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満月の夜  1

公園はアパートから100メートルくらいの所にあった。

学区内の公園なので私も知っていた。

離婚前に住んでいた家は小学校の北側、

やまぶき荘とこの公園は南側にあるので

ミノリが小さい時にもここへ遊びに来た事はなかったが

よく郵便局へ行く時に前を通った。

月はもう出ていた。

重そうに東の向こうの山の上に浮かんでいる。

暮れるのが早くなってきたなと街灯を見ながら思う。

少し肌寒い。長袖を来てきて良かった。


「ミノリ、ホラ。満月」と水本が空を指差す。

公園にももう灯りがついている。

「ホントだ。何かでけー」とミノリも感嘆した。


「カオル君は何持ってきたの?」

ミノリが水本の荷物の中身を聞く。

「オレはおいなりさん。

それと今日一緒に食ったシュークリーム」

「マジで?やった!シュークリーム、マジうまかった。

おいなりさんもカオル君作ったの?」

「うん。なんかさ、シュークリームとおいなりさんて

似てるよな」

「似てる似てる」


ミノリは嬉しそうだが私は一応注意する。

「ミノリ、大人の人をそんな呼び方したらいけないよ。

水本さんて呼びな」

「カオル君がカオル君て呼んでって言った、って言ったじゃん」

ミノリは公園の中へ走り込む。


「オレの名前…ちっちゃい時は女の子みたいだって言われて

すっごい嫌だったんだけど、

今くらいになったらまぁまぁいいかなって感じに思えてきました。

誰に呼んでもらうかでも名前って全然違う。

水本さん、とかってよそよそしくてちょっと嫌です」


それから水本はちょっとはにかんで言った。

「いくいくはお父さん、て呼んでもらうのかもしれないけど

今はカオル君で」

「…」

「何で無言なんですか。恥ずかしいな。

何か突っ込んでくださいよ」

無理。


「美月ちゃんは前の旦那さんのことは名前で…

あ、ごめんなさい」

元夫の事を名前で呼んでたかどうか聞こうとしたのか?

「オレね、結構我慢してるんです。

美月ちゃんの前の事、もうすげーいろいろ聞きたいんだけど

やっぱりダメだよなーって思って我慢してる」

聞きかけたじゃん今。


「だって夕べ聞こえてきたもん」水本が小さい声で言った。

「オレ帰った後、ミノリと美月ちゃんが『お父さん』って

言ってんのが何回も聞こえてきて…

あ、荷物あそこのベンチんとこ置いとこ?

ミノリ―危ないってちょっと待ちなー」


一緒に荷物を置くとミノリの上っているジャングルジムの方へ

水本が私の手を引っ張った。

「ミノリを夜の公園で遊ばしてやりたかったのも本当だけど

美月ちゃんとも話したかったから、夜の公園で。

何か雰囲気違って良い感じになれるかなって

ちょっと思ったりして。

夕べも本当、結構何回も行こうって思ったの我慢して

大変だったんだから。

だって他のとこ聞こえないのに

やたら『お父さん』てとこだけ聞こえるし」


水本もジャングルジムに登り始め

私は荷物を置いたベンチの所に戻って腰かけ

二人が猿のようにジャングルジムの四角い枠の中を

あちこちに動き回るのを見ていた。

ジャングルジムが満月の光を浴びて

公園から浮き上がっているように見えた。


私は月を見る。

雲もなくて、ただまん丸い月だけが紺色の空に

落ちてきそうな程瑞々しく浮かんでいる。

本当に何て綺麗なんだろう。


私も上りたくなってジャングルジムに上る。

ミノリと水本が立つ上の方まで行って端に座った。

月のその瑞々しい深い光は全ての家の屋根を

ぬらぬらと濡れているように光らせていた。



私は前に見たクルクルと回る光のうずまきを思い出す。

私はあのうずまきを思い出すたびに

自分が今ここに居る事を確信できる。

あのうずまきがあの空に本当になかったものでもだ。


月が私を照らしてくれる。

水本が私に微笑んでくれた。

「綺麗だね。美月ちゃんの名前と同じ。

すげー綺麗だね」


ミノリがジャングルジムから下りて水本を呼ぶ。

「カオル君、こっち来てよ。ブランコやろ?」

「美月ちゃん」と水本が私に手を伸ばす。「下りられる?

美月ちゃんも行こ」

「カオル君!」とミノリがまた呼ぶ。「母さんの手は握っちゃダメ」

「え~~~」水本がミノリに言った。「ダメ?」

「ダメだよ」

「そうか。じゃあ今は止める」



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