素晴らしいよモフモフ
とまぁ、今に至る。
もう諦めました私。えぇ。
だから、諦めてフィデなんちゃらさんを使役することにしましょう。
まぁ、王道ならば、ここで私が『あなたを使役するなんて有り得ないわ、だって…友達でしょ?』みたいなことをいうのでしょうがね。
いかんせん、根元からひねくれてしまっている、主人公と言えない主人公なので言うわけがない。
そういうわけなので、悪しからず。
そしてさらに先ほどから、策士フィデなんちゃらさんに丸め込まれちゃった感があるのだ。
そんなのお友達でもなんでもないよね。
もうこれは完全なる敗北と言えよう。
だって、私が負けたようなものじゃん。
そうでしょ?
悔しいので、しっかりがっつりこき使ったるわコノヤロー!
働け!馬車馬のように!
ボハハハハー!
(あれ、この笑い方って…)
…でも私だってそこまで鬼畜じゃないよ。
もふもふをもふもふさせてもらうだけにする。
あとは、そのもふもふな背中に乗せていただくとか…あっ、鼻血出ちゃった。(変態。)
そして、精霊の使役の仕方だ。
やり方は初めて聞いたが、真名で契約して、名で縛るらしい。
え?何?
分からない?
バカヤロー私だって分かんないよ!内心凄く緊張しているんだよ!もう手のじっとり感がまずいよ!
だって目の前にいるのって、絶滅危惧種かつ天然記念物だものォォオ!
かなりレアなやつだものォォオ!
まぁ、フィデなんちゃら(いや、フィデリティーなんだけども)によると、名前をつければいいんだけなんだそうだ。
そこで、だ。
そこでなのだよ諸君。
「…名前ねぇ。」
実は、私。
名前のクオリティがスーパーギガマックスに低いんだ!
だって思いつかないもの!
五郎だの、太郎だのにすれば良いと!?
大五郎とか!?
『ちゃーん』って言わせるってかコノヤロー!
なんとまぁ酷すぎる仕打ち!
ごめん!
ごめんよ狼さん!!
だがな、諸君。←え。
私はやるときはやるんだぞぉう!
安易だけども、見つけた場所、森にちなんでつけた郷里の言葉。
「常葉でどうだ!」
…………。
言ってから後悔する。
だって、トキワって。
風の精霊だって言ってんのに!
もっと違うのがあったじゃん私!
なんかほら…疾風とかなんかあったじゃん私!
うわっ、疾風とかめっさかっこいいじゃないの!
うわぁぁあ!
キャンセル!キャンセル!
「ちょっ、まっ、精霊さん!」
しかし、慌てる私に気付くことなく、狼さんは頷いた。
『我が名、トキワ。この名を授けし者に誓う。この命、尽きるまで、汝の力になることを。』
「だからキャンセルだっつってんだよォオ!もォオ!」
ちょん、と湿った鼻先が額に触れる。
もう、知らない。
もうお前なんて、うわっあいつ風の精霊のくせにトキワなんて名前つけられてらァ、ぷぷ、みたいに笑われちゃえばいいんだ。
それでちょこっとヘコめばいいんだ。
むしろヘコめちくしょう。
………というか、あれ?
特には何も起こらないの?
なんかこう…ふわぁあってなるみたいな。
ピカッ、ドギャース!みたいなのもない。
つまらないなぁ。
絶滅危惧種かつ天然記念物の精霊と契約したっていう実感もわかない。
何だかなぁ。
チートみたいな感じにレベルアップするのにな、漫画とかは。
つまらない。
『我は何をすれば良い?』
けっ、つまんねーのと擦れている私の前で、そう言って立ち上がったのはトキワちゃん。
っていうかトキワちゃん。
やっぱりハヤテの方がかっこよかった。
だってなんかトキワって…。
凄く弱そう。
でっかいのに。こんなにでっかいのに。
そんなことを思いつつ、立ち上がった大きなトキワちゃんを見上げた私は、はっとあることに気が付いた。
どこぞの悪役よろしく、にやりと口角を上げる。
ふ、ふふふ…
早速、君の仕事だよトキワちゃん。
さぁほら、私のあの欲張りの塊を運ぶのだ!
え?何?
そんなことに精霊を使うなって?
私はね、使えるやつは何だって使う主義なんだよ。
たとえそれが、高貴なる精霊様でもね。
「トキワちゃん!」
『何だ、主。』
トキワちゃんの金色の目が、キラリと光った。
いやいや、トキワちゃん。
そんなに喜ばれてしまったら、むしろ罪悪感が…。
でも、運んで貰わなければならないのだ。
アールに食べさせてあげたい。
「アレ、運べる?重くて…」
『もちろんだ。』
トキワちゃんが言うが早いか、ふわりと風が起きた。
暖かくて、柔らかい風。
「…!?」
そしていきなり、重いはずの籠が持ち上がる。
びっくりするくらい、軽々と。
え。何でしょうか今の。
『我は風の精霊だからな。お忘れなきよう。』
さらには、驚きに身を固める私の体も風でふわりと持ち上がった。
ストン、とトキワちゃんの背中に落とされる。
その後、まるで私を安心させるように、柔らかな風が頬をふわりとなぜた。
『しっかり掴まっているのだ。暗闇の嫌いな主のために、飛ばすぞ。』
な、何故そのことを知っているんだトキワちゃん。
そして、何ですかこのスピードは。
「のぉぉ!」
後ろにぐいぐい押されるような風圧に負けまいと必死にトキワちゃんのもふもふな毛にしがみつく。
ぎゅ、と捕まっているせいで、恐らくトキワちゃんの背中には、毛を抜かれる激痛を感じているはずだ。
しかし、そんなことはもうどうでも良い。
自分だけで精一杯だ。
息がするのがかなり辛い状況の中で、あ、そういや鳥どうしたんかな、と今頃思った。
****
行くときにへろへろになりながら登った獣道がどんどん後ろに下がっていく。
あの私の頑張りって何だったんだろう、と思った。
私がトキワちゃんの背中でぐらぐらと揺れている間に、見慣れた川までやって来る。
トキワちゃんのスピードがゆるゆると落ち、私は息をくわっと吸い込んだ。
絡まった髪の毛を手櫛ですきながら、余裕が少し出来た私はふわふわと側で浮いている木の実の入った籠を観察。
どういう仕組みなのかなこれ。
目を凝らせば、ヒュンヒュンと何か渦のようなものが見える。
そうか、と気付いた。
竜巻のような原理で持ち上がっているんだ。
風って便利。
そんなことなど、いろいろな思いを巡らせていると、トキワちゃんが止まった。
「わぷっ」
『ヒカリチャン!!』
…痛い。ぶつけた。
じんじんと痛む鼻を押さえると、聞き慣れた奴の声。
「鳥!」
ああ、無事だったんだねお前。
あんまり心配してなかったけども。
トキワちゃんが怖いのだろうか、ぱたぱたと距離を保って飛ぶ鳥。
怖くなんてないよ、こっちおいでと言おうとすると、トキワちゃんが威厳のある声を出した。
『鳥、案内せよ。』
『ヒィィ!コワイヨ!デモワカッタヨ!』
ちょっ、トキワさんんんん!?
ガクブルになりながらかろうじて答える鳥。
やめたげて!おミソ少ないけども良い奴なの!
しかし、鳥は命令にしたがってコッチダヨ!と飛び出す。
パタパタと飛ぶ鳥の後をトキワちゃんがトストスとついていった。
私はといえば、トキワちゃんのもふもふな毛をここぞとばかりに堪能。
とても気持ち良い。最高。
それにしてもでっかいもふもふだなぁ。
狼ってこんなに気持ち良いもふもふを持っていたのか。
知らなかった。
今までの人生を損した気分だ。
よし、そうとなったらアレしかない。
え?分からない?
アレだよ。アレだってば。
使役と称してもふもふパラダイスを堪能してやる。
もっふもふにしてやんよ、とニヤリと笑った私。
瞬間、トキワちゃんと目が合った。
ぱっ、とそらされた目に若干ショックを受けながら、トキワちゃんにぎゅっとしがみつく。
流石トキワちゃん。
危機を察知したのか、しがみつく私の体の下でゾワゾワと毛が逆立った。
うふふふ。
私、久保井 光は、大きくてもふもふなペットを手に入れました。
****
家についた。
鳥は光の速度で逃げる。
(当たり前だ)
『ジャネ!』
ジャネって何だ。ジャネって。
呪文?
光の速度で行ってしまった鳥を見送って、トキワちゃんの背を叩きながら言う。
「トキワちゃん、おっきいから家に入らないや。小さくなったり出来ないの?」
トキワちゃんからひらりと降りて、その銀色の巨体を見上げた。
かなりの高さだよこれ。
首が痛いよ。
これは絶対無理だよ。
アールもこんなバカデカイペットは飼っちゃだめ!っていうでしょ。
そうだ。
向こうの世界でのファンタジーな物語の中で、大抵そういう奴は小さくなる王道設定だったような。
そして、その私の予想はストライク。
やっぱり王道は最高だった。
『案ずるな。主。我とてこのままの大きさでいようとはおもっておらぬわ。』
パァとトキワちゃんの体が光る。
銀色の綺麗な光が辺りを照らし、瞬きをして目を開けば。
「キャァ!可愛い!」
しっかりお座りした銀色のわんこがいた。
思わず飛びついてしまった私を、理解してくださいませ。
『うげ、主…苦し…』
「可愛い!凄く可愛い!最高!トキワちゃん最高!」
苦しがっているだとか、ヘッドロックかけてるように見えるだとか、私にはもう関係がない。
だって、可愛いんだもん。
むぎゅむぎゅと小さな体をなでくりまわしながら叫んだ。
えぇ。叫びましたとも。
外はもう真っ暗なんだとか、実は暗闇怖いんだとか。
全て忘れて撫で回した。
―――…
撫でくりまわして満足した私は、ぐったりしたトキワちゃんを抱えて家の中に入る。
ランプに手をかざし、魔力を探り、明かりを思い描けば、ぽぅ…とオレンジの光が灯った。
今更だけど暗いの怖いんだもん。ちなみに、ここだけの話、夜とかトイレ行くときは、そこらじゅうにある明かりをつける派です。
(ドヤ顔)
でもまぁ、結構明るいんだよ、これ。
まぁ、LEDには負けるけどさ。
その時、私の腕の中でぐったりしていたトキワちゃんだったが、いきなりふんふんと鼻を鳴らし始めた。
『主と、別の人間の匂いがする。』
「あぁ、アールって言う綺麗なお姉さんと暮らしてるの。トキワちゃん、お行儀良くね。」
『御意。』
興味深々なトキワちゃんを下ろし、ふわふわと浮かぶ籠を掴む。
そのままキッチンへと引っ張り、ドサリと床に押し付けた。
「トキワちゃーん、もういいよー」
ふんふんとそこら中をかぎまわっていたトキワちゃんは頷けば、重力が一気に戻ったように、なくなった手の反発。
なんだか、凄く便利なペットを手に入れたなぁと思いました。
あれ、作文?
ちらりと視線を動かして見ると、時計の針は7時。
いつもならアールと一緒に夕飯を食べている頃だ。
アールの大抵の帰ってくる時間は6時だが、今日はおそらく残業だろう。
何時になるのかはアール次第だ。
だけど…今日はずいぶんと遅くなってしまった。
いろいろあったからか、体がだるい。
だから、力の使いすぎは良くないんだ。
すぐ寝ちゃうから。
魔術を使うと、お腹が空くし、すぐ眠くなる。
ぐぅ、となるお腹をおさえつつ、夕飯の用意を始めた。
ジャムは明日にでも作ろうかな。
とりあえず、まずはご飯。
久保井 光
トキワちゃんともふもふライフ、始めます!
次は、アールさんとトキワちゃんの対面、かな?
おそらく…




