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プロローグ 日常の終わり

俺の名は街道流風カイドウルカ

16歳。

数学苦手な超文系な高校生である。


いつもの帰り道。

とは言っても、俺はいつもと違って一人で帰っていた。

なぜならいつも一緒に帰る友人が、今日は生徒会役員の話し合いとやらで遅くなるって言ってたから。


車がたまーにしか通らない、静かな住宅街を俺は歩いていた。

時は夕方、体内時計で午後6時ほど(俺は体内時計の正確さに定評がある)。

オレンジ色の夕日に照らされて、俺の影はびろーんと平たくものびやかに伸び、俺の動きにあわせて楽しげに踊っている。

その長さ、実物の俺の約1.5倍。


うん、ここ最近日が長くなってきたよな。

ちょっと前まではこの時間帯真っ暗だったのに。

まだ肌寒さがあるけど少しあったかくなってきたし、春が近づいてきましたってカンジ。

春の気配が近づくと、何か楽しいことが始まりそうな気がする。


なんて感じに、俺は定かではない未来に、わけもなく心を躍らせていた。


--実際に訪れた現実は、最悪だったが。


それは、唐突に訪れた。


☆☆☆☆


「クケエエェーッ!!!」


突然、劈くような耳障りな鳴き声が、閑静な住宅街に響いた。

いや雰囲気として啼き声、の方が正しいかも。


同時に、太陽が翳ったような気がした。

いや翳ったのではない。さえぎられたのだ。

地上に大きな影が落ちる。


「ッ!!??」


それはやたらとでかい、鳥の形をした影だった。

俺が歩いている道の幅は車二台が余裕ですれ違えるくらい。

鳥の影は、その翼部分が道幅を余裕で超えて、道の両端の塀で直角に折れ曲がって投影されている。


その影が、俺を含めた円の半径10mくらいを悠々と回っている。

まるで、何か-例えば、獲物なんかを探すかのように。


見ちゃいけない。

ていうか見る暇あるなら逃げろ。

本能はそう告げつつも、俺は上を見上げずにはいられなかった-


俺は恐る恐る上を見上げ-その鳥の威容に、思わず声を上げた。


「ぎやああああああああっ!!!!」


それは思っていたとおり、デカイ鳥だった。

広げた翼の端から端まで、7mくらいあるんじゃなかろうか。

何十メートルか上にいるのだろう。それなのに、2秒に1回くらいのゆったりとしたペースで翼が上下するたび、ばっさばっさと力強く空気をたたく音がはっきりと聞こえてくる。


全身を包むのは紫色の羽毛。

頭部のトサカと、オナガドリほどではないにしろ、3mほどの、細く流れている幾筋の尾は、色は、ところどころ水色のメッシュが入った紫だ。


明らかに肉食の鳥の色じゃないね。悪目立ちしすぎだもん。

じゃあ草食系の鳥かな?なんて淡い希望を抱いたのもつかの間。


人の頭部なんて丸々飲み込めそうなくらいに太く大きな嘴は鍵型。

胴から伸びる足も、黄色い足も、やや短いながら太くたくましく(俺の腕より太い!)、前方に二つ、後方に一つに伸びた指の先には黒く鋭いつめがついている。人間の顔とか余裕で鷲づかめそうだね!勿論片足で!

明らかに肉食だった。


「くるなあああああ!!」

「ケエエエエエエエエッ!!」


しかも思わず悲鳴を上げたもんだから、獲物見っけ!という具合に近づいてくる。

俺の馬鹿、なぜ叫んだ!!黙っていれば逃げられたかもしれないのに!!


翼を窄めて絶賛急降下なぅ!だ。

くそ、デカイくせに早い。すんげー早い。


逃げようとする暇もなかった。

目が見えぬ速度で、なんて言葉が似合う速さで-残像を見る暇もない速さで、その怪鳥は、俺との距離を一瞬にして縮めていた。


心が無駄だと理解しているのに、、体はあきらめきれずに、反射的に防御行動をとる。

両腕が、守るように顔を覆う。


鳥が接近し、その嘴か爪が届くまでの刹那。

俺の脳は、いつになくめまぐるしく回転していた。


俺は死ぬのだろうか。

こんな、わけのわからない状況のまま、こいつに食われて死ぬのか?

まだ今週のジャンプ読んでない。

3月に出るPSPのF○の新作買ってない。


死にたくない。


死にたくない。


俺の中に沸き起こった、生への執着が。

俺の中の何かを、突き動かした。


命の極限に追い詰められて弾けた衝動を吐き出すように、意味もなく叫んだ。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」


「ギャアアアアアアア!!??」


その瞬間、俺が聞いたのは、デカイ鳥の悲鳴だった。

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