オレンジのパウンドケーキ
私は仕事に戻ったが
高森美々と水本の事が気になった。
出会ってすぐであっても、
もし二人が私と同じくらいか、少し年上くらいの
普通の男の人だったとしたら、
例え自分にそこまで性的魅力がないと思っている私であっても
モテ期?くらいの軽いノリで二人の好意をただ喜べるのに。
あんな美人と8歳くらい年下の若い男に好意を示されたら、
その裏側にあるものをまず探らないわけにはいかない。
二人の言葉を鵜呑みにしていたら
夫との離婚以上の痛手を負うかもしれない。
何か私の思いもかけないような企みとか裏があるに違いない。
…いったいそれはどんな?
私はお金もないし何の権力もないし
ナイスバディでもないし、
私に近寄って来た所で何の得にもならないと思うのに。
帰ったらまずオレンジ姉妹のところに行ってみよう。
それでダンスを見ずに帰ってしまったことを謝って
それでさりげなく高森美々と水本のことについて
聞いてみよう。
オレンジ姉妹も仲良くなるには
ちょっと不安な面もあるけど
管理人や管理人の奥さんには聞きにくい感じがするし
残った高森弟は高森美々とやはり姉弟なので
いろいろ聞くのはまずいだろう。
私は仕事帰りによく寄るパン屋で
オレンジの入ったパウンドケーキを買ってやまぶき荘に帰った。
ミノリがどうしても一緒に行きたいというので
ミノリを連れて隣の隣、
オレンジ姉妹の部屋のドアチャイムを鳴らした。
ミノリが一緒にいてはあんまり聞き込みが出来ないが
ミノリはオレンジ姉妹に興味津々で
どうしても一緒に行くと言ってきかない。
が、出てきたのはオレンジ姉妹ではなく
私が挨拶回りの時にタオルを渡した
50歳くらいの痩せた女の人だった。
彼女は、というか彼女もオレンジ色のブラウスを来ていた。
そういえばこの人は最初会った時も
オレンジ色のシャツを着ていたように思う。
さすがオレンジ姉妹の母。…たぶん母だ。
聞いてみるとやはり母親だった。
ミノリがあまりにまじまじと母親を見ているので
肘で肩を小突いた。
あの姉妹の親がこんなにガリガリに痩せていることに
素直に驚いたのだろう。
オレンジ姉妹は仕事で7時くらいまでは帰らないという。
市の体育館の中にあるジムでインストラクターをしているのだそうだ。
私は事情を話し、オレンジのパウンドケーキを渡した。
「あらぁ…!」と顔がほころぶオレンジ母。
「私も娘たちも大好きなのよぉ」
良かった。オレンジパウンドケーキにして正解だ。
「あの子たちが帰ってくる前に
私が全部食べちゃったらダメかな」
オレンジ母がパウンドケーキの入った袋を
まじまじと見ながら言った。
ダメに決まっている。
姉妹と仲良くしたくて持ってきたんだから。
「3人で仲良く食べてください」
私は念を押して帰った。
オレンジ母には結局
高森美々と水本のことについては何も聞けなかった。
その足で私は高森弟のドアチャイムを鳴らす。
ミノリも高森弟を間近で見たいらしく
そのまま付いてきてしまう。
仕事に出かけているんだろうか。
何の仕事をしているんだろう。
手品でいろんな所をまわっているとか?
ガチャガチャとチェーンをはずす音がして
高森弟が静かに出てきた。
私は夕べの礼を言う。
「いえいえ」
そう答えて微笑んでくれた高森弟に
私は夕べ渡すのを忘れていた
引越しの挨拶の箱入りタオルを渡した。
「越した日にもお邪魔させていただいてたんですけど。
その時はいらっしゃらなかったので。
私昨日も渡すの忘れてて」
「ああ、それはわざわざ。
…もしかして美々が今日行きませんでした?」
言われて私はうんうんとうなずいた。
「やっぱりね。あなたが夕べ図書館に勤めてるって
言ってたから絶対行くと思った」
あなたのお姉さんはいったいどういうつもりで…
と聞きたいと思ったが
そんなことはもちろん聞けない。
「まあ僕から一応止めますけど
僕はあんまりあの人に対して力がないからな。
自分で気持ちをしっかりもって
頑張ってうまく生活していって下さい。
ここから当分は引っ越さないんでしょ?」
どういう意味だ?
「姉はたぶんあなたのことがすごく好きなんですよ。
まあ他にもすごく好きな女の人はたくさんいるんですけどね」
「…」
女好きの女の人って事?
いろいろ突っ込んで聞きたいが
今はすぐそばにミノリがいる。
「すみません。じゃあ失礼します」
結局すぐそう言って退散してしまう私だ。




