精霊のイタズラと金目のイグアナ
『主、大丈夫か』
がばり、と飛び起きる。
嗚呼、見慣れた茶色の天井。
クリーム色の、カーペット。
白くなくて、ほっとする。
そして、覗きこんだトキワちゃんを見て言った。
「トキワさーん、どういうことかな?そしてさっきのは何かな?」
『ぬ、主、落ち着いて』
にっこりと清々しい満面の笑みを浮かべて、逃げ腰のトキワちゃんを捕まえた。
「仮契約?聞いてないんだけど。え、何?アールになんて言おうかな、とか必死に考えてた私ってなんなわけ?ねぇ。
しかも何?さっきのもトキワちゃんの仕業なの?
なんかイグアナとか言われて、ガラスのハートが粉砕されたんだけど。」
『や、すまんが全く話がよめん。イグアナって何なのだ?』
こてん、と首を可愛くかしげたトキワちゃん。
ず、ずるい!
こんなときばっかり自分の武器を使うなんて!!
ああん、なんて可愛らしい!!
…じゃなくて。
「仮契約だったの!?
聞いてない!知らなかったよ!?まずそれから説明して!」
『だって言ってないもん』
「…咬み殺す。」
悩んだ私の苦悩をかえせ。
****
『何でも聞いてください、主。』
お腹くすぐりの刑に敗北したトキワちゃんは、お行儀良くお座り。(咬み殺された)
私はどっかりとソファーにふんぞり返る。
「うむ、苦しゅうない。」
『へい、殿下。』
………なんかノリノリの精霊王ってどうよ、これ。
「で、仮契約って何?」
『あぁ、それはだな。主と我の間に絆ができるまでの期間のことだ。本来、我等精霊は人間の下につかぬ。だが、精霊が本当に仕えたいと思った人間とだけ、契約が成立する。しかし、精霊とて感情がある。感情に押し流されて、むやみやたらと契約してしまったら洒落にならん。』
「ほー…。」
要するにアレか。
一目惚れしちゃって盲目になっちゃったけど、
実はイグアナに一目惚れしちゃってて、生涯の伴侶としてイグアナと共に暮らすことができるのか、否か、っていうことを考えるための冷却期間ね。
えぇ、理解しました。
え?違う?
何?イグアナネタひきずるな?
『だから、人間の方が純粋に精霊と共にありたい、と思わなくては、正式な契約が成立しないことになっている。人間に邪な気持ちが少しでもあったなら、その人間は……』
トキワちゃんは、うつむいた。
嗚呼、なんだかその先がわかってしまう。
どうせアレでしょ?
なんか物騒なアレでしょ?
緊張がはしる。
はりつめる、空気。
嗚呼、トキワちゃん。
その人間は………?
『……ハゲる。』
「え!?そっち!?ハゲんの!?まじでか!!まさかの予想外!!!」
至極真面目な口調で言い放つトキワちゃん。
ちょっとまてどういう制裁なんだそれ。
『………無残にも一本も残らず、頭が寒くなるのだ。』
「どんな!?それどんな呪い!?つか、頭寒くなるとか真面目な表情でいってんじゃねーよ!!想像して背筋が寒いよ!!」
『呪いではないぞ。精霊達に抜かれるのだ。イタズラとしてな☆』
「もはやそれイタズラの域超えてない!?イタズラとしてな、てへぺろ☆で済まされない次元だよ!?」
トキワちゃんは楽しげに続ける。
『そしてそやつの頭からはもう何も生えてはこない。
未来永劫、な。
何故なら、楽しくなった精霊達があらゆる手をつかってイタズラするからだ。』
「いや怖い!!精霊怖いから!!そして何でトキワちゃんは嬉しそうなんだ!!」
『だって楽しいもん。』
「お願いですからお引き取りください。」
『やだもん』
「悪霊退散!!!」
『悪霊じゃないもん、精霊だもん!上位の!』
「やっべ、ムカつく。咬み殺す。」
『ひっぎゃぁぁぁぁぁ』
………もはやキャラとか壊れてると思うんだ。
特にトキワちゃんとかトキワちゃんとか。
気のせい?
****
『ひ、主、も、無理』
またもや咬み殺された(本日二度目のこちょこちょされた)トキワちゃん。
笑いすぎて、ピクピクしている。
「何?それって私…僕に邪な気持ちがあったら、僕ハゲてた……?」
『(`・ω・´)キリッ』
「顔文字つかうんじゃねぇぇぇぇ!!!!!!!!!
ムカつくからぁぁぁぁぁ!
かっ消すぞぉぉ!!」
『\(^q^)/ 』
「だからそれもムカつくんだよォォォ!!!!!」
嗚呼、進まない、お話。
嗚呼、終わってる、作者の頭。
光「だから裏事情だすなって!」
****
「まぁ、いいよ。結果的にハゲてないしさ。」
『(*´▽`*)』
「まだひきずるか、トキワちゃん。しかもドヤ顔するところじゃないよ今。わかってる?」
『(*`ω`*)』
「いやもういい。分かった。気にしたら負けね。突っ込んだら負けね。」
諦めて、一番気にしていることを質問する。
「僕の友達のかっちゃんに会わせたのもトキワちゃん?」
『?かっちゃん?誰なのだ、それは。』
あ、戻った。
………惚けているわけではないようだ。
だってほら。
金色の瞳が、戸惑いを隠せずに揺らいでいる。
「ほら、さっき。
僕が気絶していた間なんだけど」
『?気絶…?主は気絶しておったのか?大丈夫か?』
「…え?」
『…ん?』
話が、通じない。
ナニコレ超コワイ。
「気絶してなかったの?僕。」
『気絶?さっきの数秒間でか?』
数秒間?
白い空間でゆらゆらゆらいで、かっちゃんと久しぶりに話して、イグアナになって、恐怖を感じたあれが数秒間?
…………混乱。
「じゃあ、あれは何……?」
『アレ?』
「真っ白で、良くわかんない感じのアレ。分かんない?」
トキワちゃんが、何だ?と考える。
『すまん主。我には分からない。』
「そ…うだよね…」
そうして、考えるのは懐かしのかっちゃん。
かっちゃんは、昔から毒舌だった。
そう、昔から。
「光ー、宿題うつさせてー」
「えー、どうしよっかなー」
「ははは、黙れくそちびー。早く貸せよー」
「…どーぞ」
…………え。
なんだろう。
何で私こんな扱い受けてたんだろう。
パシリじゃね?
私ただの脅されてるかっちゃんのパシリじゃね?
あ
やっべ、目からポトフの汁でてきた。
よく考えたら、可哀想、私。
さっきだってイグアナ言われた。
つか何?
捨てられそうなイグアナってナニソレコワイ。
………でも、あの恐怖感。
未だに、忘れない不快感。
ゾワッとくるような、絡めとられそうな、あの目。
終始笑顔のかっちゃんの、貼り付けた人懐っこい笑顔の裏側を覗き見た――――
そんな気がする。
そういえば、目ってなんだろう。
[光、似合ってるよ、その目]
『どうかしたのか?主。』
鏡にうつった自分の顔。
なんだ。
いつも通りじゃ…………
「は?ナニコレコワイ」
なかった。
鏡にうつったのは、
いつもより顔面蒼白な自分の中性的な顔と
ボサっとそろっていない短い髪。
少年のような自分の瞳は。
「金………色」
トキワちゃんと同じ、トロリと蜂蜜のような金色。
もっと驚いたのは、
「黒と金のオッドアイ…?」
そう。
金色と、黒色のオッドアイを驚いたように見開く少年が、鏡の中にいた。
おもわず鏡の裏側を確認。
ははは、なんてかっちゃんの真似してみたけど。
はははは…はぁ。
こればっかりは、
ワラエナイ。
かおるちゃんは何者なのか?
それがわかるのはずっとずっと後のこと。




