夢の中の現実
ミノリが先に寝てしまった後、
ビールを飲みながらテレビを見る。
テレビを見ながら水本の事を考えてしまい、
意識が隣の部屋へ行ってしまいそうになる。
もう寝たのかな。
あんまり私に構わないで欲しいな。
どうやっても私はきっと酷く意識し過ぎてしまいそうだ。
そう言えば高森美々の家に遊びに行く約束をしてしまった。
大丈夫なんだろうか私。
テレビを消して私はビール缶を片手に鏡台の前に異動する。
鏡に映るのは35歳の私だ。
暗いな。華やかさがない。色気もないし可憐さもないし
ミノリが言うようにブスになってきているのだ。
自分の顔を見ながら高森美々の綺麗な顔を思い浮かべる。
私もあれくらい綺麗だったら
年下過ぎる水本にあんな事を言われても
余裕でかわせるかもしれないのに。
水本だけじゃなくてきっといろいろな男の人からも
声をかけられるだろうし。
そうか。逆に考えて高森美々が高森美々じゃなかったら?
私は高森美々がすごく美人だから
同性なのにあんなふうに好きだと言われて
「こんな綺麗な人に好かれるなんて」と
夫にも触れられずに離婚した自分の株を
少しでも高く思いたいんじゃないのか?
水本にしてもあんなに年下の見た目も悪くない男に近付かれて
自分もそう捨てたものじゃないと思いたいのだ。
でも歳を取った見た目も良くない感じの男にあんな風に近付かれたら
きっとこれからの生活が怖くて
どうにかお金を工面して速攻でここから引っ越していくだろう。
世の中は不公平だ。やはり見た目がモノを言う。
私がもっと可愛くてもっと明るかったら
夫も変わっただろうか。
変わったんだろうな。むかつくけど。
少し元夫に電話をかけたい気持ちが起こる。
彼は今も私達3人が住んでいた家で一人で暮らしている。
それはこの学区内なので
私もミノリも行こうと思えばいつでも行ける。
離婚する時に,僕が家を出るよ、と言ってくれたけれど
私は彼と住んでいた家に住み続けるのが嫌でこの部屋を借りた。
元夫は基本とても優しい人なので
私が多くを望まなければずっと、
私達は穏やかに暮らせていけたのだろう。
でも、優しいだけではダメなのだ。
だって私をちっとも触ってくれないから。
家を出た私が、こんな夜遅い時間に電話しても
きっと彼は「うん、うん」と言って私の話を聞いてくれる。
私がそんな反応を望んでいなくても
ただ「うん、うん」と穏やかに聞いてくれるのだ。
それでも私から連絡しなければ
もうこの先一生、よっぽどな事がない限り
元夫は私に連絡してこないだろう。
元夫の事を考えていた、結婚してからの
私からばかりの一方的な気持ちの要求を思い出して
どんどん惨めな気持ちになってきたので
無理やりそこで考えるのを止めて眠ることにした。
が、眠る前に思っていた事は夢に見やすい。
私は二晩も続けて元夫の夢を見てしまった。
私とミノリが元の家に訪ねて行くと
元夫が笑顔でドアを開けてくれた。
私達は3人で食事をする。穏やかに。
私はチラチラと元夫とミノリを見る。
二人は学校や友達の話をしている。
元夫は私の方をたまに向いて微笑んでくれる。
でも決して話しかけてはくれない。
私はそれが嫌でご飯を食べられなくなって
一人だけ食べるのを止めているのに
ミノリと元夫は食べ続ける。
その場に居たくない私は立ち上がり、
2階の私と元夫の寝室があった部屋へと階段を上がる。
もちろん夫もミノリも追いかけては来てくれなくて
私は寝室のベッドをめちゃめちゃにする。
という夢。
未練が残っているのだな。私は元夫に。
そして悔いているのだ。
もっと早くあそこから出て来なかった自分を。
朝、なかなか起きないミノリを起こし
朝食を食べ始めているとドアチャイムが鳴った。
絶対水本だろうと思って見ると管理人の綺麗な奥さんだった。
急いでカギとチェーンを外し開けると
奥さんは輝かしく瑞々しい朝の光より
ずっと美しく微笑んでいた。




