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急なアプローチ


休憩が終わって午後1時過ぎ。

職場に高森美々がやってきて私はひどく驚いた。

「今休憩中なの」高森美々が笑顔で言った。

夕べの水本と言い合っていた時の顔と全然違う。

柔らかくて優しい顔をしている。

昼間見ると夕べよりもっと輝いていて、もっと美人だった。


私は取りあえず夕べの礼を言う。

「弟さんの手品がもうすごいすごいって

帰ってからも子供がずっと言ってました。

ホントに凄いですよね」

「あぁ」高森美々は急につまらなさそうな声を出した。

「あれくらい私も出来るから」

「え!?そうなんですか!それはす…」

「ウソだけどね」

「え…」



高森美々の職場は市役所だと管理人が言っていた。

市役所と図書館は隣り合った建物なのだ。

実際渡り廊下でつながっている。

夕べ高森美々の職場を聞いたときに

お隣さんだな、とは思ったのだ。


貸出から返ってきた本を本棚になおす作業中を続ける私に

高森美々がまた美しい笑顔に戻って言った。

「たまたま休憩中に図書館に来たんじゃないんだよ。

美月ちゃんに会いに来た」

「え…あ、そうなんですか?」としか言えない。

職場が近いからか?


単純にそう思った私に高森美々は言った。

「前から私知ってたよ。

美月ちゃんがここで働いてたの。

ずっとかわいいなと思ってたもん。美月ちゃんのこと。

友達になりたいと思って時々見てた。

うちのアパートに来た時ラッキーだと思ったし

運命だと思ったんだよ」


ここに来て私はこの人が夕べ何回も水本に

席を替われと言っていた意味がわかった。

…この人、私の事が好きなの?

え?この人、私の事が好きなの?

この人、私の事が…


いや、友達になりたいって言ってくれたのだ。

…でも「ずっと可愛いと思ってた」とか

30過ぎの女が、

友達になりたいと思う30過ぎの女には言わないんじゃないのか?

それは男が若い女に近付く時に言う言葉なんじゃないの?


この人は女の人だけど

もしかしたら女の私の事が好きって…


私はその考えを瞬時に心から追い出して聞いた。

「休憩て1時間ですか?」

うん、と高森美々はうなずき、私に休憩はと聞くので、

私は休憩から帰ったばかりだと説明した。


「残念。一緒にご飯食べないかなーと思ったんだ」

「…ありがとうございます。

また今度ぜひ…って言っても私いつもお弁当なんですよ」

また誘われるのをやんわり断るつもりでそう答えた。

「そっかー。いいな。

私も美月ちゃんのお弁当食べたい。

あのね、美月ちゃん。私美月ちゃんのこと好きなんだけど」


ダイレクトに言われた。

そうか、やっぱりか。

いやでも…何だろう。

こんなに綺麗な、付き合える男の人なんかよりどりみどり、

って感じの人が私を?


…ないな。

それは何か別の目的があっての好きな振り?

からかうためか何かの?

それとも本当の同性愛者で私ぐらいのレベルの女が

完全なストライクゾーンとか?

それか何かの罰ゲームか何かで…


いや、わかんないな。

何でこんな事になってるのかわからない。


私は生まれてから1回も、女の人を同性愛的な感じでは

好きになった事はないし、

女の人から同性愛的な感じで好かれた事もないけれど、

今、高森美々に好きだと言われて、

嫌な気持ちはしない。

かと言って嬉しいかというとそうではない。

私は昨日初めて高森美々の存在を知ったし、

夕べだってあまりしゃべらなかった。

高森美々は私の事を前から見てたって言ったけれど

それは本当のことだろうか?


そう、嫌な気持ちにはなっていないが、

ちょっと不安な気持ちにはなっている。

話が急過ぎる。


「好き」高森美々は恥ずかしい素振りも見せず、

ダメ押しのようにもう一度言った。

「…」どうしよう。

ちょっと怖いと思っている私は

どうやってこの場から逃れようかばかりを考える。



「美月ちゃん!」

後ろから呼ばれて、見ると水本だ。

ここは集合場所か?

「ちっ」と高森美々が舌打ちをした。


「やっぱり来てたか」

そばに来るなり水本は高森美々に冷たく言った。

「あんたこそ。寄り道しないで早く仕事に行きな」

高森美々が憎々しげに水本に言う。


水本は仕事に行く途中でここに立ち寄ったらしい。

何か借りたい本でもあるんだろうか?

良かった。立ち寄ってくれて。

高森美々との話を遮ってくれた形になって

私はつい水本に微笑んでしまった。

それを見て高森美々が眉間にしわを寄せる。


「駅の裏なんですよ。オレの職場の予備校」水本が説明する。

「早く行きなよ」と高森美々がまた言った。

「ここに寄るためにすげー早めに出て来たっつーの。

だいたいあんたに関係ねぇし。あんたこそ早く職場に戻れよ」

「…何か本探しに来たんですか?」水本に聞いた。

「いいえ。オレが仕事終わってから美月ちゃんとこ

寄ろうと思ったんだけど、

時間遅いとゆっくり顔見れないなと思ったんで

ちょっと早めに出て来て寄ってしまったっていう…」


え、この人ももしかして私の事…

いや、例え水本の今の言葉が私に好意を持ってる風に

聞こえたとしても、それを鵜呑みにしてはいけない。

おかしいだろう、どう考えても。

この二人は何だってこんな事を私に言うんだ?

二人仲悪い振りをして本当は仲が良くて

一緒になって私をからかって遊んでるとか?


仕事中さぼってると思われたら嫌だなと思う。

ここでこんな話をしているのを

主任に見られでもしたらとてもまずい。

どちらにしてもこの二人と深く関わると

この先もっと面倒くさい事になる予感だけは

はっきりと感じ取れた。

二人とも早く立ち去ってくれたらいいんだけど。


にらみ合っている二人を見ながら

「ごめんなさい」と唐突に嘘を言う事にした。

「なんか…奥の事務所で呼ばれてるみたいなんで。

失礼します」

二人が「あ…」という顔をしたがそんなことは知らない。


「またね」と高森美々が言った。

あんまり職場に訪ねてこられたら困る。

「じゃあ行ってきます」と水本が言う。

無視したかったが出来なかった。

水本には高森美々との気まずさを助けてもらったようなものだし。

「…行ってらっしゃい」

私が言うと水本はにっこりと笑った。

すごくうれしそうだ。

それを見て高森美々が嫌そうな顔をした。


「じゃあ仕事から帰ったらまた行きますね」

うれしそうなままの水本が私に手を振りながら言った。

仕事遅いと行けないから今来た、って言ってなかったか?




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