表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界フラグが立ちました  作者: ちょむ
第四章 久しぶりに会った人って何かが変わったように見える。
38/44

おませさん超コワイ。

なんか、こうなるはずじゃなかったのに…!



「よし、出来た!」


「ありがとう、先生!」


腫れの引いた足首をぽん、と叩いてにっこり笑う。


そんな私の目の前で、

にっ、と健康的な白い歯を見せるのは、近所のガキンチョ、ローレラ・リリィ ♀ 7歳。


フワフワとした猫っ毛のブラウンのショートヘアーに、くりくりした純粋な鳶色の瞳を持つ彼女は、幼き日のかっちゃんを彷彿とさせる。



さて、この可愛い少女、リリィは、私達が営んでいる診療所、もといマイホームの近くにある食堂の娘だ。


びっくりするくらい元気が良く、しょっちゅう怪我をしているため、もはや顔馴染みとなった常連さん。


病院の常連さんというのもいかがなものかとは思うが、

彼女の怪我の八割は、確信犯であると思う。


「だって怪我しないと先生に会えないじゃん!」


「…あのねぇ、」


否。

思う、ではなく、確信犯である。

そう。


自惚れでも何でもなく、

彼女は私を好いているのだ。



性別を偽っている身の私としては、バレていないので良し…むしろ完璧と言いたいところなのだが、

なにせ、最近のガキンチョはおませさんである。


「せんせ、ちゅーしよ?」


「ちゅっ……!?」


ナニコレ、おませさんコワイ。


どこでそんなテクニックを身に付けてきたのか、うるうるお目目&上目遣いで私を見上げるリリィ。


その瞬間、苦笑して私達を見守っていたリリィの兄、ローレラ・ギルト ♂ 13歳 が、妹、リリィの大胆発言にぎょっと目を見開いた。


兄として当たり前の反応である。むしろスルーしたらどうしようと思った。


「ちょ、リリィ!」


「何よう、お兄ちゃん!」


プンスカ、として可愛く頬を膨らませたリリィは、わたわたとする兄を見る。


不機嫌そうなリリィもまた可愛い…いやいや、ここで兄としての威厳を…!と、うぶなシスコンギルト、一世一代の覚悟。



「いい、いくら…すす…好きだからって、」


順序ってものがゴニョゴニョ…。

鋭いリリィの目力によって、儚く散った、一世一代の覚悟。


もはや兄の威厳も何もない。


真っ赤な顔で尻すぼみに話すギルトの頭に、ショボーンと垂れた耳の幻覚が見えた。


「お兄ちゃんは黙ってて!ね、せんせ、ムラムラした?」


「…はは、リリィ…」


ショックを受けて石化する自分の兄を綺麗なまでにスルーし、

ね、ムラムラした!?と、無邪気な顔で迫るリリィ。


私は、乾いた笑いをこぼし、目をそらした。




まぁ、リリィは可愛い。

確かに可愛い。


だから、これを他の男共にやったら、一秒とかからずに落とすことが可能だと思われる。


これで落ちない奴はいないよ。

あのルイスでさえ…、いや、ルイスは落ちないだろうけれども。


とにかく、君のそのテクニックは一級品だ。

それは自信をもってくれてもいい。




…でもね、リリィ。


先生、実は女だからね、ムラムラっとはこないんだよね。


可愛いけどね、うん。


だが、本当の事は言えないし、かと言って、目の前で期待しているリリィを傷つけることはしたくない。


嗚呼、私って罪な女ね…(ちょっと違う)


際どい質問の返答に困っていると、石化から復活したギルトが、リリィの頭をひっぱたいた。


「いだっ!」


「リリィ!先生困ってるだろう!?」


良くやった、ギルト。

うぶなシスコンギルトなんて呼んでごめんよ。

これからはロイヤルうぶなシスコンギルトと呼んでやろう。

(何がロイヤル?)



「だって、先生、リリィがこんなに愛してるのに、答えてくれないし…。」


「…リリィ…」


おいそこ。

そこの兄妹二人。

どろどろの昼ドラみたいな世界から戻ってこい。




おい、ロイヤルうぶなシスコンギルト。

そこで目を潤ませるな!

おい、こら、手を取り合うな、ヤメロこら!


「お兄ちゃん…、私、私…もう…!」


「リリィ!何も言うな!お兄ちゃんは分かっているよ!」


わかってねぇよロイヤルうぶなシスコンギルトめ!と心の中で叫びつつ、ピクリと眉を動かした。



「お兄ちゃん…!」


「リリィ…!」


そんな私に気がつくことなく、


お互いの名前を呼びあうローレラ兄妹。


もう完全に二人の世界だ。

私が入る隙間などない。


そして、あー、そのまま帰ってくれると嬉しいなーなどと油断していた私に、リリィが爆弾を投下した。


「まさか先生って……………………………………ホモなの?」



「えっ、そうだったの先生!」


なんだ。

なにがどうしてそうなるんだ。


目を丸くしてこっちを見る、リリィとロイヤルなんちゃらギルト。

話が飛びすぎてついていけそうにない。

はぁ、とため息をひとつ吐いて、紫色の眼鏡をくい、と上げる。



何言ってんだオマエらは、と言おうとして口を開けた瞬間、ガラリと診療所のドアが開いた。



「ヒカリ、帰ったぞ。」


『わふ!』



シュールな空気の中、帰ってきたのは、


本をたくさん抱えたルイスと、ドヤ顔で頭に本を乗せたトキワちゃん。


嗚呼もう、話がややこしくなること決定だよ、と天井を仰げば、


リリィが真剣な顔でもう一度言った。


「先生って、ホモなの?」


ドサリ。

トキワちゃんの頭から本が落ちる。


そうなの?と見つめるローレラ兄妹の前、私は肩を落とした。


もう一度言うね。

おませさん、クソコワイ。




続かない、考えつかない、うわぁああああ!


すいません!すいません!

スライディング土下座ァァァ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ