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相違点

 男を拘束してトラックの箱状荷台の中に放り込む。扉を開け放したそこで、一定の距離を開けてエミールが銃を構えて男を狙っていた。

 下手を起こせば撃ち殺す。

 そもそも素直に情報を提供するという可能性がごく低く、また得たソレが正確だと言える証拠がないために、それほど彼に固執する必要はなかった。

 また今日のように街の構造を理解し敵に地の利を与えぬようにしながら、虱潰しで探し続ければいい。

 ビザが無いが、まだ三ヶ月近くの猶予はあるのだ。

 仮にエミールの発砲でさえも男の能力によって殺せない場合、というか、そもそも男がする”下手な行動”が”能力の施行”であるために、彼がうっかり間違えてでも圧力を操作してみせれば、その瞬間に問答無用でトラックの燃料タンクを、ダニエルが構えるRPG-7で破壊しもろとも爆発させる手筈になっていた。

 だがあらゆる意味で最も危険と言えるのが、男から情報を吐き出させる瞬間である。何にしても動くという事象が、均衡状態よりも遙かにチャンスを与えやすいのだ。

「なんだよ、結局そっちの収穫はナシって事か?」

『表向きは、ですね』

「イワイが居ない理由がそこにつながるのか」

『傍受されている可能性が否めないので言えませんが、まぁどの道バレててもプレッシャーかけることにはかわりないので、そうですね。ソレらしき人物を尾行中で、当分は私から一方的に衛士さんへ状況を説明させて頂きます』

 イヤホンからミシェルは告げ、アンナが突き出す端末から応じて言葉を返す。

 それからやがて通話は終えて、彼女は衛士が下ろす手を拾い上げるようにして通信端末を握らせた。

「しかし、尾行だとか潜入はアンナの方が得意だろうに。案外紳士なヤツだな」

 衛士が言うと、アンナはそっぽを向く。何か気に触ったみたいだが、彼は気にせずトラックの荷台から飛び降りたギャラングへと歩み寄っていった。

 が、彼は肩をすくめて首を捻る。顔は苦いものでも噛み締めたようにしかめて、うんざりしたような様子を見せていた。

「駄目だ、奴ぁ口を割るどころか唾吐いてきやがった。だが抵抗できない奴に手を出すのもなー」

「そうか……ならオレが行く。アンナはここで待っててくれ」

「無駄だと思うがな。殺すなら俺達に任せてくれよな?」

「あぁ、わかってるって」

 耳に差したイヤホンを、アンナの耳に差し返す。顔に帯を巻く彼女だが、額から鼻先まで、そして耳を避けて居るためにそれが可能であった。

 長い髪をかき分けるようにしてそうすると、彼女は鬱陶しそうに手を払う。

 衛士はそれから端末に声を掛けると、すぐさまイヤホンから反応があったのか、アンナはOkのサインを出した。

「んじゃこれから話を聞きに行くから、頼むぜ」

 返事は聞こえず、故に一方的に話しているような感覚になりながらも、衛士はジャケットのポケットにソレを忍ばせ、また手袋をしっかりと伸ばしてからトラックの荷台へと乗り込んだ。

 ――アルミの床は、歩くと軽い足音を鳴らした。

 それによって衛士の存在を察知したのか、目隠しされている男は後ろで縛られた両腕を振り回すようにして自身をアピールし、やがて静かに落ち着いた。

「分かる。お前は俺の頭をぶん殴った奴だ」

「まぁタイミング的に分かるだろう普通」

 しかし、猿轡さるぐつわを外したままなのか。

 衛士はそれを見て、短くため息を付いた。

 最初は歯向かう気など失せる様に、程良く一方的に傷めつけるのが定石セオリーであると衛士は考えていた。無論殴る蹴るの暴行だが、軽症程度に収まるものだ。痛みは派手だが怪我にはならぬ、といった攻撃のみである。

 衛士は依然と立ったまま、見下ろす形で言葉を投げた。

「PMCはお前らが協会だってのは知らないし、協会の存在も知らない。ただ超能力の概念だけは教え込んだ。この街で生きて行くためにな」

「ははは、せいぜい頑張れよ」

「とはいえ、お前らは知ってんだろ? 機関が特異点を狙ってここに来たのは」

「機関ン? 特異点ンン? なんだそりゃあ、しらねえなあぁ?」

 衛士は足は振り子のように後ろに持ち上がったかと思うと、鋭く放ったそのつま先が素早く狡猾に、男の眉間を蹴り上げた。

 男は仰け反り、短い悲鳴を上げて荷台の壁に叩きつけられる。それだけに留まらず転がる男は、そのまま奥の壁にぶつかった。

 音は反響し、耳にやかましい音となり果てた。

 痛い痛いと喚き全身をのたうち回らせる。衛士はそんな男の腹を蹴り飛ばし、そして首筋を力強く踏みつけた。

 壁に床に、様々な場所に様々な箇所を打ち付ける。それだけで痛々しいが、最初の一撃で流れ出した鼻血が、その場面を残酷に見えるよう演出していた。

「吐かなけりゃ良いさ。お前の仲間を煽る為に生かしてやるよ」

 つまりは拷問に見せかけた見せしめだ。

 衛士は本で読んだ様々な拷問術を、瞬く間に記憶の海から引き出した。

 爪剥ぎにのこぎりき、全身に蜜を塗って自然の中に放置、指に釘を刺したり、逆さ吊り。その他様々な方法があるが、それを行うだけでも一苦労だ。が、それで連中が寄ってくるのならば易いものだと衛士には思えた。

「がぁ……っ! は、手前の命を引き換えにして仲間を差し出せってかぁ!?」

「戦うつもりなんて毛頭ねえんだよ。お前は無関係な人間を殺しすぎた。だから因果応報的に、殺した連中の仲間に襲われたんだろ? 自業自得なんだよ馬鹿が、生きてる内に頭使えクズ」

 細い首に掛ける体重を徐々に増やしていく。踏ん張るようにして強く踏むと、男はやがて言葉数を少なくしてきた。

「何が、目的だ……?」

「お前らが回収した特異点と接触することだ」

 接触して何を話せばいいのか、どんな事をすればいいのか。

 それら全ては説明されていない。だから本当に目的が接触だけなのか、衛士にも分からなかった。

 接触がイコール殺害につながるのかも知れない。それが暗黙の了解なのかも知れない。だが衛士はただ伝えられたままを行うまでであり、また仮にこの場が協会の連中に囲まれたとしても、相手が手を出さぬ限りはこちらも手を出さぬと決めていた。

「と、特異点……あの野郎か。接触してどうするつもりだ」

 どうやら本当に特異点は存在し、そしてソレはこの街にいるらしい。男の様子は見る限り真剣で、素直に零れた言葉だということを認識して、衛士は話半分以上で聞き、そして頷いた。

 その情報だけで、男の有用性は垣間見えた。

 この街に居るならばこれからは門から出ていく人間を監視し、あるいは外壁を登るような不審行動に目を光らせればいい。その上で街を歩けばいずれぶつかる筈だ。

「接触し歓談。その結果によっては行動は異なるだろう」

「なら尚更言えるはずがない……しん――あの野郎は、簡単に揺らぐとは思えないが、だが……」

 言いかけた言葉に、衛士は機微に反応した。

 しん。

 不意に漏れた言葉は恐らく彼が常々口にするその特異点の呼び名だろう。しん、から続く名前だろうか。あるいはあだ名、とまでは行かぬが、外見的特徴から作る名称。しかし考えるには、それはあまりにも情報が少なすぎた。

 せめてあと一文字あれば、と衛士は唸る。

 ここで反応したと男に察せられるのは痛い。飽くまでこちらが絶対的優位で居なければならないのだから、そういった弱みは男の追い詰められた精神に余裕を与えてしまうのだ。

 そうすれば情報は引き出し難くなる。

 それだけは避けたかったのだ。

「少なくとも人口調整、あの合法テロで野郎は全てを失った。それなのに機関を許せるハズがない。何も出来なかった己さえもまだ恨んで、ならせめてって積極的に俺たちの活動に関わってきてるくらいなのによ」

「聞く限りじゃ、そうだろうな。接触したとして、問答無用で殺されるのはオレたちかも知れないし」

「殺されとけ、ウジが」

「さて、雑談は終わりだ」

 足を上げ、振り下ろす。男はまた呻いて、今度は血反吐を吐いてみせた。

「その野郎の特徴は?」

「……黒い服だ」

「取るに足らねぇ情報で誤魔化してんじゃねーよ」

 首に乗り、浮かび上がる片方の足で腹を蹴飛ばす。固定しているが故に動かぬ肉体は、それ故に鋭く穿たれたつま先を飲み込み突き刺された。また鈍い手応えに、ボキンと小気味よく響いた音が、アバラが幾本か折れたのを教えてくれる。

 男は大口を開けて声にならぬまま悲鳴をあげる。空気が擦れて鳴る音のような叫びを耳にしながら、衛士はいくらかやりすぎたかと思った。

 だが無関係な人間を巻き込んで十数人を葬っている男だ。

 どちらにせよこの程度は生易しい。

 あのギャラング達に任せれば、怨念も相まってより想像するのも恐ろしいことになるだろう。

「し、神父だ。格好が、黒のロングコートみたいな。胸に白い枠で十字が切ってある」

「しんぷ? 神に仕える神父か?」

「髪が真っ白で、坊ちゃんみたいな整った顔つきだ。まずこの南アに居るってのがおかしいくらい、たぶん街にでれば浮いてる」

 男は先程の一撃が余程効いたのか、せきを切ったように情報を垂れ流し始める。といっても特異点の外見的な特徴だけであるが――必要な情報というのがソレだけなので、目的は半ば達成したようなものだった。

「それで、潜伏先は?」

「……駄目だ。それだけは……」

「ならお前等は何人いるんだ?」

「そ、それも――」

 首元に突きつけたブーツのつま先が喉仏を押し上げる。途端に男の声は鈍く重く、やがて空気中に溶けるように消え失せた。

「黙秘は一回だけなんだぜ?」

 今は飽くまで男が直ぐに答えられそうな質問を投げているだけに過ぎない。

 明らかに時間を掛けねば、男をさらに痛めつけなければ抜き出せぬような情報は最後にとっておく。ソレまでの過程で彼が大怪我を負い、本来聞きだせるはずの情報が聞き出せなくなる場合があるからだ。

「んで、何人?」

「お、俺を入れて、九人……だけど、他五人は本国へのルートを選んで、手段を入手したり、先行して戻ったりでここには居ない。当分戻らないし、来るのだって、一週間後。俺たちがここから出る日だ」

 つまりこの街に居る協会連中は四人。そこに特異点である神父を加えて五人。

 この男程度の能力者が居るとなれば、中々どうして、かなり苦戦しそうであるのが容易に想像できた。

 彼は間抜けだが、過信が過ぎなければやり辛い相手だ。圧力を操作し、まず頭を爆発させるという発想からその躊躇がないことがよくわかる。能力を中心とした戦闘が多いのであろう。故に能力を使用することに於いては、十分に長けていた。

 そこを逆手にとった手段で勝つことが出来たが、よくわかる例をここで出してしまったためにこの勝利は続かない。

 敵は学ぶのだ。

 ゲームのようにはいかない。

 人は死ぬし、傷が出来れば痛い。現実の中でこれら全ては起こっている。

 改めてそう考えると、なにやら感慨深くなる。

 まさかオレがこんな所に立つ羽目になるとは、と。

 考えると途端に現実感が喪失なくなったように思えた。意識が自分の外にあるような感覚。本の世界に没頭して、その主人公に感情移入し自身さえもその世界に入り込んでしまっているような錯覚。

 だがそれらも、さらに深く考えると不意に実感が湧いてきた。

 ――何度も殺されかけた記憶。そして己の無力故に散っていった人の影。衛士が今ここに立っていられるのは、一概にそれらのおかげと言っても過言ではない。

 衛士はそれを思い返し、そして決心をより強めた。

 強くなる。誰よりも――誰にも負けないくらい。

 実際彼が決意するように、時衛士の実力は機関ホームの仲間が評価するほどのものではない。

 その実、彼らは皆衛士の成長、その将来さきに賭けている。いや、正確には賭けるというよりも待っていた。

 彼なら確実に上ってくるであろう高み。時衛士の本質を剥き出しにした能力ちから。それを含めた戦闘能力、人格、その全てを。

 短期間の内にあらゆる事象、喪失に襲われ、乗り越えたからこそ貰えた期待値。それはおよそ第三者そとから見れば異常なほどに高かった。そして恐らく、時衛士本人がその実力を研ぎ身につけ認めたその時、その力は完成する。

「も、もう良いだろ? お、お前だって強いってわけじゃあ無い。幸運が重なって上手く勝てただけだ――負け惜しみじゃない。あの状況からじゃそうだ。次を撃ってこなかったって事は、つぎが無かった。だろ……?」

「まぁ、アンタの言う通りだ。だがコイツは不良のケンカじゃねーんだよ。人が死んでんだ。お前をどうするか、オレが決められるわけじゃない」

 結局、例の神父の潜伏先は分からないし、これから彼を痛めつけようとも流石に口にはしないだろう。

 こういった類は敵には非情で仲間想いが多い。といっても、自身が生き残った際の拠り所を守るための、本能的な自己防衛なのかも知れないが。

 首から降りて、そのまま床を弾いて背後に跳ぶ。後退してそのまま入り口まで退いた。

「アンタがもし生き延びれたら、オレはアンタに殺されるかもな」

 恨み辛み。それがあることは勿論、この男にはそれを可能とする力がある。

 能力ばかりに頼った戦闘は確かに頂けないが、得意なものに特化した戦闘となれば話は変わる。衛士はただ射撃の腕が普通ではなかったから狙撃の腕を磨いたのだ。それが彼にとっては、与えられた能力ちからであるだけの話だ。

 実際に懐に入り込んだ所でギャラングがやられたような圧力を掛けられれば、仮に未来を視えていたとしても逃げられない。後は嬲り殺されるだけだ。

「は、てめぇの強さってなんだ……?」

「強さ……か。知らねぇな、そんなもの」

「あははは! なら良い、てめぇは死ぬぜ!」

 その言葉を聞きながら、衛士は床を蹴ってそのまま荷台から飛び降りる。

 吼えるのを最後に見て、その場を後にした。全てを失い感情の抑圧コントロールが壊れてしまったように目を見開き歯を剥いて叫ぶその狂気じみたその顔が、衛士には少しばかり印象的で――畏怖し、思わず身体を震わせた。


 外に出ると既に白んでいた空は完全に蒼く染まり上がり、既に太陽が東の空に浮かび上がっていた。

 トラックから降りた衛士に真っ先に寄ってきたのはギャラングだった。衛士はポケットの中の端末を操作して通信を切断すると、そのまま聞かれるがままに質問に応答する。

「情報は?」

「あぁ、大まかだけどまぁ十分。後は好きにしていい」

「とは言うがなぁ……アイツの事、どう思う?」

「ん? どうって……」

 ギャラングは言い難そうに刈りこまれた頭を掻いて、さらに深く衛士へと踏み込んだ。口元に手で壁を擦るようにして、押し殺すように言葉を紡ぐ。

「正直言えば興が冷めた。いや、飽きたって事じゃない。確かに仲間をられたのは頭にクるが……それがぶっ飛ぶ位ド肝を抜かされたんだ。今回の戦闘は尋常じゃない。超能力ってのが良く分かった。アイツらは異常だ」

 異常だ――その言葉が胸に突き刺さる理由が、衛士にはよく分かった。

 それは同時に自身の事を言われているも同じだったからだ。能力がどういったものかは違えど、人が持つはずもない特異な力を持っていることは確かなのだ。たとえそれが予知能力だとしても。

 衛士はその台詞に、即座に言葉を返すことが出来なかった。幸運なのは、ギャラングが不思議に思わず周囲を気にせずさっさと言葉を続けてくれたことだった。

「俺達は街のゴロツキでも、民兵でも無い。ここでは終わらない、次がある。俺たちはアクティブ・アームズ……PMCだ。この街に雇われて仕事に来ている……連中にも仲間は居るだろう。次狙われれば俺たちとて危うい。だが今回は何が何でも戦っていただろうし、お前が居なけりゃ死んでいた――が、冷静になってみれば酷く馬鹿な行動だ」

 この男、ギャラングが弱音を吐露するのも無理がない。

 そもそも弾丸飛び交う戦場で、知識、技術、戦略、経験、運等の生まれ持ってそれぞれが磨き上げた、平等に与えられたそれらだけで戦ってきた彼らには、特異能力という現象、事象はあまりにも突飛すぎたし異常すぎた。

 対処法が判らない。さらに個人ごとに能力は異なり、人間ごとに戦闘力は完全に未知。死を決する自爆テロや地雷、狙撃兵スナイパーよりも程恐ろしい存在に、彼には思えて仕方がなかった。

 故に口に出来なくとも、彼が何を思っているのかよく分かった。

 ここでアイツを始末したあとが怖い。もう引き返せないのはわかるし、関わっちまった以上そうするつもりもないが――お礼参りが怖い。狙われるのが恐ろしい。出来ればここで手を引きたい――そう思っている。衛士にはよく分かった。

 さらにそれを仲間に言い出せないのは、単に隊長としての威厳プライドがそうさせているのだろう。あるいは他に理由があるのかもしれないが――少なくとも彼は、ならば自分からと、ギャラングを突き放すことにした。

 だから衛士は仕方なく嘆息すると、

「ごめん」

 小さく謝罪した。

 直後、振りかぶらぬ拳が、ギャラングが反応するよりも速く抜かれて飛来する。刹那にして顔面に突き刺さるパンチは、故に彼に大いなる驚愕と痛みを与えていた。

「オレに従えねーっつぅなら失せろ! これ以上何か言ってみろ、夜道を歩くときはビクビクしなきゃならなくなるぜ! あの野郎はオレが引き取る、これからの一切に二度と関わるな!」

 同じ世界の人間だと思った。

 心強い仲間が出来たと思った。

 だが全ては違っていた。いや、恐らく仲間と思えたのはどちらも同じだったが――とても背を預けて戦える仲間じゃない。

 彼らが弱いというわけではないし、実際衛士より実力が格段上なのは確かだ。が、相手にしてきたものが違う。衛士ら機関の人間は付焼刃スケアクロウと幾度と無く戦闘し、あらゆる場面での対処を柔軟に、その場で考えられるように鍛えられてきた。

 だがこのギャラングらは違う。

 飽くまでただの人間と戦い、そしてこれからもただの人間と戦っていく。彼の実力が単純に、能力を使用する付焼刃を上回っていたとしても、能力が不安因子である限り彼は畏怖する。今回を回想し恐怖する。立ち向かえたとして、それが隙になり、死に直結する。

 それは衛士にも言えることだった。

 彼と同じ戦場で肩を並べれば、また常とは違う雰囲気、戦略、行動に戸惑い、慣れぬ、学ばぬ内に殺される。

 簡単に言えば、”畑が違う”という事だった。

 だから無理に、感情に則って命を無邪気に晒すのも躊躇われる。仲間を統べた隊長ならば、そう判断できて当然だし、今回の命の恩人たる衛士にそれを口に出来るのは冷静な判断ができている証拠だった。

 それが彼が慕われる理由でもある。

 衛士はそれがなんだか羨ましくなりながらも、角度的に彼らの仲間には自身の表情が見えない故に、笑顔をギャラングに見せていた。

「なら直ぐに街を出たほうがいい。荷物はあるしトラックだってある。何、そのうち否が応でも街は……警察は機能しなくなる。オレたちの敵ってのはそういう連中だ」

 最も、これまでと戦った付焼刃よりは幾らかレベルが高く冷静だという違いはある。が、本質的な違いは無いはずだった。

 ”以前まえのようなクズ”は居ないだろうが――それでも、協会やつらとは戦わなければならない。任務とは別に、ごく私的な理由がそこにはあった。

「じゃあな! しっぽ巻いて逃げるんだな!」

 衛士は呆気にとられるダニエルの横を過ぎると、銃を下ろして何がなんだか分からぬように光景を見守るエミールに視線で追われながら再びトラックの中へと戻って、

「ははぁ、てめぇらもう仲間割れ――」

 水月を蹴りで穿ち、怯んだ所を拾い上げて肩に担ぐ。

 衛士は再びトラックを降りると、今度は待っていたアンナを引き連れ、立ち尽くすギャラング等に背を向け、ただの一瞥もすることなく街の中へと姿を消した。

 終わらせた覚えのない今日は気がつくと終わり――また新しい今日が始まる。

 衛士はうんざりするようにため息を付いて、ようやく活気が失せ始める街の中を闊歩した。

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