えっナニソレ怖い
見てくださってありがとうございます。
大丈夫かなこの人的な文章がありますが、悪しからず。
あああ、つねった頬っぺたが痛い。強くつねりすぎてしまったようでとても痛い。私の馬鹿。
そして本音を言ってしまうとどうしていいか分からない。自分の頬がこんなにも痛むのは何なのか、この異常なまでの胸騒ぎは何なのか。
おそらく今の私の顔は酷いことになっているだろう。まさに顔面蒼白。ひくり、と顔が引きつった。
「ええと、」
どうしようどうしようと混乱する頭を整理しようと、掠れた声で呟いてみるものの、特に何も起きるというわけではないようで。相変わらずの晴天、憎らしくなるほどの心地よい風が吹く。
何なんだ本当に、と草をブチリと引き抜いた。何だよ、何がしたいんだ。何故こんなに天気が良いの?馬鹿にしているの。
いや、草に罪なんてものはなく、全ては自分のせいなのだけれども…引き抜いた草をブンっと投げる。ふわりと風に乗って、草は舞った。
そんな絵になるような光景を見ても、わけのわからない私にとってはどうでもいいことでしかなく、眉を顰めて腕を組む。
どうして夢でないのか。本当になんなのか。私をおちょくっているのか私自身が。
何だっていうんだよ。
百歩譲っても、何千歩譲っても理解できないこの状況、どうしてくれようか。
というより、出来れば理解したくない。
私の記憶が正しければ、私はついさっきまで数学を勉強していたはずなのだ。高校の、教室の、もっと堅苦しいところで。
さらに、今日は朝から雨だったような。どんよりジメジメとした雨だったような。青空なんて関係の無い天気だったような!!!
「どこが雨だと!?」
晴れてるじゃないか!眩しくなるくらいの空だけども!?雲一つ無いけども!?
「おかしい!どう考えてもおかしい!私はおかしくなってしまったのかもしれない!」
叫んでみるも、変化はない。
何故、どうして、これは何。じわり、襲いくる焦燥感に滲む汗。
乾いた笑いを一つ、落とした。
例えば。
例えばこれが、本当に夢ではない現実なのだとしたら。
私はおそらく、何らかの能力を開花させたことになる。ほら、瞬間移動の能力だとか、あるいは何か別の…
「んなわけねーだろーが!」
あの数学のタイミングで!?
どう考えてもねーよ!もし開花しているのだとしたら世の中の人皆、瞬間移動能力を持つ能力者だよちきしょうめ。
ああああどうしよう。能力開花は望めないことがはっきりしてしまった。死亡フラグすぎて死にたい。現実から逃げたい。切実にそう思う。
とはいえ、これが現実であると決まった以上、どうにかして生きなくてはならないのは事実だ。甘ったれの女子高生には酷すぎる事実だけども。
だから、そんな甘ったれの女子高生が良い策を編み出せる筈もなく。何か生き残るための物を私は持ってはいなかっただろうか、とスカートのポケットに手を突っ込めば、いつのだか分からないイチゴの飴が一つ。
なん…だと…?
「飴だけかいィィィイ!」
自暴自棄。やけくそ。盛大に叫びながら包みを剥いで、甘い甘い砂糖の塊を口の中に放りこんだ。
じわり。少しだけべとついた砂糖の塊は予想外に美味しくて涙がでる。どうしようもなくなって、へたん、と座り込んだ。
ああ、私は死ぬのだ。やけくそになってしまったばかりに貴重な食料を食らってしまったのだから。
その前にまず、どう見ても食べられるとは思えない雑草しかない草原で、ポケットに飴一つしかないという時点でアウト。
ああ、死んだ。死んだよ私。
すっ、と冷えていく心に、今なら悟りを開けそうだなと思った。
瞬間、妙に艶のある紫色が、ぼんやりと曇る視界に舞う。ひらり。さらり。
「んー…この様子だと大丈夫そうね」
「!?」
何か紫の物体に気を取られていたからだろうか、突如聞こえた声にとても驚く。口の中の甘い飴ちゃんがガリっと音を立てた。
***
さて。目の前に立つのは、ないすばでぃなお姉さん。
さらさらと風に舞う紫の物体は、彼女の髪であるらしい。紫色の髪なんて見たことも無いのだけども、彼女の頭に存在しているのだから、それは髪なのだろう。カツラではないと思う。直感的に。違和感がないから、カツラではないと思うけども…いや、カツラかもしれない。紫色の髪の毛なんて、物語の中だけだ。
まあ、別に、彼女の鮮やかな紫がカツラだとしても、それは重要な問題ではない。
重要な問題は、いきなり現れた彼女が何者か、ということだ。
そう。彼女は何者か。
訳の分からない土地で、いきなり現れた紫色の彼女は、何者なのか。
考えても、何も分からない私には見当もつかない。わけわからない。頭痛い。
ぐるぐると回る思考に混乱して彼女を見ると、(おそらく私の顔は、とても阿呆っぽい感じなのだろう)彼女は楽しそうに笑った。
「あら、大丈夫そうね。私はアール」
いや、全くこれっぽっちも大丈夫ではないのだけども。
状況が飲み込めない。何故私は自己紹介なぞされなくではならないのだろうか。いや、確かにこいつは誰だと思ったけども、それは当たり前のことで。
何故、紫の彼女が私のことを知っているような感じなのだろう。
紫の長い髪。スラリとした手足はとても羨ましく、出るとこ出てる、そんな色っぽい体つき。私の知る限り、こんなモデルさんや女優さんみたいな美しい人知らない。
そして彼女は、フフンと腕を組んだ。
「アナタ、異世界の子ね」
なん…だと…!?
パクパク、とまるで金魚みたいに口を動かす。息の仕方を忘れてしまったように、頭が爆発しそうなくらい真っ白だ。そんな混乱の片隅で、ああこれが噂に聞く絶句というものか、と、妙に冷静な自分がいるということも分かった。
「いろいろ説明するから私の家に行きましょうか。はい、転移」
混乱で固まる私の手をアールさんがギュッと握って、そして、そして、
なん…!だと…!?
甘い飴は、カケラと化した。
***
これはなんぞ。なんなんぞ。
一瞬にして変わってしまった周りの風景。理解不能。死んだ。
呆然とする私の手を引いて、アールさんは森の中の可愛らしい家に招き入れる。なんだかもう全然ついていけないんだがどうしよう。
そしてあれよあれよという間に、気付けば良い香りのする紅茶を持たされて椅子にちょこん、と座らされていた私。なぜ。
ゆらゆらと立ち上る湯気を見つめ、カオスな頭を整理しようと試みるも、混乱しすぎてどうしようもなく。美しい紫の君も姿を消していた。奴め、どこへ消えた。
どこか靄がかかってしまったように曇る視界で、ベージュのカーテンがふわりと揺れる。ドキドキと早鐘を鳴らす心臓を落ち着けようと紅茶を一口啜った。
よし。
分からないものはパスするとして、とりあえず目先の事から考えよう。
まずはだな…
この紅茶は、なんの紅茶だ?
アップルティーか?飲んだ事がない美味しさだ。うーん…紅茶界の革命児やぁ…。
「ふふ、落ち着いたかしら」
「うおわ!」
目の前に、紫。現実逃避をして紅茶にうっとりしていた私は身をそらす。ふわり、とまるで春の陽だまりのように優しく笑った紫の美人、もといアールさんは楽しそうに口元に手を当てた。
まるで、背景に薔薇を飛ばしているような美しい絵面に息を呑む。喉でくっ、と小さな音が鳴った。
目が、そらせない。淡い日差しに光る絹のような髪だとか、楽しげに細まる優しい瞳だとか。全てが、私の心をつかんで離さない。
私は、ここまで美しい人に出会ったことがなかった。パーツの一つ一つが、まるで神様がわざわざ丁寧に配置したように、美しい。滲み出る気品、人柄、全てにおいて彼女は美しかった。
「驚くのも無理ないわねぇ。大丈夫かしら」
嗚呼。そのぷっくりとした艶やかな唇から紡がれる音のなんと心地よいことか。
ビリビリ、と痺れるような感覚を残して、彼女の声は私を包む。
うっとりと惚けてしまいそうになったけども、拳をぎゅっと握りしめて、私は震える口を開いた。
「なんとか、大丈夫です、けど、でも、ここは」
息が詰まる。アールさんが、なぜだか悲しそうな目でこちらを見ていたから。
「ここは、どこなんです?」
答えは、もう既に私の中で出ていたような気がして。それでも、認めることは出来ずに、こうして誰かに否定して欲しくって。
ほんの少しの可能性に縋り付く私と、悲しげに俯く美人さん。
まったく。これじゃあ、聞くまでもないじゃないか。
「…此処は、あなたが住んでいた世界ではないの」
ほら、ね。
くらり。視界が揺れる。
「元の世界にはもう二度とおそらく…」
ぐらり。世界が歪む。
この人は、何を言ってるのだろう。私には、理解出来ない。いや違う、私が、理解したくないだけ。
「…でも、私が、あなたを守るから。大丈夫、心配はないわ」
そして、と続けた美人さん。強い意思のこもった瞳が、私を貫いた。
「あなたに、あなたを守る術も、教えるから」
だから、だから、
セカイをうらむなんてこと、しないで。
何かが、ぐしゃり。潰れてしまったような。そんな気が、した。
本当にすまないと思っている




