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異世界フラグが立ちました  作者: ちょむ
第二章 もふもふは人類の救いである。
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もふもふと秘密と無知







 さて。只今の時刻、午後9時。ハーブティー片手に、カミングアウト大会へと洒落込みましょうか。というわけで、アールに座っていただいたわけなんだが。


「何よ。いきなりかしこまっちゃって」


「や…あの…」


 女は度胸!とばかりに腹を決めたは良いものの、やはり少し抵抗はあるようで。いまいち踏ん切りがつかず、うぅ…と躊躇う私に、アールは言った。


「はっきりしなさい!!私うじうじしてるの嫌いなのよ!」


 ついでにふん、と顔を背け、ハーブティーを一口飲むアールに、何だか泣きそうになってしまう。ああ、チキンな私は何処までもチキンらしい。生粋のチキンとしか言い様が無い。


 涙が零れそうになって慌てて俯いた。唇を噛み締めて堪える。ほら、ここで泣くわけにはいかないから。


「光?どうしたの?具合、悪い??」


 俯く私に、アールは優しく声をかけた。ああああ止めろ涙がああああ!


 我慢出来ずにホロリと涙が一粒流れる。こうなったらなるようになればいいんだ。ぐい、と強めに目元を拭い、私は顔を上げた。


 私、久保井 光。一世一代の謝罪!天よ!私に力を!


「申し訳ございません!」


「何が!?」


 叫んだ私は、ズベシャァっと頭を地面にめり込ませる勢いでアールに謝罪した。これぞ必殺、ジャパニーズスライディング土下座。


 アールがオロオロとしているのが分かる。頭を下げたままの私は、涙腺が緩くなったことを感じた。



「…本当にごめ、んなさい、アール、ごめ、」


 嗚呼、目から止めどなくポトフの汁が。顔を上げると、トキワちゃんがペロリと涙を舐めた。



「何!?どうしたの!」



 そして、ガバッとアールに抱きついた。柔らかいナニかが顔を包んだけれども、今の私には気付く余裕もなく。


「アール…ごめんなさい、隠しててごめんなさ…ひくっ」


「光…」


 ダバダバと涙を流しながらアールにすがりつくと、アールは困ったような、不安そうな顔をして私の頭を撫でる。温かな手の温度に、私は口を開いていた。


「実はトキワちゃん喋るし、精霊王なの…黙っていてごめんなさいアール、ごめんなさい、」


 強張るアールの身体。緊張が走ったように、びくりと震えたアールの身体。


 アールの顔を見るのが怖い。今、アールはどんな顔をしているのだろう。やはり私は嫌われてしまったのだろうか。言わなければ良かった。


 一瞬にして、頭を巡る不吉な考え。恐る恐る顔を上げると、



「やっぱり!」



「な、ちょ、え?」



 キラキラした瞳で頷いたアールがいらっしゃいました。涙が驚きで止まる。


 信じられない。私はアールを騙していたのに。重要なことを隠していたのに。どうして、どうして。



「何で…?怒って、いいんだよ?」


「はぁ?どうして私が怒らなくちゃいけないのよ。怒りの感情は美容にも悪いのよ?シワが出来るもの!」


 それに、とアールは笑った。


「そんなこと、とうの昔に何となく気付いてるわ」



 …まじでか。



****



「さ、話はこれで終わりね?何か他の話しましょ。好きな人とか」


「あ…うん…。いや待て待て待て!おかしいでしょ!」


 混乱。取り乱す私をよそに、アールはぴーちゃんをもふ、と撫でながら話した。トキワちゃんはアールの前で硬直している。トキワちゃんはトキワちゃんで、キャパオーバーなのだろう。正直な話私もキャパオーバーだ。


「トキワちゃんの知性的な目は何かあるとは思ってたのよ。普通、子犬ってもっと何にも考えてないような純粋な目をしてると思うの。でも、トキワちゃんは、いろいろ考えて行動してたのよねぇ」


『はっ!我は上手くやっていたと…』


「ふふ、疲れて寝てしまった私の、仕事をやってくれたのはトキワちゃんでしょう?呪いの本と呼ばれていた、本をいじったのは」


『なっ…!バレていたか…!』


 いやいや、ばれていたか、じゃないよトキワちゃん。何時の間にそんなことしてたんだ。がっつりばれるようなことするなよ。


「最初はヒカリがやったのかと思ったの。でもヒカリは私の仕事道具には触らないでしょう?」



「まぁ…うん」


 そう。アールの仕事には私は触れないようにしてきたのだ。そりゃあ、手伝えるものならば手伝いたいけれども、私はほら…魔術が壊滅的だから。足でまといにしかならない。しかも呪いの本?チキンな私にそんなやつ触れるわけがないんだ。


 でね、とアールは微笑みを浮かべた。


「…呪いを解けるのは精霊だけだもの」


 アールによれば、それで疑い始めたらしいのだ。しかし、まさかトキワちゃんだとは思わなかったらしく、結局分からずじまいだったのだそうだ。


 あれ?そしたらどうして…


「何がきっかけ?」


「それは本当に偶然よ。ちょっと仕事で王立図書館に行くことになってね?つまらなかったからトキワちゃんを調べてみたの。そうしたら、」


 アールが言葉を切り、ごくりと喉をならした。つられてトキワちゃんと私の喉がなる。



「調べたら…」



『「調べたら……?」』


 ドキドキと早鐘をうつ心臓。やけに自分の耳に響く。



 嗚呼、アール。私の寿命が縮む前に早く言って…。



「……何にも出てこなかったの」



「ええええええ!?…って、あれ?」


 叫ぶ準備をしていたため、大袈裟に驚いてしまった私。


 え、ちょ、何?たくさん間開けといてナニソレ。凄く拍子抜けだ。


『緊張してしまったではないか。精霊は心臓が弱いのだぞ!』


「嘘つくな」


『(´・д・`)』


 ガックリと肩を落とす私達を無視して、アールが眉を顰めた。ああ、美人って何て罪なのだろう。眉を顰める顔もまたいい。…いやごめん忘れて。


「それが…載ってないのよ。どこにも。犬の種類図鑑を見たけれど無い。銀色の毛の犬はいるにはいるけど、頭良いわけじゃないの。

しかも、金色じゃなくて目は水色なのよね。その種類。

だからってトキワちゃんを見る限り雑種ってわけでもなさそうだし」


 ごめんねアールよ。そんな、犬の図鑑なんて読ませちゃって。犬について考えさせちゃって。


「おかしいと思って、魔物図鑑とかみたんだけd「はいちょっとストップ!」



 思わず、大きな声でアールの話を遮った。


「なんか聞いちゃいけないような単語があったんだけど!

むしろ聞きたくないんだけど、魔物!?ナニソレ初耳なんだけど!」


「あら、言ってなかったかしら?魔物には気をつけなさいって言わなかったかしら」



「キイテマセン」



「あら、」


 ヲイ。あら、じゃないよ。


恐怖で体がブルリと震える。ゾワリ、と背筋に冷たいものが滑り落ちたような気がした。

 え?なんでかって?だってさ、だってさ。


「そういうこと知らないで外をフラフラ歩いてたってわけでしょ…?」



『「あ」』



 トキワちゃん、アール。


「…咬み殺されたいようだね」


 トンファーが欲しい、今日この頃。

さて、私、久保井 光。


 無知ってコワイなぁと思いました。まる。



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