…泣いていい?
お久しぶりです。
サボっていたわけではないんですよ。
あのほら、学生の仕事は勉強でしょ?
いくら私のようなマダオ(まるでダメなお嬢さん)でも、忙しかったわけなんですよ。
勉強したり、漫画読んだり、漫画読んで一人でニヤニヤしたり、漫画買うかどうかで一世一代の決心したり。
アレ?なんかおかしくね?
息を、のむ。
私達は、街の入り口、小高い丘の上にいる。
衛兵になんかすげぇビビられているアールを横目で見て、やっぱり副団長なんだなぁとしみじみと思う。
でも今はアレだ。
そんなことより、
「す、すごい」
眼下に広がるこの街だ。
びっしりと建っている建物に、めんたまが飛び出るかと思った。
街からここは、少し遠い。
にも関わらず、熱気が伝わる。
活気が伝わる。
目を閉じれば、声が聞こえてきそうなくらい、この街は元気がある。
驚きを隠せない私の肩ににアールが手をおいた。
「ふふ、びっくりしたかしら?
この街は国の中で一番賑わっているところよ。足りないものはここで何でも売っているわ。」
『…人がゴミのようだ』
「ピィ」
思い思いの感想を述べるペット達。
私は少し、首をかしげた。
「…?ちょっと待ってこの街ってどういうこと?他にも街があるの?」
ここが国の全体じゃないのか。
そうなのか。
アールに疑問をぶつければ、女神の微笑みが返ってきた。
「そういうことを、知りに来たんでしょう?自分で調べなさい。」
「え」
目を見開くと、アールの目と目が合う。
…………ヤバい。
そう思った時には遅かった。
(説明するのめんどくさい)
「本音ェェェェェ!!!!」
頭に響いたアールの声。
……読心術ってさ、アレだよね。
使い手のHPを大幅に削るよね。
キラキラと輝くアールを見ながら、HP1のレッドゾーンな私はひくりと顔をひきつらせた。
人間不信になったらトキワちゃんのせいだコノヤロー。
これ以上何聞いても駄目そうだと判断して、街を観察。
……これが、異世界の街。
なんか、拍子抜けする。
もっとおどろおどろしい感じなんじゃないかとかおもっていたけれど。
西洋な町並みは異世界かどうかなんて分からない。
何にも知らない人をここにつれてきたら多分ヨーロッパだと思うだろう。
…………前方にそびえ立つ、バベルの塔ならぬバベルの城がなければ。
おどろおどろしくはない。
むしろ輝いてる。
異世界ということを唯一感じさせる建物。
高く、高く、そびえ立つ、建物。
ガラにもなく、ちょっとテンションが上がった。
「アレ何!?城ですか!いるんですか王さま的な奴が!」
「あぁそうだったわね。初めて見るのよね。」
アールがふわりと頭を撫でた。
「ようこそヒカリ。城下町へ」
手を広げて、街をバックに笑うアールが、何だか嬉しそうでくすぐったい気持ちになった。
「とりあえずアレね。その髪をどうにかしましょうね」
「いや、あの僕はこのままで」
『アール』
トキワちゃんが、ニヤリと笑う。アールがうなずいた。
「転移」
「話を聞けよォオ!!」
異世界初のお店は、床屋でした。
****
ここはそこまで賑わっていないらしい。
静かな住宅街らしきところの一角。
「いらっしゃい!…あれ?アールさんじゃないですか!」
嬉しそうな声が聞こえた。
初のアールの他の異世界人との接触。
緊張でオボロロロってなりそう。嘘だけど。
カラランとかわいい音を立てて開いたドアから隠れるようにアールの後ろに直立する。
今私めっさ姿勢いいよ。
背筋ピーン!だよ。
アールは言う。
「ふふ、今日は私じゃないの。
この子、お願いね。」
「?」
ぐい、と前に差し出されて、よろける。
「ぐひゃ」
ちょっと待ってまだ心の準備が
恐る恐る目を開けば、優しそうな女の人がいた。
「あら、これは酷いね。」
「…泣いていい?」
アールの他の異世界人に喋られた一言は、泣きたくなるトゲトゲな言葉でした。
****
髪をすかれて、どんどん変わる私の髪。
茶色のふわふわな髪の毛を揺らしながら、チャキチャキと私の悲劇を刈り取るキレイなこの人は、レイさんと言う。
「ヒカリ君ね、男の子に生まれたのがもったいないよ。」
「…………(女なんですけどね)」
手際よく整えられていく髪を見つめながら話を聞く。
鏡を見れば、アールがトキワちゃんとぴーちゃんを撫でながら、優雅に紅茶を飲んでいた。
何で?
怪訝な顔をする私に、レイさんは苦笑した。
「ヒカリ君、アールさんの弟子なんだって?大変でしょ。」
「いえ、あの、まぁ…」
歯切れわるく答えるわたし。
アールの視線が痛い。
「アールさん、気まぐれだからねー。私と飲むときもすごいの。」
カラカラと笑うレイさん。
………飲む?
「飲むって何を」
「お酒。」
床屋さんのレイさんは、アールの飲み友でした。
酒癖悪そうなアールがレイさんに迷惑をかけている姿が容易に想像できてゾッとする。
そんなことをつらつらと考えているとポンポンと頭をはたかれた。
「はい、できた。…うわぁ凄い。我ながら凄いわ。」
「あ、ありがとうございます」
サラリ、と揺れる髪。
さっきまでのボサボサツンツンした私はいない。
ちら、とレイさんを盗みみた。
レイさんは前髪のことについて、何も言わなかった。
凄いこの人イイ人だ。
じーん、としていると、レイさんは至極真面目な表情で目を伏せた。
…………何か、くる。
何かシリアスになる感じの何かが。
アールもその空気を感じ取ったのか、カチャリ、とカップをおいた。
トキワちゃんも、薄く目を開けてレイさんを見ている。
ぴーちゃんは首をすくめた。
はりつめる空気。
目か?目のことか?
ごくり、と喉を鳴らしてレイさんに問う。
「……レイさん?」
「………ない」
「え?」
ぼそり、と呟かれた言葉が聞き取れずに聞き返す。
レイさんは顔をあげた。
「男の子に生まれたのがもったいない!!!!」
「そんなことかよォオ!!!」
やっぱり何か陰謀を感じる。
シリアスにしない何か謎の力を。
脱力したアールと、ふん、と鼻を鳴らしたトキワちゃんを見て、思った。
……女なんですけどねェェェェェ!!!
****
レイさんにまた会う約束をして、歩き出す。
なんでもアールは私に見せたいものがあるらしくて。
wktkしながらアールの後をついて、人々がわらわらいるところにやってきた。
数分歩いて、顔がひきつる。
何故かって?
異世界の街は、予想以上に凄かったんだよ。
「ちょっとそこの別嬪さん、安くしとくよ買っていかない!?」
「安いよ!安いよ!限界突破の安さだよ!」
「お願いですから買っていけェェェェェ!!!!」
客引き、そして、活気が。
腕をとられてヨロリ、人にぶつかってヨロリ。
「どこ見て歩いとんじゃ坊主!」
なんかすげぇアレな人に怒られたり。
「すいません!」
威嚇するトキワちゃんをなだめすかして必死にアールについていく。
右向けば人
左向いても人
人、人、人。
「あ、ちょ、まっ、師匠ッ!!」
「ヒカリー、早くきなさーい、迷子になるわよー」
アールは止まる素振りも見せずにひらひらと手をふるし。
「ちょっと待てよォオ!!!」
私の悲痛な叫びは、人混みのいろんな音に消えた。
「迷子フラグゥゥゥウウ!!!」
「ピィ」
ぴーちゃんが、ポツリと鳴いた。
オッス、オラちょむ!
次回も絶対に読んでくれよな!
…サーセン。




