表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/61

新しい朝

ここの住人は全員変わっている。

あの美しい管理人の奥さんでさえだ。

失礼な言い方だとは思うがあの歳であんなに機材を扱えて

しかも何かすっとぼけたように見えるあの管理人の奥さんだなんて。


だんとつはオレンジ姉妹だ。インパクトがあり過ぎた。

そういえば私が引越しの挨拶をした、

オレンジ姉妹の部屋にいた人は誰だろう。

オレンジ姉妹とは微塵も似ているところがなかたけれど

双子の母親なのだろうか。


夕べはやっぱりオレンジ姉妹のダンスを見ればよかった。

少しあそこで休ませてもらって最後まで居るべきだった。

オレンジ姉妹の機嫌を損ねてしまったのが気がかりだ。

挨拶とか無視されたりしたらどうしよう。


高森弟のアレは、もう手品ではなくて魔法だ。

酒に酔っていて私の目が回っていたのかもしれないけれど

それでもあの手さばきは異常だ。

今考えればちょっと怖い気さえする。

…いや、私が酔っ払って頭がぐらぐらしていた事を差し引いても

ちょっとじゃなくて結構怖い気がする。


あの動物たちはいったいどこに行ったんだろう。

いやその前に、あの動物たちはいったいどこから来たんだろう。

確かに私はあの動物たちが、

高森弟のポケットやジャケットの内側やシルクハットから

現れるのは見ていたけれど…。


高森弟と全く似ていない美人の高森美々は

水本に絡んでいたと思ったら弟の手品の時には姿を消して

そのまま私が帰るときまでもう現れることはなかった。

やはり水本と仲が悪いんだろうか。

高森弟とも仲がいい感じではなかったけれど。



とりとめもなくトイレの便器に腰かけたまま

ここの住人について考えているとだんだん不安になってくる。


私はここでミノリと二人

平穏な新しい生活を営んでいけるのだろうか。

わずかな貯金は将来のためにとっておきたいから

すぐにまた引っ越しをするようなお金の余裕はどこにもない。


だいたいここの家賃は相場より安いのだ。

アパートにしては結構広く間取りが取られているし、

同じ広さのアパートだとたいていは

ここの家賃の2倍から2.5倍だ。しかも学区内を探すとなると

たぶんもうここよりいい物件は見つからないだろう。


ミノリに釘を刺しておかなきゃいけない。

ここの人には誰でも、挨拶をきちんとして

そしてあんまり馴れ馴れしくならないような感じで

できるだけここでながく、

何事もなくうまく生活できるように。


起きてきたミノリとあわただしく朝食を取りながらその話をすると

「うぜぇ母さん」と私に目も向けずに言った。

「へ?」

「うるさい。ブス!」

アレ…ミノリの様子が引っ越す前に戻っている。


私が夫のことでイライラしはじめて

ミノリが小1くらいから

ミノリの前でも夫にギスギスしたもの言をするいことも多かったから

ミノリもどんどん私に対して口汚くなってきた。

引越しが決まって少し落ち着いてきたと思っていたのに。


「ミノリ?」と呼んでみる。

が、ミノリは無視だ。

「ミノリ?」

「うるせぇってブス!ブスブスブス!」

「…あんた…前みたいになってきてる」

またミノリは無視だ。

「ねえ、無視すんの止めて」

「なってない。これが普通

だって母さんはブスだから」

「普通じゃない。

それにお母さんはブスじゃない。

そんなに美人じゃないし、もう若くもないけど

でもブスじゃないの!

もう1回言ったらぶっとばすよ?」

「しつこいからだよブスなのに」

「だから!ブスじゃないって。もうぶっ飛ばす!」

ミノリはご飯をかき込んでもう一度私に

「ブス!!」と叫んでから席を立った。


「ねぇ、もうカエル見に行くのもダメなんだよ?」

そう言ってもみのりは無視だ

「ダメだよ。よその部屋に入っちゃ。ねぇ聞いてんの?」

「うんわかった!」急に物わかりよく答えるミノリだ。

「もう行かないから」

こいつ絶対に行くつもりだなと思う。


「嫌い」とミノリ言ってみる。「あんたのこと嫌い」

「いいよ」とミノリが言う。

「とにかく!もうちょっとなれるまで

あんまり軽々しくよその部屋に入ったら

もううちに入れないからね」



ミノリと一緒に外に出る。

良い天気だ。

ミノリはここから1キロほどの小学校に徒歩で、

私は職場の図書館に自転車で向かう。


アパートの敷地を出るときに2階の窓が開く音がして

名前を呼ばれた。


「ミノリー、美月ちゃーん」

振り返って見上げると水本だ。

手を振っている。

ミノリが手を振り返して私はペコンと頭を下げた。

「いってらっしゃーーい!」

大きな声で送ってくれるので恥ずかしくなる。

「いってきまーす!」とミノリが答えると

水本はものすごく嬉しそうに手をぶんぶんと振りながら、

「美月ちゃんにブスって言うな~~」と叫ぶ。

私もミノリもびっくりする。

「ほら!でかい声で言うから。隣に聞こえてたじゃん」

私はミノリを睨みつけた。

「だってしょうがねぇ。母さんがマジでブスだから」

そう言うとミノリは行ってきますも言わずに急に全速力で走りだし

私からぐんぐんと遠ざかっていった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ