増えたもふもふ
ああああああ…
例えば向こうの世界で私がこんなやつ着たら大変なことになるんだよ。いや、こっちの世界だってそうだろ。
「もう…やだ…」
ぐったりなう。アールに着せ替えされました。黒と白のふりふりのワンピース…いわゆるゴスロリっぽいやつに。ははっ、笑えねーよ。
まぁ確かにね、いつもの露出度高いドレスもヤバイ。でもね、これはもっとヤバイ。何がヤバいって全部だよ。つーか何が嬉しくてこんなフリフリ着なくちゃならんのだ。似合う人が着るならばまだしも…何これいじめ?いつものワンピースだってスカートだから嫌なんだよ?つーかスカートが嫌なんだ。パンツ見えるし動きづらいしめんどいんだもの。
もう嫌だよこんな状況。トキワちゃんは寝てるし…いや、あいつ起きてるぞ!今こっち見てたもの!めっちゃこっち見てたもの!何であいつ寝たふり決めこんでんだ腹立つ!
「…うん!似合うわ!」
…アールは聞く耳持たないし。
「やだ!こんなのキナイヨ!こんなの着るんだったら男子の服着る!」
もう知らん!どんなに哀しそうな顔したって騙されないんだからなアール!しかめっ面でいい放ち、ぱぱっと脱ぐと普段の真っ黒ワンピースに着替えた。
挑むように腕を組み、アールを見る。すると、アールはニコリと笑った。
「…ひっ!?」
ゾワリ。全身が粟立つような感覚が駆け巡る。何かを、私の中で動物的直感が告げていた。
な に か が お き る … !
「な…何…?師匠?」
「男の子…?ふふふ…ちょっと待ってなさい…」
何か企みの含んだ笑みを浮かべてアールは言った。
「師匠…?ちょ、まっ」
「転移」
そう唱えたアールが忌々しい光に包まれる。ナニソレコワイ。
****
アールが沢山の服を抱えて戻ってきてわずか数分。見事着せ替えられた私は、驚くアールと、寝ていたところを起こされて不機嫌になっているトキワちゃんの前に立っていた。
「光…カッコいいわよ…」
「私に女の子要素が無いんですね。分かります」
アールが買ってきた(買い占めてきた)のは、この世界での男子用の服。私はそれを着ているって訳だ。かっこいい、としか呟かなくなってしまったアールを見る。
…なんか傷付きますよ。カッコいいなんて言われたって全然嬉しくないわボケ。
まぁでも、機能性の良さは認めてやらんこともない。スカートではなく動きやすいズボンなのだから。ドレスのように、無駄な装飾がついているわけでもない。これ以上の物がある?いや、ないだろう。
決めた。私は決めたよ。
「師匠。私、これ着るね」
「目の保養…」
『…わん』
イライラとしたトキワちゃんと、頬を染めたアールを見て、俺とか言った方がいいかな、と思った。
…いや、ねーよ。
****
「師匠!お帰りなさい!」
「た…ただいま…」
仕事から帰ってきたアールに私が飛び付けば、顔を赤らめて呟く。どうしてアールは顔を染めるのかって?そりゃあまぁ私が男の子みたいだからですよ。
月日は流れ、私、男の子になることに慣れました。いや、本当の男の子とかでなく、男の子の服ってことね。実は結構楽しんでたりする。男装する人の気持ちがちょっぴり分かったような気がした。
べっ別にこういう趣味とかじゃないんだからね!楽しくなっただけだからね!
それはさておき、今日はアールにお願い事があるのだ。大事な大事なお願い事が。
「ターノシーイターノシーイヒーカーリーチャンー」
「ということで、師匠。私、ぴーちゃん飼うから」
肩に乗る黄色くてもふもふな丸っこい鳥をアールの目の前につきだして、にっこり笑う。この鳥の名前はぴーちゃん。…誰だ今ネーミングセンス無さすぎだっつったの。しばき倒すぞ。
「ヨーロ、シークネー」
「喋ってるわよ…?この鳥…」
小さなお口を精一杯開けるぴーちゃんに、アールが一歩引いた。何だコレって思っているのだろう。口元がヒクリとひきつった。
まぁ、そうなりますわな。大抵の人が何だコレ、ですわ。むしろ驚かん方がびっくりです。
そう。ぴーちゃん、普通に喋れるんです。いや、正しくは、喋ってると言いませんね。歌うんです。
この運命的な出会いは今日の朝にさかのぼる。
「はーい鳥さん達ーご飯だよー」
いつもの如くパンくずを鳥達にあげる私。いつもと違うことと言ったら、少しだけパンくずが少なかったことかな。
『ワァ、イツモアリガト』
『オイシイヨ、オイシイヨ!』
これもまたいつもの如く。鳥フィーバーになって、奴らが飛び立つ。そして出会いは起きたのだ。
「アーリガトネー、ヒカリチャーンダーイスキダヨー」
「!?」
動物と話すとき特有の、脳に響く声ではなく、普通に聞こえる声。はっきりと、鮮明に。小さくて可愛らしい、声が聞こえたのです。
こんなことは今まで無かったから、何だ?と辺りを見回したのです。すると、パタパタと一匹の黄色くて小さな球体…否、鳥が飛んできた。
「君が、喋ったの?」
なんて可愛らしい鳥ちゃんなのだろうか。だらしなく緩む頬を気にしながら、伸ばした人差し指に止まった鳥に聞く。
まさかねまさかね。(期待)
「ボクダヨ!」
キ タ コ レ !
不思議なメロディーで歌うこの鳥がどうしようもなく欲しくなってしまった私。自然のものは自然のもの?は?それって美味しいの?そんなジャイアニズムを発揮した私は、ふわりと黄色を包みこんだのでありました。
「君!うちの鳥になりなさい」
「ワカッタヨー、ヨーロシークネー」
そして、黄色くてかわいいもふもふは、ぴーちゃんと名付け。
「ピーチャン、ヒカリチャーンダーイスキダヨ」
「か…わいい…」
逃げないように餌付けして。全ては抜かりなく。まぁ、もふもふ好きであるアールが断ることはないだろうと確信があったから。
ということで、今に至るわけなのだ。
因みにトキワちゃんは、精霊同士で話さなきゃならないことがあるらしく外出中だ。寂しくなんかないよ。…ちょっぴり寂しいけれども。
それにしてもトキワちゃん、全身から企みな香りを漂わせていたなぁ。問題を起こしてないといいけれども、あの子はトラブルメーカーだからねぇ。あ!そういや、何で怪我してたのか聞くの忘れた。
まぁ、いっか。すぐに帰ってくるって言っていたしね。
「かわいいわね。歌うのもかわいいわ」
はっ、と意識を戻す。興味深げにアールがぴーちゃんを観察していた。じっ、と穴があくほど見つめて…
「キレイナ、オネーサン、ヨーロシークネ」
ぴーちゃんが歌い、アールがズザリと後ずさった。顔が真っ赤だ。もうこれは、ね。
「光…」
「はい、なんでしょう師匠」
にこやかに答えると、アールはぐっ、と親指を突き立てた。
「この鳥飼っていいわ!むしろ、大歓迎よ」
くわっと叫んだアールに若干驚きながら、大きく頷く私。
「師匠、ありがとう!」
「シショー!ピーチャンモ、アリガート」
嬉しげに羽ばたいたぴーちゃんを見て、校歌とか歌わせたらアレかな、とか思った。
ダーイナーク、ショーウナーク、ナーミーガーイイー………なんちて。
とりあえず、小さなもふもふな球体、ゲットだぜ!
ぴーちゃん!君に決めた!




