正義だよモフモフ
ゆらゆらと揺れる人影。
どこか懐かしく、温かいこの感じ。
この光景は、どこかで…。
そうだ。これは、向こうの世界の私の家だ。
クリーム色の壁、ブラウンの屋根。
お母さんが一生懸命手入れしている小さな庭には、可愛らしいカモミールの花が咲いている。
「…光、光」
あれ、お母さん?
どうしたの?
「……」
お父さん?
いつにも増して無口だね。
どうしたんだろう。
会社でまた部下がヘマしたのかな。
「おねーちゃん!」
あれ、弟?
なんで泣いてるの?
あんたが泣くなんておかしいよ。バスケの大会で負けたの?それともまた、近所のワルガキよっちゃんにカツアゲされたのかな?
あれれお父さん。
その手に持つのは、何?
もしかして、私が飛ばした紙飛行機手紙?
届いたの?
あれ、私って…?
「光、光なの!?」
お母さん、私はここだよ。
伸ばした手が、空をきる。
悲しそうなお母さんに、私の手は届かない。
「光!?」
お父さん、気付いてよ。
伸ばした手が、消エテイク。
どうして、どうして。
「おねーちゃん!おねーちゃん!」
ねぇ。私はここにいるじゃない。
どうして泣くの?
どうして気付いてくれないの?
何で私は
『薄くなっているの?』
髪の毛じゃないよ、体が。
―…あぁ、そうか。
そうだったね、忘れてた。
これは、ユメ。
私が都合良く創った、夢だ。
私は、ここに居ない。
存在、しないの。
消えかけの手を握りしめ、ぎゅ、と力を込めた。
ゆら、と揺れる、懐かしい影。
嗚呼、歪んでいく。
滲んでいく。
まるで、水面に波紋をつくるように。
涙で視界が曇るように。
私は、ここに、居ないんだ。
私の声も、手も。
あなたたちには届かない。
***
ペロン。
「…む」
温かな何かに包まれながら、目を開ける。
目の前のもふもふとした物体をさわさわと堪能しながら考えた。
あぁ、そうだ。
力、使いすぎたんだった。
ぼんやり、と周囲の様子が目にはいる。
その事実にやっぱり、と落胆した私がいて、不覚にも涙が出そうになった。
だって、それにしても、今更だよ。
あんまりだ、こんな仕打ち。
あんなに会いたいと思っていた時には夢にも見なかったのに。
今頃、遅いよ。
だって、私、異世界が楽しいんだ。
今更、私に何をしろと?
私に何をせよと?
さっきの夢の意味は何?
郷里を想って、また目からポトフの汁を流せと?
そういう意味なの?
そんなの、くそくらえ。
もし神様がいるのだとしたら、その神様は馬鹿だ。
もしくはアホだ。
気まぐれだ、鬼畜だ、もう嫌だ。
神様ファッキン。
確かにね、帰りたい。
帰りたいよ。
でも、方法が見つからない。
だから、方法のないうちから向こうに想いを馳せてたら、私はバラバラになっちゃうよ。
精神的バラバラ殺人事件だよ。
ああもう、なんだかなぁ。
せっかく、乗り越えられそうだったのに。
嗚呼、胸が、痛い。
会いたい。アイタイヨ――…
ぎゅ、と目を閉じれば、枯れたと思った涙…いや、ポトフの汁が目から流れた。
ペロン。
「!?」
瞬間、生暖かなざりざりとしたものが、頬を伝わるポトフの汁を舐めた。
いや、え?
さわさわと、銀のもふもふを堪能していた手を止める。
えぇと。
私、力を使いすぎたんですよね。
あれ、何でだっけ。
――…あ、ああ。
思い出したけど、思い出したくないヨ。
あろうことか、私、狼さんに倒れ込んだ気がする。
もふりってした気がする。
……いや、気のせいだよ。うん。…気のせいだね。
気のせいだったら…良いな。
気のせ…
『目が覚めたのか。礼を言う。』
ああもう、気のせいも何もないよ。
ビシリ、と体を強張らせた私の上。
声が聞こえた。
「お、狼さん、ですか!」
…もう、なんて当たり前なこと聞いているんだろう私のアンポンチン。
だってここには私と狼しかいないはず。(鳥は?)
恐る恐る上を見上げれば。
『否。と言っても良い。』
楽しそうに笑う金色の目に、魅せられた。
****
「えーと、精霊さん、それはどういうことですか?」
夕日が辺りを照らす中、正座した私と、行儀良くお座りした狼が向き合っていた。
銀色のふさふさした毛が、夕陽に照らされて凄く綺麗。
キラキラ光って見える。
『そのままの意味ぞ。命を助けていただいた恩を返したい。この風の精霊、フィデリティーの名に懸けて、全力でそなたを守りたいのだ。』
「え。それは…私に精霊さんを使役しろ、ということですかな?」
『我が主は、飲み込みが早くて素晴らしいお方だ。』
ナニソノべた褒め。
まぁ、フィデなんちゃらという名の精霊は、風の精霊だそうだ。
そんで、結局言いたいことは、助けてくれてありがとう、恩返しさせてくれよベイビーってことだ。
でもね、フィデなんちゃら。
「あの、使役とかいいですから。それに、私契約の仕方知らな…」
断ろうと顔をあげて、うっと言葉を呑み込んだ。
だって、だってね。
見てよ、これ。
大きな耳を垂れさせて、金色に光る瞳を潤ませて、もふもふ狼がしょげている。
『我は…用無し…なのか?』
「……えぇと」
思わず、頷いてしまいそうにな……、いやいや、しっかりしろ光!
騙されちゃいけないよ、光!
相手は精霊、私ごときが契約していいわけがないのだ。
騙されちゃ、いけない。
ダマサレては――
『主。我は、嫌われておるのか…?』
「わかった!わかったから泣かないで!」
思わず了承してしまった私。
こんなことって、アリなの?
というわけで、なんだかんだ言ってもふもふをコンプリート。
ああもう、なんだろう、トラブルの種になりそうなものは(むしろ苗だと思う)回避したかったのになぁ。
私の弱点って、押しに弱いところとお人好しなところだなぁとおもいました。
あれ、作文?
こんな拙作をお気に入りしてくださってありがとうございます!




