弟とカエルとシュークリーム
「ミノリ~」と水本がミノリに言う。
「もっとちゃんと教えてよ。
オレ美月ちゃんに嫌われたくないのに」
ミノリがちょっと嫌な顔をする、
「カオル君、やっぱ母さんの事…」
「ミノリ!!部屋帰って用意しよ」
私は無理からにミノリの質問を止めた。
「お母さんお団子買って来たんだよ。
今日お月見するんだって。ここのみんなで」
「知ってるよ。カオル君に聞いた。
カオル君は3人でお月見したいって言ってんだけど」
「ダメ!みんなでするの。
管理人の奥さんに誘われたんだから」
水本に会釈だけして私はミノリの腕を引いて部屋に入ろうとする。
「後で行くからね」水本も言いながら階段を上がって来た。
「約束通り7時に迎えに行くから。
ごめん美月ちゃん、これからちゃんと連絡するから」
連絡してもダメだから、と思う。
私は無言でもう一度会釈して部屋へ入った。
「ダメって言ったじゃん」
部屋に入るなり私は外には聞こえないように
小声でミノリに言う。
「きちんとどういう人だかわかるまでは
あの人の部屋に行っちゃいけないって言ったでしょ?」
「カオル君とこには行ってない」
「そうだ、それに何でカオル君とか呼んでんのよ?
相手は大人じゃん。水本さんて呼びな」
「だって水本さんって呼んだら
えっと、何て言ったかな『他人…』
そんなの他人なんちゃらだからって
これから普通にだんだん仲良くなっていくはずなんだから
取りあえずカオル君て呼んでって。
あの人さ、母さんのこと『美月ちゃん』て呼んでるじゃん。
それはいいの?」
「…」
「母さんの方がずっと年上なのにさ、
美月ちゃんておかしくない?」
おかしいよ、わかってるようるさいな。
ちゃんとお母さんは止めてくれって頼んだんだって。
仲良くさせてもらう事は良い事なのはわかるし、
私だって仲悪いよりは仲良くしたいと思っているけど、
私の知らないうちに、ミノリが水本の事を
名前で呼んでいるのが何となく気に入らない。
行くなと言ったカエルも見に行ってるのも嫌だ。
そう言えばおやつも一緒に食べたと言っていた。
「じゃあおやつはどこで食べたの?
そういうのまだ慣れてない人からあんまりもらっちゃダメだよ」
「…怒らない?」
「怒るよ。どこよ?早く言いなさい」
「…カエルのとこ。
宿題してたらカオル君の弟が来たんだよ。
見た?母さん。カオル君の弟、髪がメッチャ長い!
何か変な人なんだよ」
「変な人なの?」だからどこへでもついて行くなって言ってるのに。
「この前僕が言った時はカツラ被ってた」
「カツラ?あんなに髪長いのに?」
「カオル君にカツラ被って来いって言われたらしくて」
「お母さんが見た時にはタオルを頭に巻いてたけど?」
「へー」
私の情報には興味無しか?
「それでさこの前は大学の後輩って言ってたけど
今日、『本当は弟でしたー』って。
あ、でも大学はカオル君と同じところに行ってるから
後輩なのは本当なんだって」
「変な人なの?」
「ううん]
「あんた変な人って言ったじゃん」
「結構面白い。カオル君より面白いかも」
「宿題はどこでやったのよ?」
「うるさいなもうーー。カオル君の部屋だよ」
「やっぱ入ってんじゃん!
何でウソつくのよ?ダメだって言ったでしょ?」
「すごいんだよ、カオル君。シュークリーム焼いてくれた。
母さんシュークリーム作れないよね?」
「作れないよ!」
「カオル君はあんまり変な人じゃないと思うけどな」ミノリが言う。
「たぶん普通の人だよ。母さんの事好きな感じなのは
ちょっとキモいけど」
でしょう?
「母さんがカオル君の事好きになったらもっとキモいけどね。
母さんが普通にしてたら大丈夫なんじゃないの?」
私は無言で首を振ってみせた。
嫌だな、この小3の男子。
「母さんもカエルのビイ、今度一緒に見に行く?」
「行かないよ」
「温室みたいだよ。
鉢植えの木とかが結構いっぱいあるから。
窓のそばには池もあってさ、赤い魚がいる」
「池?」
「だから母さんも今度一緒に行こうよ」
私はまた無言で首を振った。
着替えて月見団子を折に詰め直していると
7時きっかりにドアチャイムが鳴った。
ミノリがドアを開けると約束通り水本だ。
団子の折の入った紙袋を、すでに自分の荷物も持っている水本が
半分持ってくれる。
「私聞くの忘れてて。今日も管理人さんのとこでするんですか?」
「いや、福島南公園」
「公園?」
「そうそう。去年もそこだったから
公園の方が空見やすいでしょ?」
「他のみんなはもう行ったの?」
「まだだと思うよ。月見は8時くらいからだから」
「え?じゃあ何でもう行くの?」
「遊びたいかなと思って。ミノリが。
夕方の暗くなってくる公園でちゃんと
大人に見守られて遊ぶって、
なんか普通と違って嬉しいかなって」
「行きたい」とミノリが言った。




