銀色と狂気
ピカピカに磨きあげられた大理石の床。美しい装飾の施された壁。ここは王宮の、魔術団本部。王宮医術師になるにあたって、私は今、アールの上司を名乗る者の前に立っているのだが。詰まるところ、人生の詰みってやつに遭遇しているわけだ。
「お久しぶりですね、小石の少年」
誰か嘘だと言ってくれ。
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皆様。少し前、私がテロリストフラグを立ててしまったことを覚えているだろうか。…そう、転移と言う名の爆発を起こしてしまったことを。
声を発することが出来ず、ゴクリと喉を鳴らす。誰もが見惚れてしまうような微笑みを浮かべ、こちらを見据えるのは、その時の彼。警戒したトキワちゃんの毛がブワリと逆立った。
「ヒカリ?知り合いなの?」
顔を覗き込むアール。引きつった笑みを貼り付けて、汗でしっとり湿った手のひらで拳を作った。ルイスの眼がすっと細まる。良い状況と言い難い空気に、くらくらするような気がした。
「ふふ、冗談です。ほんのジョークですよ。私達は初対面…そうでしょう?」
ギラリと光る、彼の目。まるで捕食者だ。アールは気付いていないようだが…ドキドキと鳴る心臓が痛い。断じてこれは恋なんかではない。恐怖によるものだ。
「さて、私は王宮魔術団団長、リュザイル・ペンシヴァータ。あなた方を王宮医術師と認めましょう」
さて、医術団本部へ向かいましょうか、と言う彼の眼は、私を捕らえていて。正直、生きた心地がしなかった。蛇に睨まれた蛙の気持ちが痛いほどわかる。ああああああ…。
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魔術団本部と医術団本部は少し離れているらしい。移動する私達。長い廊下に、靴音が響く。誰にもすれ違わないんだがどうだろう。ちょっと怖い件について。
「ああ、すいません。少し用事を思い出しました。アール、彼らをお願いします」
先導していたリュザイルさん…リュザイル様…が立ち止まった。びくり、と体が震え、思わず、じり、と後じさりをする。彼がフワリと笑ってアールの肩を叩いた。アールは一つ頷いて歩き出す。
…良かった。これで死亡フラグは回避された。だって怖いもの。めっちゃ怖いもの。発狂しそうなくらいだものォォオ!
ほっと胸を撫で下ろし、一歩を踏み出そうと足を上げた瞬間…どす黒い声が、耳元で聞こえた。
「…来い。逃げられると思うな」
「むごっ」
拉致られフラグが立ちました。テラワロス。
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目の前にいるのは、銀色の彼。この場所にいるのは私と彼だけだ。目の前にはこの世のものとは思えないほどの美形。柱の影で、詰め寄られた私。はたから見るとドキ胸な状況だけれども。
「ここは感動の再会の場面でしょう?さあ、私の胸に飛び込んできなさい。うっかり手が滑ってあなたを刺してしまうかも知れませんがねぇ」
なんて物騒な再会。彼の右手にはギラリと光る銀の剣。どう考えても死亡フラグです本当にありがとうございました。
「ほら、早く。…早くしないと、もっと手が滑りますよ」
何が楽しいのだろうか、微笑みを浮かべて剣の切っ先を私の喉元へ突き付ける彼。怖くて、怖くて、足が震えた。
ああ、ここはやっぱり異世界なんだ。どうやら私は平和ボケをしていたようです。恐怖と緊張で押し潰されそう。
そしてふと、気づいた。もし、私がここで死んだとしたら?そうしたら、元の世界に、もしかしたら、もしかしたら。
「…何故、笑っているんです?どうしてそんなに…」
「爆発、したことは、すいません。申し訳ない、です。だから、だから、」
早く殺して。
人間、極限にヤバイ状況に陥ると、可笑しくなってしまうものなのかもしれない。口角が自然と上がり、くすくすと笑いがもれた。
驚いたような顔で私を見る彼。私はくすくすと笑いながら剣を掴む。私は相当おかしくなっているらしい。手から赤い血が垂れたことに、何も感じなかった。
「ね?早く、殺してよ。ざっくり、ぱっくり、殺してよ。そうしたら私、」
帰ることができるかもしれないんだから。
そう言って、私はニタリと笑った。
そこからのことは、あまり覚えていない。鋭い風が吹き荒れて、私の視界はグラリと揺らぐ。ただ、トキワちゃんの声が、聞こえたような気がしたことは、気のせいではないと思うのだ。
宿題がすっきり終わりました。
今回のお話はすっきり終わりませんでした。
シリアス突入ですね、わかります。
おや?番外編フラグが立ったようですね。
どうでしょう。少しお休みになられてはいかがです?
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