おやすみ 1
「すごい」
私とミノリは踊り終わった二人に盛大な拍手を送った。
「すげぇ!すげぇよ。ちょーかっこいいー!」
ミノリが目をキラキラさせて興奮している。
すげぇを繰り返すミノリの頭に
二人はまた一緒に片手を乗せて
ぐらんぐらん、とミノリの頭を揺らせて撫でた。
じゃあ、と双子は言った。
「「また見せてやるから。おやすみ~~」」
「おやすみーー!」元気よくミノリが答える。
二人が玄関から出て行こうとするその時にドアが開き
高森美々が入ってきた。
まずい…玄関のカギをかけていなかった。
「「なんだよ?」」とオレンジ姉妹が高森美々に言うが、
高森美々はオレンジ姉妹のことをまるで無視だ。
「美月ちゃん」と高森美々が甘ったるい声を出してきたので
私は結構怖い。
「ケーキ買ってきたよ。食べよ?」
甘い声の綺麗な高森美々が甘い食べ物を私に与えようとしている。
かなり怖い。
あがって、とも言ってないのに高森美々は
するっともう台所の方へ足を運んでいる。
帰らないでオレンジ姉妹!
私は急いでオレンジ姉妹を呼びとめた。
「ミカちゃん!リカちゃん!ダンスすごかった!
喉乾いたでしょ?オレンジジュースあるよ?」
ドスドスとオレンジ姉妹が戻ってきた。
高森美々が買ってきてくれたケーキを一緒に食べようというと
オレンジ姉妹は承諾してくれた。
「ちっ!」と高森美々がオレンジ姉妹に舌打ちしたので
私は一人ドキドキする。
高森美々をボコボコにするオレンジ姉妹を一瞬想像したが
オレンジ姉妹は行儀よく座って
私が出してあげたオレンジジュースをごくごくと飲んだ。
高森美々が持ってきたケーキを
がつがつ食べるオレンジ姉妹を高森美々は睨みつけ、
ミノリはキラキラした目で見つめた。
どうしよう、と私は思う。
高森美々が居座りそうな気がして怖い。
ケーキを食べ終わったら
どうにかして3人一緒に追い出さなければいけない。
同性愛者に偏見はないし
好きだと言われて嬉しい気持ちもしたけれど
こんなに積極的に近付いて来られたらやっぱり怖い。
夫に愛されなくて
愛してくれる人ならもう誰でもいいと
思ったこともあるけれど、でもそうじゃない。
やっぱり誰でもは嫌だ。
普通に出会って
普通にだんだん仲良くなって
私がその人の事を好きで、
その人も私のことを好きだと思ってくれて
そしてずっと一緒にいて欲しいと思ってくれて
私もずっと一緒にいたいと思ってくれる。
あと半年で35歳になるバツイチ子持ちの私に
そんな人が簡単に現れるとは思っていない。
むしろ、そんな人はこの先現れる確率も
ゼロに近い事だって充分わかっている。
今こうやって高森美々が
積極的に私に近付いてきてくれているだって
相手が同性だということをさておいても
この人の非凡な美しさと、私の平凡さを考えれば
どうしても素直に受け止める事ができない。
「「じゃあごちそうさま~」」とオレンジ姉妹が言う。
「「でもどっちかっつーと、断然あんたが持ってきた
オレンジケーキの方がゲキうまだった~~」
だめだよ。帰らないで!私は心で叫ぶが、
「おやすみ、またね」
高森美々がオレンジ姉妹にうれしそうに言った。
いや、あんたも帰ってくれ。
私はオレンジ姉妹に目で訴えてみたが
オレンジ姉妹はそれには全く反応してくれず
「「バイバーイ」」と言って手を振って帰る。
「高森さんも!」とつい私は言ってしまった。
「あのごめんなさい…せっかくごちそうになったのに
今日はまだミノリも宿題してないみたいで
宿題させて早く休ませたいので」
高森美々が驚いた顔をしている。
「私も帰った方がいいの?」
「本当にごめんなさい。せっかく来てくれたのに。
子どもも明日早いから」
「そう…私は泊りたいくらいなんだけど
美月ちゃんに無理言って嫌われたくないから。
今夜は帰るけど、うちにも来てくれる?」
「…はい」すぐに返事できない私は正直者だ。
「ねぇミノリ?」と高森美々はミノリにも言う。
「お母さんと一緒に遊びに来な」
ミノリがチラチラと私を見る。
「いえあの…本当にごめんなさい。
この子すごく眠いみたい」
「わかった」と高森美々が言った。
「私は早く美月ちゃんと仲良くなりたくて。
でも美月ちゃんは私の事が今は怖いんでしょう?」
「いえ!」あからさまに否定し過ぎてしまった。
ふふっ、と高森美々が笑ったが、その顔が本当に綺麗だ。
「でも水本が」高森美々が憎々しげに言う。
「水本が美月ちゃんに手を出しそうで。
私もその前にどうにかしようと思って焦っちゃったのよね。
でも私、美月ちゃんに嫌われたら嫌だから」
「あの…ありがとうございます。
何ていうかいろいろ気を使ってもらって」
「ううん」と高森美々が極上を笑みを浮かべる。
「美月ちゃんが好きだから」
子供の前で言うのは止めて欲しい。
「あの、今日はごちそうさまでした。
今度は私がお菓子持って遊びに行きます」
「…本当に?」
「…はい」
「今度っていつ?具体的に言って?」
「え…えと、今度の…日曜日とか?」
「わかった。これ私の番号とメアド」私はメモを渡された。
高森美々は「楽しみにしてる」と言って帰っていった。




