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約束 2

水本が私の方へ頭を近付けて聞き耳を立てている。

どうしよう…用事が出来たってウソつこうかな。

そうしたらもっと面倒臭い事になりそうな気もする。


「何時くらいに来てくれる?

何なら土曜日から泊りに来てくれても全然構わないけど」

「いえ」と私は即答する。

「美月ちゃんメールもくれないから」

「じゃあお昼に。お昼にどこか食べに行きませんか?」

「…」

「あの…」

「うちに来てくれるって言ったじゃない」

「はいそうでした。行きますじゃあ。明日メールします」

「そう?じゃあ待ってる。隣に水本がいるでしょ?」

「…」

「一緒に帰っちゃダメよ」

「いえ、私ミノリがいるんで先にお暇しようと思ってます」

「絶対一緒に帰るっていうから。あいつ。

全体ダメだから。私が嫌だから」

「…」

水本が私の手からスマートフォンを取って言った。

「あんたに関係ねーから」


たぶん向こうが何か言ったのだと思うけれど私には聞こえない。

水本が「うるさいブス!」と言って電話を切り

高森リョウを睨みながら彼のスマートフォンを返す。

ミノリが私に言うような事を言う。

しかもあんなに綺麗な高森美々に。


「やっぱりさ」水本が私に耳打ちするように言う。

「3人でしたかったな。月見。ねぇ美月ちゃん」

「…」

「嫌なの?オレとじゃ?

高森美々んちには行こうかなって約束してたみたいだけど、

そんなのダメに決まってるから」

「水本くん!」管理人に水本はまた呼ばれた。

「うるさい」水本は反抗的だ。

「もう!」と管理人が言っている。



「美月ちゃん!」と今度は私が管理人に呼ばれた。

ちっ、と水本が舌打ちしたが私は管理人のそばへ移動した。

「いやーごめんね美月ちゃん」管理人が言う。

「悪い子じゃないんだけどね」と水本の事だ。

「それでまぁ…そんなにいい子なわけでもないんだけど…

何ていうか…嫌だったらはっきり嫌だって言わなきゃいけないよ」

私は隣で微笑む管理人夫人の顔をちらりと伺う。

奥さんは「ふふっ」と笑っている。本当に綺麗だな。


「何でも」と奥さんは綺麗な頬笑みを崩さないまま言った。

「ある程度は起こっている事を受け入れて、

それでも自分の思うよう動けるようにね」

言う事も女神のようだなと思う。


はい、と私は答える。

そうそう間違った事をしているわけでもないのに

何だかとても自分自身が恥ずかしい気がしてくる。



嫌なわけじゃないのだ。

私は水本の事が嫌なわけじゃない。

高森美々の事も困りはするけれど嫌なわけじゃない。

たぶん嫌だったらとっくに逃げ出している。

恥ずかしいのだ。


二人の気持ちが同情だとしてもモノ好きだとしても、

面白がってやってるだけだとしても、

何も意味もないものだとしても

取りあえず好意を示してくれている事が恥ずかしい。


恥ずかしいというか気持ち悪い。

なぜなら私は自分の価値を良く知っているからだ。

だから大丈夫。高森美々との約束だって何の事はない。

ミノリと一緒に行って、さくっとお茶飲んで

用事が出来たとか言って適当に帰ればいいのだ。


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