おやすみ 2
どうしたらいいんだろう。
もういっそ、また引っ越してしまおうかな。
ミノリが不可思議な気持ちいっぱいの顔で私を見ている。
「ねえ、母さん…」とミノリが言いかけるので
いち早く私は口に人差し指を当て
「しっ!!」とミノリを黙らせる。
が、ミノリは黙らない。
「ねえ、母さん、あの人さ、あの女の人、
母さんのことが好きっぽい感じだったね?
もう友達になったの?」
「しっ!!」と私はもう一度口に人差し指を当てる。
もう今日は疲れた。
高森美々の事も水本の事も考えるのを止めよう。
まさにそう思ったところにドアチャイムが鳴った。
きっと水本だ。
ミノリには奥で宿題を済ませるようにと言って
私はそっとドアを開けた。
開けるとやっぱり水本だった。
「チェーンてっ!!」水本がおかしそうに笑う。
私がチェーンを外さずにドアの隙間から覗いたからだ。
「もう嫌だな。
オレ帰り寄りますって言ってたけど
美月ちゃんとミノリがもう寝ちゃってたらいけないな
と思って寄るの止めようかどうしようかって
すっごく迷いながら急いで帰ってきたら
まだ明りがついてたから。
いや、オレ寄るって言ってたのに
寄らなかったら寄らなかったで
美月ちゃんが心配とかしてくれたら、とかね
いろいろ考えてやっぱ寄っちゃったっていう…
ごめんね、夜遅くに」
私はどう反応したらいいかわからないし、
この人が何でこんなに私に構ってくれるのかもわからない。
「美月ちゃん今日さ。図書館で働いてる姿すごい良かったな。
タイトなスカートにエプロンしてんのが。
こう、ちょっとかがんで下の段とか本入れる時とか」
チェーンは外さなくて正解だった。
早く帰ってもらおう
「美月ちゃん」と言って水本が私を見つめる。
メガネの奥の目は一重の切れ長だ。
今初めて水本の目をきちんと見た気がする。
水本が私の目を見たままチェーンをぐいっと掴んだので
私は驚いて身を後ろに引いた。
「チェーン外して下さい。大声出しますよ?」
「…」怖い。
「もう!」と水本が言う。「大声は出しませんよ。
怖がらないでよ。外して欲しいな。
美月ちゃんの顔、ちゃんと見たい。
そいで、おやすみ、って言って帰りたい」
そう言う水本にドキドキしたが私はやっぱりチェーンを外さない。
「ハハハ」と水本が笑った。
「もう!美月ちゃん用心深いな~。
でもそれ、オレじゃなくてさ、高森美々にやんないと。
今日帰ってから来たんじゃない?」
私はじっと水本を見つめてしまった。
「やっぱ来たんだね。中入れたの?」
私がうなずくと、もう~!と水本は言った。
「オレにはチェーン外さないくせに」
「美々さんは勝手に入って来ちゃったの。鍵開けてたから。
けどオレン…じゃなくてミカちゃんリカちゃんが
一緒にいた時だったから」
「あ、そう。ならいいんだけどさ。
でももう入れちゃダメだよ」
「なんで?なんであなたが美々さんの事
そういう悪いような感じでいうの?」
同性を好きになるから?
「悪いっていうか悪くはないかもしれないんだけど
あの人すぐにいろんな人のこと好きになって、
すごく積極的なんだけど、
あの人相手が自分の事好きになると
もう何の興味もなくすんだよね。
すぐ次の人に行っちゃう」
興味を無くす、という言葉に反応してしまう。
興味無くされるの嫌だよなぁ…
「オレはさ、ゆっくり仲良くなりたかったんだよ。
最初はミノリと仲良くなってさ、
それからだんだん美月ちゃんとも。
でも高森美々が美月ちゃんのこと
どうにかしようって感じで見てたから」
「どうにかって?」
「それは自分のものにっていうか、
わかるでしょ?」




