紫の眼鏡なフラグ
お久しぶりです皆様!
生きてましたよ!
何だ残念、とか思った画面の前のあなた!
…泣いていい?
「で、今日はどのような魔具をお探しデスカ?」
照れていた顔をさっと爽やかな笑顔に変えて(きっとこれは仕事用の顔なのだろうと思った)ハイトさんは帽子をかぶり直した。
なに今の動作無駄にかっこいいな、と赤くなった頬を押さえる。
ハイトさんお仕事Ver.キタ―――!と悶えていると、イライラしたアールが腕を組んだ。
「制御眼鏡売りなさいよ」
と、ぶっきらぼうにいい放ったアール。
ぎょっとして、高飛車アールを見る。
ちょ、何だお前。
何様だお前。
アールはふん、とはなをならす。
駄目だこれ、もう駄目だよ売ってもらえないよ。
でも売ってもらえないのは嫌です。
というわけで、
ハイト様すみませんうちのアールが!と困った顔でハイトさんを見てみた。
ハイトさんは……ぎょっとした顔で後ずさっていた。
……ほらァ…ハイトさんがアールの『必殺上から目線』にひるんじゃったじゃん、どうしてくれんだよアール謝れ!
スライディング土下座して謝れ!
じっとりとした目をアールに向ければ、真剣な表情のアール。
え、
なんですかこの空気、なんですかこの重たい感じ。
何ですかこのボケてはいけない空気!!
流れる真剣な空気に、え?と思う。
どうしたらいいか分からず、もう一度ハイトさんに視線を戻せば、ギギ…と油の切れたロボットのようにハイトさんがこちらを見た。
え?何?
ハイトさんがわなわなと口を開き、眉を垂らす。
「も、もしかして、」
「ん?」
アールとハイトさんの視線が集まる。
一気に集まってきた視線に焦った。
え、ちょ、何だろうか。
もう一回言うね
え?何?
私か?私に何かを求めているのか?
え、何を?
混乱しつつ、何ですか?と首をかしげてみた。
……いや、かしげてみた所で何が変わるとかはないんだけれども。
むしろ自分が首をかしげてみるとか想像しただけで鳥肌ものなんですけれども。
自分で考えて悲しくなりながら、ハイトさんを見た。
瞬間、さらりと横に流れた前髪。
ハイトさんのミントグリーンの眼スゴく綺麗だな、なんて思う前にブゥン、と目に魔力が集まる。
「あ、やべ」
「!」
眼をはなすことが出来ないままに、固まった。
瞬間、ぶわりと入ってくる情報。
…今回は何か違うみたいだ、と頭の片隅で思った。
脳に響くハイトさんの驚いたようで、怯えたような心の声。
(制御眼鏡デスか!?
ちょ、どうしましょう、どうしたらいいんでしょう、この子とさっき目が合いましたよ俺!
つーか今も合ってますよ進行形でまずい状況ですヨ!しかもこの子アレです高貴なる金眼です!能力は何でしょうか、俺は石になってしまうのでしょうか呪われてしまうのでしょうか、嫌です!
断固拒否デス!まだ死にたくな)
ふっと訪れた静寂。
はっとすれば、温かくて柔らかいものが右目を覆っていた。
「ししょ、」
アールの、手。
アールの手に自分の手を重ねて、安心する。
いつもとは少し違った読心術の感覚に、よろりとよろけた。
「ヒカリ」
大丈夫?と心配そうに覗きこむアールとトキワちゃん。
なんとか、と呟いて、無意識にためていた息を吐き出した。
私の頭を撫でたアール。
「ハイト、」
「はいィィィィ!!」
アールがどこから出したのそんな声、とばかりに低く呼び掛ければ、ハイトさんが怯えたように体を震わせた。
満ちる、威圧、威厳。
動物的な私の勘が危険を察知して警告を鳴らす。
身を固める私を抱き締めて、ギン、と鋭い眼光でアールがハイトさんをひと睨みした。
「今すぐ、用意してちょうだい。この店で一番高性能な制御眼鏡を」
「り、了解なのデスネ!!」
ハイトさんは、敬礼をして、どぴゅんっと店の奥に引っ込む。
ゆる、と緩んだ空気。
……疲れた。
座りこんで眼を閉じる。
店の奥で、焦ったハイトさんがどがしゃんと大きな音をたてた。
****
「おお〜!」
歓声を上げるのは私。
ハイトさんが半泣きで持ってきた紫フレームの眼鏡を掛けて、私はニヤニヤと前髪をかきあげた。
「大丈夫そうかしら?」
「うん!大丈夫そう!」
それは良かったわ、とアールが笑顔で頷く。
あの、と
ハイトさんがどこか気まずそうに手を上げた。
「能力によって…効果が違うんデスネ。あの、ヒカリ君の能力は…
何ですか?」
そうきたか!!
どうしよう、と視線をさまよわせる。
……言っても良いものか。
助けを求めてアールを見れば、ふわりと笑って頷かれた。
え?言って良いってこと?
言うなとかいってなかったっけ?
言っても大丈夫なの?ねぇ?
言っちゃうよ?ヒカリちゃん言っちゃうよ?
いいの、言っちゃうよ、とアールに目で訴える。
グッ☆とアールの親指が立った。
ああそうですか言いますからね!
若干、☆にイラっとしつつ、
心を決めて、息を吸い込んだ。
「読し、「いいんデスネ!言いたくなければ言わなくたってかまわないのデスネ!」……あ、そっすか」
遮られた私の言葉。
肩から力が抜けた。
あわあわと慌てたように頭を下げるハイトさん。
聞いてすみませんデスネ!と必死に謝る姿に
萌 え た ←え。
「いいですよ、もう」
萌えさせていただきましたし、
…とは
さすがに言わなかったけれども。
にこ、と笑う。
ハイトさんは、がば、と顔を上げた。
「そうデスカ!」
ありがとうございマスネ!と嬉しそうに
笑ったハイトさん。
か わ い す ぎ る
鼻血を吹き出しそうになるのを抑え、頷いた。
「じゃ、ハイト。行くわね」
アールがぴっと銀の板を出す。
「あっ、」
………お金、だ!
初めて見るこの世界のお金。
薄っぺらな銀色の板。
うわぁ、と目を輝かせた。
アールはパチン、とウインク。
後で他のも見せてもらおうと心に決めた。
まいどあり、とハイトさん。
笑顔を浮かべてこちらを向いた。
「ヒカリ君!いつでも遊びにくるんデスネ!絶対なんデスネ!」
「はい!」
ぶんぶんと私の手を握って振るハイトさん。
元気良く返事をすれば、にこにこと頭をなぜられた。
うわぁぁぁぁぁあ!
もう頭洗えねェェェエ!
………洗うけど。
がらん、とドアが開く。
「ありがとね、ハイト」
「いえいえ、暗いですし、お気をつけて」
それじゃあまた、と
手を振るハイトさんに手を振り返した。
少し肌寒くなってきたな、と腕のなかの温かなトキワちゃんを抱き締めた。
「次はどこへいくの?」
「王立図書館よ」
ふーん、とアールの答えにニヤニヤして、ふと、立ち止まった。
トキワちゃんが体を固くして身構える。
………ぞわり。
絡めとられそうな、
背筋が冷えるような、悪寒。
私はこれを知ってる。
この感覚は、
「かっちゃん……?」
後ろを勢いよく振り返った。
誰もいない。
さささっと辺りを見回すも、何もない。
ふと、
遠くなって、小さく見える〈ハイトおじさんの魔具屋〉に目をとめる。(お兄さんのが正しくね?)
ドアの前に、ランプの光に浮き上がる細長いシルエットのハイトさんが立っているのが見えた。
「気の、せいか」
ポツリ、と呟いてアールを追いかけた。
****
「あの子、デスカ。」
嬉しそうに眼鏡を撫でて、アールと歩いていく少年の背中を見つめる。
「我が君が気に入るわけデスネ。」
ハイトはしゃがんで、すっ、と現れた黒猫に喋りかける。
「…君もそう思うでしょう?」
黒猫は月色の瞳を細めて、にゃあんと鳴いた。
「俺も、気に入った。」
遠くに見える小さな二人の影。
ぼう、とランプに手をかざして光をともす。
立ち上がって、ニヤリと唇を舐めたハイト。
「ね、ヒカリちゃん。」
ひょい、とジャンプした黒猫は、闇に紛れて消えた。
ああああ!
ハイトさんんんん!?
どうしたらいいんでしょうね私は!
お話一人歩き!
戻ってこい!




