表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界フラグが立ちました  作者: ちょむ
第二章 もふもふは人類の救いである。
13/44

難しきモフな心

トキワちゃん視点です

 我輩は犬である。名前はトキワ。真名はフィデリティー。職業は精霊をやっている。よろしく。



 我の主はとても愛らしい。それはもう愛らしい。ふっくらとした頬にかぶりつきたいくらい…あっ鼻血出ちゃった。



「もふもふちゃーん」



 ……呼ばれた!主が可愛らしい声で我を呼ぶ、それだけでここまで嬉しくなってしまうとは我も堕ちたものだな。たかが人間ごときに尻尾を振るなんざ……



「あれ?トキワちゃん?ご飯だよ?」



『はい!主!我はここだ!』


 もう構わない。どこまでも堕ちてやろうと思う。



***



 今日の夕御飯はシチューだ。ふわふわと漂う美味しそうな香りに腹がなる。美味しい?もふもふちゃん、と笑う我が主に向かって、必死に首を縦に振った。良かった、と華が咲くような可憐な笑みを浮かべる主。嬉しくて千切れんばかりに尻尾を振った。



 まぁ、もふもふとはなんのことかといささか疑問だったりするのであるが、主の嬉しげな表情を見ると、そんなことどうでもよくなる。要するに、我は主の笑顔が大好きということなのだ。…いや、笑顔だけでなく、泣き顔も好きだ。主の泣き顔は可愛すぎて虐めたくなる。昔、精霊の中で冷酷大魔人と名を馳せた我、フィデリティーが言うのだから間違いない。



 ただし、嬉しげな表情にも2つの意味があるらしいということは、アレだ。白くてぷくぷくするいい匂いのアレ。ゴシゴシされて、毛皮がイタイ。さすがの冷酷大魔人も我慢できない痛さである。ま、まぁ、主が喜ぶのなら我慢するのもまた一興…すまぬ、ちょっと強がった。


 しかし本当に、主は未知なる者よ。アレで洗われてから、魔力が増えて行くのをかんじるのだ。こんなことは永きにわたる精霊生活の内に前例がない。まぁ、我は主曰く“ちゃれんじゃあ”だからな。食べたらもっと魔力が増えるのではないだろうかと思い、一度だけあの白いぷくぷくを食べてみたことがある。



 何?結果を知りたいだと?…止めてくれ、我の気持ちも察してくれたって良いだろう。思い出すだけであの不思議な苦さが舌に広がるような気がする。



 苦いだけで魔力は上がらなかったため、やはり主が何かをしているのだろうと思うのだ。まったく何と賢きお方。我の魔力を上げてくださるとは。それでこそ、この風の精霊フィデリティーにふさわしい。


 主最高。大好き。どこまでも着いていきます。


 主に絶対忠誠を誓った瞬間だった。




 しかし、主には毎回驚かされる。我がこのように人に絶対忠誠心を誓うのは、長い年月ときを生きてきた今までで初めてだった。何故かって?我は人間ひとが嫌いだからな。人間は嘘つきで我が儘、自己中で嘘つきだ。…あれ、嘘つき二回言ってしまった。いや、これはその…何だ、大事なことなので二回言ったのだ。ほ、本当だぞ。


 まぁそれは置いておいてだな。精霊は人間のせいで減っていってしまったと言っても過言では無いのだ。我の取り巻き達のほとんどは、人間からの仕打ちに耐えきれずに消えていった。我は、いつの間にかひとりぽっちになってしまったから、人間が大嫌いだ。


 だが、主とアールという者は違うぞ。主は言うまでもなく命の恩人であり、アールは我にとても優しいのだ。アールは主を愛す仲間としても、尊敬している。


 ただ、我が精霊であることは話していないため、犬という小さきものの鳴き声しかだせぬ。それでも、我に良くしてくれるアールが我は大好きだ。



 こうして平和な毎日を生きていると、精霊仲間アイツに言われた言葉が蘇るわけなのであるが、正直ちょっとイラッとする。アイツのドヤ顔を思い出してしまうからな。我よりも馬鹿の癖にドヤ顔しやがって。本当腹立つ。ああ腹立つ。



『フィーもわかるさ。人の良さが。儚くて、愚かだからこそ惹かれる何かを奴らは持っている。……俺のように、フィーを変えてくれる人間が見つかるといいな。』



 そう言って屈託なく笑ったアイツの言葉。あの時は馬鹿にしていたが…いや、アイツは今でも馬鹿にしているが、その言葉は今ならば分かる。


 主を知りたい。


 アールを知りたい。


 人間を、知りたい。


 そう思うのは、今更遅いことなのだろうか。…まぁ、愚か過ぎる人間は許せそうにないと思うのだが…嗚呼、コレを知られたら、奴らにからかわれそうだ。




 …否、それもいいかも知れない。我は長い間関わりを持たなすぎたのやも知れぬ。知りたい、と切に思う。


 人間のことも、奴ら…精霊のことも。



 どうであれ、近々奴らも気付き始めるのであろう。

 我の主が、我らが起こした失態の被害者、であることに。


 そして、我に笑いかけるのだ。いつものように。


 …その時は、笑い返してやっても良い。いつもなら冷酷大魔人の名の通りぶん殴ったるところだが…。


 愛する、守るモノが、出来たとな。そう言って、自慢してやろう。


 ああ、主。感謝してもしきれない。我は主のお陰で愛することの大切さを知ったのだ。


 人間に、精霊に。己以外の存在に。


 我から歩み寄って見るのも、

悪くないと思えるようになったのだ。


 主、ありがとう。トキワという名をくれて。これを聞くと、温かく、心地よいものにくるまれる。主と我を繋ぐ、名前をくれて。


 フィデリティーと呼ばれるより。奴らに、フィー、と呼ばれるより。トキワと呼ばれた方が何倍も嬉しい。


 そうだ。奴らにも教えてやろう。我の名は、トキワだと。


 主とアールを、いつか奴らに会わせてやりたい。


 ふと、皆で笑い合うところを想像して、頬が緩んだ。


****


「光!逃げないで着なさい!」


「やだよ、そんなのきないよ」


 騒がしい食後の風景。騒がしいが、この騒がしさを楽しいと思う己に苦笑した。

ぱちりと片目を開けて様子を見ると。


 楽しそうに追いかけるアールと、必死の形相で逃げ惑う我が主。アールが持つのは、買ってきたヒラヒラがついた服…“どれす”と言うものか。



 そして気付いた。…アール、路線変更したのか、と。大胆な“どれす”から、ふりふりの可愛らしい“どれす”に変わったのか、と。



 それにしても、アールのセンスは素晴らしきものだなぁ。少し前まで、露出度が高い服だったため、着せたくないと思っていたが…。その服なら良い。アール、我が許可する。


 きっと主に似合うだろう。


 ドタバタと走り回る二人をチラリと見て目を閉じた。



 この平和が

 ずっと

 続きますように。



「あああああ!」


 主の悲鳴を聞きながら、我も変わったものだな、と思った。









疑問はあるでしょうね。

心中お察しいたします。

ごめんなさい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ