電話とメール 2
「何て返すの?」ミノリが私の顔を覗き込んで言う。
「ミノリが打ったらいいよ」私はケイタイをミノリに渡した。
が、「いいよ」と言ってミノリは私にケイタイを押し返してきた。
「僕は、どっか行くなら父さんと行きたい」
そうだよね。だってミノリのお父さんはあの人一人だもんね。
私はメールを打ってミノリに見せる。
『件名 こんばんは
本文 こちらこそ今日はいろいろとありがとうございました
ここへ越してきて不安な気持ちもありましたが
一昨日も今日もみなさんとご一緒させて頂けて
少し不安も取り除かれました。
これからもよろしくお願いします。
おやすみなさい 』
「さあ?いいんじゃないの。僕は知らない」
「…何、その言い方。あんたさあ…
だいたい私は最初から相手の事がもっとよくわかるまで
部屋に行ったり馴れ馴れしくしたりしちゃいけないって
あれ程言ってたでしょ。
それなのに行っておやつ食べたり、カエル見たりしたくせにさ、
『知らない』って何?
あんたがお母さんの言う通りにしてたら、
ここまで急激にお近付きになったりしてないの!」
あ、ダメだ。声を張ったら隣に聞こえる。
「だってさ」ミノリも大きな声で返そうとするので
私はしーっと口に指を当て、声を小さくさせた。
「だってさ、普通に隣の人と仲良くするのはいいじゃん。
でもカオル君が母さんの事好きとかさ、言い出すから。
ちょっとキモいじゃん。びっくりだよ。ありえないよ」
そうだよね。ありえないよ。お母さんもそう思うよ。
「かわいそうだと思ってんだよ。お母さんたちの事を。
離婚してさ、お父さんと離れてここに引っ越して来たから」
「だから好きって言ってるの?」ミノリは怪訝な顔をしている。
「そんな感じじゃないような気がするけどな」
すごい洞察力出してくるね、小3男子。
「カオル君さ」とミノリはわざとらしいくらいの小さな声を出した。
「彼女いないって言ってたけど絶対いるよ。
テレビとかでよくあるじゃん。いるけどいない、って言う人」
いつそういうテレビ見たかな…
「カオル君は面白いけどさ」とミノリは続ける。
「でも嫌だよ。カオル君がお父さんになるのは」
「ならないよ!」びっくりした私は大声で否定した。
ヤバい。もう完全に隣に聞こえたかも。
「止めてよそんな事言うの。お母さんはもう結婚しないよ」
「何で?」
「おばちゃんだからだよ。
なかなかお母さんくらい地味なおばちゃんと
結婚してくる人は見つかんないの!」
「カオル君なら好きって言ってくれてるじゃん」
「だから!それは本当かどうかわかんないじゃん。
好きとか言ってくれてても、結婚とか、そんな事
あの人だって考えてないよ。びっくりする!
それに今あんただって嫌だって言ったでしょ?」
私は何をここまでむきになってるんだろう。
「何か嫌だな…」ミノリが急にか細い声になった。
「僕は…僕は…やっぱ本当はさ…元のままがいいな。
本当の本当は元の家に戻って、元の通りがいい」
わかってる。そんな事思ってるのはわかってるよ。
「ごめん」と私は言う。「ホントごめん」
それでもミノリが大きくなって本当に好きな女の子が出来た時に
今の私の気持ちがわかってくれたらうれしいな。
わかってくれたらきっと
ミノリを好きになってくれた女の子は幸せになれる。




