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異世界フラグが立ちました  作者: ちょむ
第二章 もふもふは人類の救いである。
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正義だよモフモフ

ゆらゆらと揺れる人影。


どこか懐かしく、温かいこの感じ。

この光景は、どこかで…。


そうだ。これは、向こうの世界の私の家だ。


クリーム色の壁、ブラウンの屋根。

お母さんが一生懸命手入れしている小さな庭には、可愛らしいカモミールの花が咲いている。


「…光、光」

あれ、お母さん?

どうしたの?


「……」

お父さん?

いつにも増して無口だね。

どうしたんだろう。

会社でまた部下がヘマしたのかな。


「おねーちゃん!」

あれ、弟?

なんで泣いてるの?

あんたが泣くなんておかしいよ。バスケの大会で負けたの?それともまた、近所のワルガキよっちゃんにカツアゲされたのかな?



あれれお父さん。

その手に持つのは、何?

もしかして、私が飛ばした紙飛行機手紙?

届いたの?


あれ、私って…?


「光、光なの!?」

お母さん、私はここだよ。

伸ばした手が、空をきる。

悲しそうなお母さんに、私の手は届かない。


「光!?」


お父さん、気付いてよ。

伸ばした手が、消エテイク。

どうして、どうして。


「おねーちゃん!おねーちゃん!」


ねぇ。私はここにいるじゃない。

どうして泣くの?

どうして気付いてくれないの?


何で私は


『薄くなっているの?』


髪の毛じゃないよ、体が。





―…あぁ、そうか。

そうだったね、忘れてた。


これは、ユメ。

私が都合良く創った、夢だ。


私は、ここに居ない。

存在、しないの。


消えかけの手を握りしめ、ぎゅ、と力を込めた。


ゆら、と揺れる、懐かしい影。


嗚呼、歪んでいく。

滲んでいく。


まるで、水面に波紋をつくるように。


涙で視界が曇るように。

私は、ここに、居ないんだ。


私の声も、手も。

あなたたちには届かない。



***



ペロン。

「…む」



温かな何かに包まれながら、目を開ける。


目の前のもふもふとした物体をさわさわと堪能しながら考えた。


あぁ、そうだ。

力、使いすぎたんだった。

ぼんやり、と周囲の様子が目にはいる。


その事実にやっぱり、と落胆した私がいて、不覚にも涙が出そうになった。


だって、それにしても、今更だよ。

あんまりだ、こんな仕打ち。


あんなに会いたいと思っていた時には夢にも見なかったのに。


今頃、遅いよ。

だって、私、異世界が楽しいんだ。

今更、私に何をしろと?

私に何をせよと?


さっきの夢の意味は何?


郷里むこうを想って、また目からポトフの汁を流せと?

そういう意味なの?


そんなの、くそくらえ。


もし神様がいるのだとしたら、その神様は馬鹿だ。

もしくはアホだ。

気まぐれだ、鬼畜だ、もう嫌だ。

神様ファッキン。



確かにね、帰りたい。

帰りたいよ。


でも、方法が見つからない。

だから、方法のないうちから向こうに想いを馳せてたら、私はバラバラになっちゃうよ。

精神的バラバラ殺人事件だよ。


ああもう、なんだかなぁ。

せっかく、乗り越えられそうだったのに。

嗚呼、胸が、痛い。

会いたい。アイタイヨ――…


ぎゅ、と目を閉じれば、枯れたと思った涙…いや、ポトフの汁が目から流れた。


ペロン。


「!?」


瞬間、生暖かなざりざりとしたものが、頬を伝わるポトフの汁を舐めた。

いや、え?

さわさわと、銀のもふもふを堪能していた手を止める。

えぇと。

私、力を使いすぎたんですよね。

あれ、何でだっけ。



――…あ、ああ。

思い出したけど、思い出したくないヨ。

あろうことか、私、狼さんに倒れ込んだ気がする。

もふりってした気がする。


……いや、気のせいだよ。うん。…気のせいだね。


気のせいだったら…良いな。

気のせ…


『目が覚めたのか。礼を言う。』

ああもう、気のせいも何もないよ。


ビシリ、と体を強張らせた私の上。

声が聞こえた。


「お、狼さん、ですか!」


…もう、なんて当たり前なこと聞いているんだろう私のアンポンチン。

だってここには私と狼しかいないはず。(鳥は?)



恐る恐る上を見上げれば。


『否。と言っても良い。』


楽しそうに笑う金色の目に、魅せられた。


****



「えーと、精霊さん、それはどういうことですか?」


夕日が辺りを照らす中、正座した私と、行儀良くお座りしたせいれいが向き合っていた。


銀色のふさふさした毛が、夕陽に照らされて凄く綺麗。

キラキラ光って見える。


『そのままの意味ぞ。命を助けていただいた恩を返したい。この風の精霊、フィデリティーの名に懸けて、全力でそなたを守りたいのだ。』


「え。それは…私に精霊さんを使役しろ、ということですかな?」

『我が主は、飲み込みが早くて素晴らしいお方だ。』


ナニソノべた褒め。

まぁ、フィデなんちゃらという名の精霊は、風の精霊だそうだ。


そんで、結局言いたいことは、助けてくれてありがとう、恩返しさせてくれよベイビーってことだ。

でもね、フィデなんちゃら。


「あの、使役とかいいですから。それに、私契約の仕方知らな…」

断ろうと顔をあげて、うっと言葉を呑み込んだ。


だって、だってね。


見てよ、これ。


大きな耳を垂れさせて、金色に光る瞳を潤ませて、もふもふ狼がしょげている。


『我は…用無し…なのか?』

「……えぇと」


思わず、頷いてしまいそうにな……、いやいや、しっかりしろ光!

騙されちゃいけないよ、光!


相手は精霊、私ごときが契約していいわけがないのだ。

騙されちゃ、いけない。

ダマサレては――


『主。我は、嫌われておるのか…?』


「わかった!わかったから泣かないで!」


思わず了承してしまった私。


こんなことって、アリなの?



というわけで、なんだかんだ言ってもふもふをコンプリート。


ああもう、なんだろう、トラブルの種になりそうなものは(むしろ苗だと思う)回避したかったのになぁ。


私の弱点って、押しに弱いところとお人好しなところだなぁとおもいました。


あれ、作文?



こんな拙作をお気に入りしてくださってありがとうございます!



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