満月の夜 3
オレンジ姉妹のダンスが終わる頃、
いつやって来たのか高森リョウもギャラリーに加わっていた。
こじんまりとした紙袋以外手荷物はない。
管理人と奥さんも手をつないでやって来た。
管理人は奥さんとつないで居ない方の手で
籐のバスケットを持っていた。
「もっと早く来たら良かったな」管理人が言った。
「ミカちゃんリカちゃんのダンスが見れたんなら」
そして「早かったね」と私達に言った。
私は奥さんに弁当の礼を言った。
「筑前煮がおいしかったです」
「そう。今度またうちにも食べにおいで」
月明かりの下で見る奥さんの美しさは
まるで妖精の国の女王のようだ。
見とれてしまう。
「水本くん」と管理人が呼ぶ。
親戚って言っていたのに名字で呼ぶのか?
そう言えば歓迎会の時もそう呼んでいたような…
よく覚えていないけれど。
「水本くんとリョウくんで敷物広げてよ」管理人が言う。
高森美々の姿が見えない。
「ねえ今日は手品やんないのかな」とミノリが小声で私に聞いた。
「そうだね道具ないしね」
「まぁ公園だからね」と水本が言った。「他の人に見られるとヤバいじゃん」
ヤバいの?なんで?魔法みたいだから?
敷物の上には次々に持ち寄った食べ物や飲み物が並べられる。
私は折に入れた団子を折の蓋に種類別に積み上げた。
「「「団子~~」」」オレンジ姉妹とオレンジ母が声を揃えて言った。
今夜は高森美々は来ないのかな。
ちょうど管理人がその事を高森弟に聞いた。
「残業らしいです。また連絡あるかも」
残念ね、と管理人の奥さんが本当に残念そうに言った。
それは私まで残念に思えてくる程に。
高森弟は立ち上がり来ていたデニムの薄手のジャケットの
内ポケットから黒い厚紙を取り出した。
楕円形のそれの周りをつううっと指でなぞり
1回転させると…それは楕円形の花瓶になった。
オレンジ姉妹が指笛をならしかけ、オレンジ母に怒られた。
その様子をにっこりと笑って見ながら
高森弟はジャケットの内ポケットに手を入れた。
出てきたのはペンだ。
それをついっと指でつまみながらなぞって空に向けると
ペンは5,60センチはあるススキの穂になった。
ススキの穂は黒い楕円形の花瓶に入れられて
敷物の真ん中に置かれた。
「すげー」ミノリが私の袖をひっぱりながら言う。
「ねぇ今の手品だよね?ねぇ?」
手品なのかな。私には魔法にしか見えない。
「「まずっっ!!」」
声にびっくりして見るとオレンジ姉妹が
オレンジピールの入った月見団子のかじったものを
手に持ったまま苦い顔をしている。
ええーーと心の中で叫ぶ私だ。
「「ミノリママ~~」」オレンジ姉妹はなじるように
私に言った。「「これ、ゲキまず」」
ええーー…
ショックだオレンジ姉妹のために買って来たようなものなのに。
二人は手に持ったかじった跡のある団子を
お互いに食べさせようと押し付け合っている。
「ごめんなさい」と私は謝った。「おいしそうだと思ったの。
オレンジが入ってたら好きなのかと思ったから」
「「オレンジピールは無理」」
そうなのか!
オレンジ母は二人が押し付け合っている食べかけの団子を取り
自分の口に入れ言った。
「やっぱ私もオレンジピールは無理」
そうなのか!どうしよう…オレンジピール入りを一番たくさん買ったのに。
「「シュークリームうま~~~」」
オレンジ姉妹が私のオレンジピール団子を食べた時とは
打って変わって可愛らしい顔で水本のシュークリームを食べている。
私はそのシュークリームを作った水本がうらやましくてしょうがない。
「母さんヤバいね」ミノリが耳打ちした。
「母さんの買って来た団子マズいって言ってた」
そう言うミノリはものすごくうれしそうな顔で笑う。
「「でもあとの2種類はうまいよ。ミノリママ」」
オレンジ姉妹が言ってくれた。良かった。
でも残ったオレンジピール入りをどうしようかと思う。
持って帰る事になったら寂しいな。
「おいしいよ」水本がオレンジピール入り団子を食べ
飲み物の入った紙コップを私に渡してくれながら言った。
「オレが食べるよ」
「そんな無理してくれなくていいよ!」
水本は私の横に腰をおろして来た。




