう意味でダメって言ってたんじゃない。

こんな感じで馴れ馴れしくなるのを控えようとしているのだ。


「夕べさ…あの…ちょっと恥ずかしい事言うよ?」水本が言う。

「あの後もメール来るかなって思ってちょっと待ってた。

…ていうかちょっとじゃなくて結構待ってた。

だからパン仕込んだんだよね。なんか眠れなくなって。

…えと、怒んないでよね…オレは美月ちゃんが前の旦那さんとしゃべって

それでやっぱうまくいかないで、そいで寂しいから

やっぱりオレとメールでちょっと話そう、

とかって返事してきてくれる事を妄想してたんだけど…」

「…」

そこまで聞きながら私は夕べの夢を思い出していた。


夢は水本の鳴らしたベルで目覚めた途端に私の頭の中から

すとん、とどこかへ飛んで出たが、

水本の言葉で、すいっ、すいっと、少しずつ私の頭の中へ戻って来て

今まあまあはっきりとした形にまでよみがえった。


夢の中ではミノリがケガをしていた。

アパートの階段から落ちたのだ。

すぐ病院に連れていきたいから私は元夫に電話をする。

けれど何回やっても私はボタンを押し間違えたり

他の人にかけたりして、どうやっても夫に電話がかけられないのだ。

やがて水本が階段の下に現れ、何をしてるのかと

ミノリを抱きかかえながら私を叱った。

「つながらないの」と私は泣きながら言う。

「こんな時に美月ちゃんが泣いちゃ全然ダメじゃん」と

さらに私は注意を受ける。

「最初からオレを呼べばいいのに!」

ミノリは痛いと言って全然私を見てくれない。

私はもう立ち尽くすだけ…という夢。



「まあいいや!電話ミノリに代わって?」

水本に言われてハッとする。

私はゆさゆさとまだ眠ろうとするミノリを起こし

ケイタイを掴ませようとするがミノリはなかなか起きない。

「水本さんが電話代わってって」

「…え…いやだ、眠たいから嫌だ…」

私はまたゆさゆさとミノリを揺らす。

「でも代わってって言ってるから」言いながら私は

階段から落ちてうずくまっていた夢の中のミノリを思い出す。


「…あ、うん」とやっとミノリがケイタイを掴んで水本に返事をする。

「…うん、おはよ」ミノリが目をこすりながら

それでもまだ布団に入ったまま返事をする。

「パン?パンも焼けんの?すごいねカオル君。

うちの母さんとかパンなんて作った事ないよ」

私はパッとミノリの布団を剥いだ。

「え?カオル君ちで朝ごはん食べるの?

嫌じゃないよ…嫌じゃないけど…カオル君変な事あんま言わない?

…変な事って、母さんにいろいろ好きとか言っちゃう事だよ。

おかしいし、気持ち悪いから止めてよ」

その後「あ、」とミノリが言った。「電話切れた」


すぐにドアチャイムが鳴った。

「ミノリー」と水本の声がする。

ミノリが布団から走り出てドアを開けた。

「ミノリ、」という水本の声が聞こえて私は出て行こうかどうか迷う。

まだ着替えていないし、しばらくここで待機だ。

「オレが美月ちゃんとミノリの事を好きだと思うのは

おかしくもないし、気持ち悪くもない」

水本がはっきりした声でそう言い始めて

うわっ、と慌てた私は急いで着替え始めた。



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