背後にご用心
※百合、ガールズラブ等に抵抗のある方はご注意ください
「B組の子がこくったんだってー」
「ええっ、だれに?」
「おなじB組の子らしいよ?」
「へ~、レズっていたんだぁ」
不意に耳に届いた噂話に、葵は帰り支度をしていた手を止めた。
ここは私立フィリス女子高等学校。
お嬢様学校だとか世間では思われているらしいけど、中身はわりと普通の女子高生たちの集まりだ。
少なくとも葵はごく普通の公務員の両親を持つ、中流家庭の出身だった。
「そっか。ここって女子しかいなかったんだっけ」
ぼんやりと確認するようにつぶやくと、ゴン!と痛そうな音を立てて横の席に座っていた明子が机に頭をぶつけた。
「え、ちょっと。今ごろ!?もう高校3年になろうっていう今ごろ気づいたみたいな・・・」
「あ、うん。だって、気にしたことなくって」
恥ずかしいなぁ、と思いながら葵が笑うと、明子はぶつけた頭をさすりながら起き上った。
「うん、なんかあんたぼんやりしてるし。そうかもね」
「ぼんやりしてるかな?」
「マイペースって言うか。我が道を行くみたいな」
自分の言葉に納得したのか、明子は何度もうなずいた。
葵はただ物事を考える時間が人より長いだけだと、むっと唇をとがらせた。
明子は「やれやれ」と言いたげにため息をついて、教科書類をすべて机とロッカーに仕舞い、軽くなった学校指定カバンを持ちあげた。
「ほら、帰ろ」
「うん、あきちゃん」
明子とは違って、明日の授業の予習のために教科書類が詰まった重いカバンを持ち上げて葵も立ち上がった。
学校から指定された通学路から外れ、クレープ屋に寄り道したふたりはテイクアウトして食べ歩きながら最寄りの駅へ向かっていた。
「でも、さっきの噂さ。あんた気を付けなよ」
「え?」
明子が苺ミルフィーユのはさまったクリームたっぷりのクレープを食べながら言った。
葵はぽかんと口を開けて呆けた。
手に持ったミックスサラダをはさんだクレープを思わず握りつぶしそうになる。
明子に言わせれば、甘くないクレープは邪道らしいが、葵は美味しければいいと思っていた。
「気を付けるってなにを?」
「けっこうレズっているらしいから。あんたみたいに、ぽやーっとしてたらさ・・・流されて気が付いたら付き合うことになってました~みたいなことになってたり」
「そんなこと・・・」
苦笑して手を振り、否定しながら葵は内心あまり気に留める必要はないなと思っていた。
葵にとって恋愛はまだ早いもので、大学生とかもっと年齢が上になってからするものだと考えていた。
クラスの子たちや今どきの女子高生の事情からすれば遅いくらいだと自覚していても、これが自分だった。
このあたりの考え方が、明子からマイペースと言われる所以だったりするのだが。
クレープを食べ終わった明子は、手についたクリームをなめとりながら言った。
「ふぅん?そのときになって助けてって言っても知らないからね」
「大丈夫だよ。私が対象になることはないと思う」
恋愛から遠い葵は、身だしなみも校則にそっていればいいという程度に整えるに止まっていた。流行の服や話題のメイクに興味もない。
その点、何度風紀委員に注意されようと茶髪で流行りの髪型とメイクをし続ける明子はまぶしいくらい綺麗だった。
「男子より女子が好きって子は、きっとかわいくてオシャレな子が好きなんだよ。だから大丈夫」
葵の言葉に明子は驚いたように目を見開いた。
「葵ってレズのことなんとも思わないの?」
「うん・・・?」
「だって、さっきから全然レズのこと否定しないじゃん。ほら、キモチワルイ!とかさ」
そう言われて、葵はふと考え込んだ。
指摘されてみれば、そのとおり。
偏見や嫌悪感はまったく感じない。ただ、恋愛から離れすぎている感覚がそうさせているのかもしれないが、仮にクラスの中で女子同士のカップルがいても気にならないだろう。
ぼうっと思考にふける葵は、いつの間にか足を止めた明子がぽつりとつぶやいた一言を聞きのがした。
「ほんと。私に食われちゃっても知らないんだから」
「なにか言った?あきちゃん」
「ううん、ほら駅ついたよ」
葵もようやく食べ終えたクレープの包み紙を折りたたんだ。
ゴミ箱を探して視線を左右に動かしていると、明子が手を出してきた。
「私が乗る方のホームにゴミ箱あるから、そっちで捨てといてあげる」
「わぁ、ありがとう」
葵はぱっと笑って、明子に包み紙を手渡した。
「じゃあ、また明日ね」
「うん、またね」
お互い手を振って、それぞれの帰りのホームへ向かう。
明子は葵の姿が完全に見えなくなると、手に残った葵の包み紙をそっとカバンに入れた。
こんなゴミでも残しておきたいと思ったのだ。
「葵の鈍感。・・・ばーか」
そして明日も変わらぬ日が続く。
卒業式の日に「あ、ここって女子ばっかの女子校だ!」と気づいた阿呆はワタクシ作者ですorz
自分のスルースキルに戦慄しましたwww




