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異世界フラグが立ちました  作者: ちょむ
第四章 久しぶりに会った人って何かが変わったように見える。
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いろんなフラグが立ちました

遅くなりました。すいません。


 ゆらゆら、ゆらり。


 暖かい。気持ちがいい。体から、力が抜けていく。


 ふわふわ、ふわり。


 ゆったりとした、浮遊感。目を閉じている私は、ふ、と口角を上げた。だって、こんなに気持ち良いんだよ。ああ、このまま溶けてしまいたい。とろとろ…ってさ…

 瞬間、私の体の感覚が、無くなった。まるで、本当に溶けてしまったように。ああ、これでもいいや。むしろもっと溶けて…とろとろ、って…


「おねーさん、駄目だよ」


 可愛らしい声がして、はっ、とした。そして、体の感覚が一気に戻る。ぎゅっと目を瞑り、眉を寄せ、不快感を隠しもせずに顔を背けた。

 

 今のは誰。私の眠りを妨げたのは誰。どうして起こすの、止めて。止めて。


「おねーさん、駄目だよ。起きて。」


 起きる?どうして?どうして私は起きなくちゃいけない?そもそも、起きるってどうやるの?あれれ?起きるって何?


「駄目だってば!おねーさん!空気を吸って、吐いて、目を開けるんだよ!」


 空気を吸う?吐く?そういえば、私、そんなことをしていたな。なんのために?それは…、あれれ?なんのためにそんなことしていたんだろう。

 あらら?私は誰?ここは何処?


 というより、


 私って、何だった?


 私って、人間だった?人間?ニンゲンって、何?どんな形をしていたの?そもそも、本当にニンゲンだったの?あれれ?だった?じゃあ、今は、何。


「おねーさん!」


「うわっ!」


 掴まれた腕に驚いて、体を起こした。心臓はドクドク脈打って、不規則に息を吸ったり、吐いたり。目は、閉じたままで。


「おねーさん、あなたは誰?」


「私?…私は…」


 そうだ、私は人間だった。人間の、女の子だった。それで、それで……


「私は、ヒカリ。久保井 光。」

 ぐっと目を開けると、真っ白が目に飛び込んだ。


「ヒカリおねーさん…おかえり」

 ごめん。状況が、全く理解できないんだけど。



****


 やあ諸君。混乱していたけども復帰したヒカリさんだよ。復活したんだよ。…いや、ちょっとまだ駄目かも。


 でね、少し状況整理させてくれると嬉しい。まぁとりあえず、ここって前にかっちゃんと会ったあの真っ白な空間じゃね?とか、色々あるけどちょっといいかな。


「君、誰?」


「そっかぁ、そうだよねぇ、知らないよねぇ、当たり前田のよっちゃんだよねぇ…」


「うん、誰?」


 ひとまず、私の目の前で一人納得している、黒髪の少年をどうにかしてはくれないだろうか。さっきから話が通じない。何これ怖い。言葉通じてるけど通じない恐怖。どうしよう。

 でもね、これだけは伝えたい。だって、私が起きることができたのはこの子が一生懸命私を呼んでくれたからなんだし。


「…ありがと、ね」


「えっ?何で?」


 いや、ちょ、おま、何で?何で?キョトン、とした顔の少年に拍子抜けする。はぁ、とため息をついて口を開いた。


「君が僕…私を呼んでくれなかったら、あのまま消えてたかもしれないんだ。」


 そう。私は、溶けて無くなってしまっていたかもしれないんだ。だってあの時、完全に自分が解らなくなっていたし、今考えてみると、凄くぞっとする。


 だからありがとう、と言うと、少年はもっと驚いたような顔をした。何で?


「当たり前でしょ?それって」


 えっ、ナニソレコワイ。当たり前なの?私が間違っているの?私の人生が間違っていたの?そうなの?


 さも当然のように首を傾げた少年に、私は言葉も出ない。初対面なはずなのに、どうして?


「どうして、当たり前なの?」


「我が君の大切な人、だから?」

 疑問形で聞かれてもお姉さん困るんだけどな。つーか我が君って誰だ。私が我が君の大切な人だって?知らないぞ、アールのことか、そうなのか?


 私が返答に詰まって黙っていると、くりくりの真っ黒お目目で少年はにっこり笑った。


「我が君はね、ヒカリ姉が大好きだよ。凄く凄く大好きだよ」


「…うん?」


 何だ何だ、照れるぞ。つーか、だから誰だよ我が君。私を大好きな我が君って誰だよ。分かんないよ、見当もつかん。あっ、何かちょっと怖くなってきた。


「だからね、今回のは、ただの前哨戦なんだ。言い換えれば宣戦布告だよって我が君が言ってた」


「えっ!?」


 何か怖い台詞が飛び出したぞ。にこにこしながらかなり怖いよこの子。しかもワケわかんないよ。どうしよう。


「あの、ね。ごめんね、よくわからないし、話の腰を折るようで悪いんだけど…ちょっといいかな?」


「うん、いいよ」


「ここは、何処かな?私、もっと埃っぽくて、危険な薬草みたいな香りがするじめじめしたお店の中にいたはずなんだけど…」


 少し気付くのが遅かった気がするのだが、私はハイトさんの店にいたはずなんだ。それで、アールが帰ってきて、泣いて、抱きついて…いや、抱きついて、泣いて(順番はどうでも良かったね、ごめん)、それで……、それで?私、どうしたっけ。記憶が無い。


 靄がかかったように曖昧な記憶をほどくようにこめかみを揉む。…いや、揉んでみたところで気休め以外の何物でもないのだけども。そんな私に、少年はえくぼを作った。


「ここ?ここはね、我が君の世界。我が君が支配する世界だよ」


「世界を支配する、の?」


 こめかみを揉むのを止め、理解し難い厨二な言葉に眉を寄せる。そして首を傾げた。だって、世界を支配するとかナニソレ。我が君ってどんな厨二病末期だよ、もう。


「ふふっ、我が君、嬉しいだろうな。ヒカリ姉がこの世界に来てさ」


「…そ…うかも、ね」


 ゾクリ。少年の笑みの質が、ガラリと変わった。頭の中で鳴り響く危険警報。逃げないと、ニゲナイト、


この世界から戻れなくなるかも。

「…戻るには、どうしたらいいの?」


「戻る?…何で?何処に?」


 キラリ、と光る、少年のぬばたまの瞳。いすくめられたように、私は動けない。チリチリ…と首の後ろが痛む。


「だってほら、ね?」


 言葉が緊張で詰まってしまう。こんなに声を発するのに緊張したことってあったっけ?ないよな、ないない。でも、何て言えば最善なんだろう。何を言っても駄目な希ガス……じゃない、気がする。でも、何かを聞き出さないと、私は本当にここから出られなくなりそうだ。



「我が君の命令は、ヒカリ姉をここに連れてくること。下っ端だもの、それ以上は知らないよ」


「下っ端?仲間がいるの?」


「そんなことヒカリ姉が知って何になるの?」


 ガラリと変わった少年の表情。びっくりするくらいの無表情。冷たい視線に、ヒヤリとする。ゴクリと喉を鳴らし、汗を拭った。

 この子、ただ者じゃない。この少年は、少年の主は、何者なんだ。分からないことだらけで、もう頭が痛いよ。


 こちらを見つめるぬばたまの瞳に吸い込まれそうで、意識がふらつく。唇をぎゅっと噛んで自我を保った。口の中に鉄の味が広がって、鈍い痛みに眉をひそめる。どうしよう、考えて考えて、気付く。思わず、抑えきれない笑いが漏れた。


 だって、聞き出さなくたっていいんだ。私には、必要ないんだもの。まぁ、使うのは久しぶりだし、気が進まないけども。だって少し、罪悪感が残るから。私の能力は、さ。


 訝しげにこちらを伺う少年を見て、カチャリと眼鏡を外す。ブゥゥン…と右目に高濃度の魔力が集まって、少年の怯えた顔が目に映った。


「な…に、それ…」


「これ?…私の、目だよ」


 まばたきをすると、ぐらりと体が揺れ、一瞬、カメラのフラッシュのような光が辺りを包む。何が起きているのか分からないまま、私の意識はフェードアウト。かすかに聞こえた、泣きそうな少年の声が耳にやけに残った。



****



 あったかい。私、戻れなかったんだろうか。…いや、でも、何だか…。


 ドキドキしながら目をゆるりと開ける。目の前に、スベスベした肌色の何かがあった。真っ白じゃない、大丈夫だと安堵。そして、目の前のスベスベした感じの物体が何なのかを考えていると、頭上から声がふってきた。


「おはよう、ヒカリ」


「!?」


 アールだ。そしてこの目の前の物体は、アールの…アールの、


「嫌だ、ちょっと、あんまり見ないで、恥ずかしいから」


「や、ごめんなさい」


 けしからんマシュマロだ。全く。犯罪だよ。決して羨ましいとか思ってるわけじゃないよ。うん。全然気にしてないよ、うん。


「よく寝たかしら?ヒカリ、泣き疲れて寝ちゃったのよ」


「そう…なんだ。ごめんなさい」

 アールの言葉に目を伏せる。そのままアールの腕から抜け出して、置いてあった眼鏡をかけた。ぐるりと見回すと、見慣れない部屋。トキワちゃんを撫でながらにこにこしているアールに、私は聞いた。


「ここ、どこ?」


「ハイトの家。借りたのよ」


 ふぅん、と相槌を適当にうち、カーテンを開ける。うん、今日も良い天気。……え?ちょっと待って、何この眩しさ。太陽頑張っちゃってますやん。ざぁっと血の気が失せる。今、何時。まずい、どうしよう。


「…ヒカリ?」


 訝しげなアールの声が響いた瞬間、爆音が聞こえ、家が揺れた。さっと素早い身のこなしで私を抱くアール。私は震えるだけだった。…どうしてって?だって、魔王あいつが怒ると凄く怖いから。


「…ハイト!?何が…」


 人影に言葉を切ったアール。私は目をつぶり、震えるトキワちゃんを抱き締める。魔王あいつが降臨したんだって、分かった。

「…お前、何してんの」


 冷たい、冷たい、声。アールでさえも息を呑むような威圧感。私とトキワちゃんは、本能的にアールの腕から飛び出して、




土下座した。



「ルイスごめんなさい!無断外泊すいません!もう二度としません!」

『我も深く反省してるぞ!てへぺろって感じだ!』


「ちょっと黙ってろトキワちゃん!本当に反省してるんです、ごめんな…………え?」


 馬鹿なトキワちゃんの頭をひっぱたき、頭を下げようとした瞬間、頬にふわりと水色の何かがかかる。じわじわと感じるぬくもりや、体が軋むほどの圧迫感に、いや、色々なことに息がつまった。


「…心配、したんだからな…」


「いや、あの、ルイス君?」


 耳にかかる吐息。粟立つ背中。いやいや、ちょ、まっ、え?ナニコレ?なんだろうこれ、どういうことですか?


 あまりの衝撃に、トキワちゃんが石化している。だって私、ルイスに抱き締められ……なんで!?

 私はルイスの腕の中、驚きに目を開いた。いやいや、おかしいよね、ちょっと。何で私、抱き締められてんの。ナニコレドッキリ?

「あの、ルイス、とりあえず離し…ぐぇっ」


 このままだと色々危ない、特に心臓とか。そう判断した私はルイスを叩いて抵抗してみたのだが、ぎゅうっと強くなる腕の力に、かえるが潰されたような声がでる。ぐ…ぐるじい…。本当どうしたのルイス…、私を殺す気なの?


「帰ってこないから……」


 と、首筋に顔を埋め、呟くルイス。いやいや、帰ってこないから、じゃねぇよ。こちとらお前が話す度に、ぞわぞわと背中が粟立って大変なんだよバカ野郎。

 必死でじたばたしていると、

帰る?と後ろのアールが呟いた。あっと気付いても、もう遅い。こういうの、何て言うんだっけ。後の祭りとか、覆水盆に返らず、とか…


「…ヒカリ、説明、してくれるかしら」


 振り返ったら、こめかみに血管を浮かせたアールが、笑っていた。

 ああ、修羅場フラグ、アンド、死亡フラグが立っちゃったな。覆水盆に返ったらどんなに嬉しいか…。とりあえず離そうね、ルイスく…ぐぇっ


いや…書き直しするかもです。

申し訳ないです。

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