マジヤバイ。これはヤバイってマジヤバイ
ドサリ、と体に衝撃が走った。
「っ!痛い…」
顔をしかめて起き上がる。
慌てて周りを見回すと、どうやらここは森の中のようであった。
ここが何処かというのはともかくとして、移動できたことは確かだ。
体の隅々を確認して、へたりこむ。
良かった。
ちゃんとした人間だよ私。
アールと練習していた頃は、腕が置いていかれたり、耳が片方なかったり。
オイオイオイ冗談じゃねぇよどうすんだよコレってパニックになったよ。
そういえば、眉毛が無くて焦ったこともあったな。
必死に探して、半泣きになったんだっけ。
トキワちゃんがドヤ顔で眉毛のある場所につれてかれた時は神様トキワ様!って思ったよ。
それを思い出せば今回は凄くね?
まぁ、爆発しちゃったのはてぇい!と投げるとしてだな。
「転移成功…」
はい、皆様拍手!
新技は全然駄目だったのだけれども失敗は成功の母だからね。
何度失敗したとしても、私はめげずに頑張ろうと思いました。
アレ?作文?
馬鹿なことを考えるのをやめて意識を現実へ戻す。
腕の中で気絶しているトキワちゃんとその頭で寝ているぴーちゃんを確認。
大丈夫、生きてる。
ほっ、と息をついて安堵した。
近くの木の根元に腰をおろし、目を閉じて思いだすは、先ほどの出来事。
……アールに何も言わずに町から出ちまったなぁ。
でも、しょうがないよね?
アールだって分かってくれんだろ。多分。
だってさぁ、アレだよ。
ほらあの…危険を察知したんだよ?
逃げなきゃじゃん。
え?何?
せっかく魔術つかえんだから逃げずに立ち向かえ?
おまっ、ちょ、何なの?
厨二なのどうしたの?
あの人が誰だかは分からないけど、かなりの魔術師だったよ。
纏う雰囲気、魔力、普通とは別格だったからね!?
私はチキンだから!
へいへい兄ちゃん、僕に逆らうとグッチゃグッチゃになっちゃうよ☆
…………なんて言えるわけねぇだろうが。
逃げたのは正しい選択でしょう。正しい選択…………
…………。
ちょっと待て。
爆発したね、うん。
あそこは何処だった?
――――おそらく住宅街。
サァァァと一気に顔が青くなったのが分かった。
「いやいやいや、いやでもほら、いやあのほら」
だらだらと止めどなく流れる汗。
ヤバい。
ヤバいよこれ。
非常にヤバいよこれ。
どのくらいヤバいかって言うと、マジヤバい。
爆発、して。
そのあと
………………どうなった?
「やっべぇぇぇぇええ!!!!」
『なっ、どうかしたか主!!!』
「ピィ!」
頭を抱えて、勢い良く立ち上がると、トキワちゃんとぴーちゃんが転がり落ちた。
「うああああ!どうしようどうしよう!ヤバいよこれマジでヤバいよこれ!」
爆発犯のひかりとして指名手配になりそうです。
……誰か、タスケテ。
****
キョロキョロと周りを見回すトキワちゃんを尻目にヒカリはうろうろと歩く。
トキワちゃんには先ほど事情を話した。
チートなトキワちゃんのことだ。
なんか改善策とか、改善策とか、くれるだろう。
などと期待していたが、その期待次の一言によって粉々に打ち砕かれる。
『ほぉ、人間が減ったのか。そりゃ良かった』
「待て待て待てェェエ!!!」
可愛い仔犬から放たれた、衝撃的な言葉。
そもそも、人間が嫌いなトキワちゃんに期待なんてした私が馬鹿だったのだ。
嗚呼、私が悪かった。
うかつだった。
私が甘かった。
あんパンを砂糖漬けにしてさらに蜂蜜を垂らして食べるぐらいの甘さだった。
………想像したら気持ち悪くなったんだけどコノヤロー。
うぇっぷと口を押さえつつ、また歩き出す。
謝ろうか、いやいやでもなんかあったら怖いし。
逃げちゃおうか、いやいやでもなんか死者とか出てたら嫌だし。
ズブズブと、チキンな私は無限の負のループにはまっていく。
そんなヒカリに見かねて、トキワちゃんが口を開いた。
『……主、気になるのならばいったほうがいいぞ。』
なんか潔いかっこよさだが、トキワちゃんは正直言って面倒くさくなってしまっただけである。
何だよーどうせ人間いっぱいいるだろ、何でそんな気にすんだよ、腹へったなというのが本音。
え?何?
トキワちゃん酷い?
……まぁまぁ落ち着けって。
精霊と人間はあまり仲がよろしくないので仕方がないのだよ。
……だが、面倒くささがにじみ出ていたトキワちゃんは、ヒカリの何かを逆撫でしてしまったようで。
「ちょっと、君。簡単に言ってるけどね君!捕まっちゃうかもしれないの!お縄になっちゃうかも知れないの!」
『そ…そうか。』
負のループに追い詰められたヒカリの迫力は凄い。
トキワちゃんは一歩後ろへとあとずさった。
「この小説が、牢屋フラグが立ちました、とか拷問フラグが立ちました、なんてのになっちゃうんだよ!?いいの!?誰も読んでくれないよいいの!?」
『いや、主、それ裏事情…』
ヒカリは止まらない。
「ヒカリちゃんと楽しい仲間のお話が、ヒカリちゃんの暗い更正のお話になるんだよいいの!?作者の苦手なシリアスになるんだよいいの!?」
『いやそれだから裏事情…………。無視か。』
迫力におされたトキワちゃんに、暴走しているヒカリを止める術はない。
「作者のシリアスなめんなよ!いつの間にかギャグでおちゃらけた雰囲気が漂い始めるんだからな!どうしようもないよ!助けてください!!」
もはやヒカリというより、後半は作者の願望と裏事情のオンパレードである。
だが、そこで負けるほど精霊王フィデリティーの名は廃れていなかった。
対抗するように息を吸い込むトキワちゃん。
言い返そうとしたところで、口をつぐんだ。
……言っても良いものか。
いくら高貴なる精霊王とて、やはり怖いものは怖い。
言ったら怒るかな、いやでも、このままというわけにも……とぶつくさと悩みに悩んだ末、勇者トキワは立ち上がった。
『……主、復元魔術は使わないのか……』
恐る恐るといったようにトキワちゃんは自分の主を見上げた。
「あ、なーる」
さっきまでの様子はどこへやら。
ぽん、とすっきりした顔で手を叩いたヒカリに、勇者トキワの心の小さな戦いはわかるはずもない。
はぁ、とため息をついてガックリと肩をおとす勇者トキワと、尊敬に値するほどの切り替えの早さで笑顔を浮かべる魔王ヒカリ。
妙な空気が流れるその間に、生ぬるい風が吹いた。
『…なんか、アレじゃね?』
勇者トキワは、魔王ヒカリに負けたのであった。
なんか、アレじゃね?
アレがアレでコレがコレでそれがそこじゃね?
え?ナニコレ。
ここどこ?(混乱二度目)




