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第四話:そしてこれから

 なんでもないような日々は意外なほど心地よく過ぎて行った。

毎日目についた連合軍の兵士たちや侍女を捕まえてお茶を飲んだり、神殿の人たちに熱い視線を送られたり。

最初はよそよそしかった彼らも、やはりヒトは慣れるものであるらしく、私に対して徐々に遠慮がなくなっていった。

それでもやはり今でも緊張はしているようではあったけれど。

そんな、ある日。


「連合議会から返信が来ました。」


その辺で捕まえた連合軍の兵士一人と侍女ズの一人であるナロウとお茶を楽しんでいたら、ローガンがやってきた。

その場にいる面子を確認し、気配を探って、そして口を開いたと思ったらそんなことを言う。


「…へぇ。やっとかい。」


思い返せば、すでに私がこの身体になって6日。

目覚めたその日に連合議会とやらに連絡を取ってもらったはずだから、やけに腰が重い気がするが。

そんな思いが顔に出ていたのか、ローガンは眉を下げて笑った。


「ここから馬を飛ばして2日かかる場所にしか転送陣がありませんからな。それを考えれば早い決断だったと言えませんか?」


「まあ…そうだね。」


6日のうちに学んだこの世界の魔術・文化についての知識を披露すると、転送陣とは主要都市・施設に必ず存在する移動装置だ。

それぞれの転送陣のネットワークで繋がれた場所であればどこでも一瞬で移動することができるが、使用するには既定の金額を払わなくてはならない。

また、陣を発動できるのは国から配属されている転送陣専属の魔術師だけだとか。

転送は一瞬だが、実質4日間が移動に費やされたのであれば、2日間でどうやら世界の命運を分けるらしい私の処遇について決められたのは早いと言えないこともない。

まあ私には、決定までに費やされた時間よりも決定した内容のほうが大事だ。異世界に来てまで政治が云々など口を挟むことはない。


その場にいた2人と連れだってローガンに案内されたのは、神殿の議事堂。

初日に案内はされたものの、使う機会などなかったからじっくり眺めるのは初めてだ。

窓がないため光源はファンタスティックな輝きを放つアレを用い、四方が乳白色の石で囲まれたこの部屋はどことなく英雄の安置されていた洞窟と繋がっていた部屋を彷彿とさせる。

けれど空間は議事堂の名にふさわしく100人は優に入れる程度であり、しかしその面積のほとんどを縦長な口の字を描くように配置された長机に占められていた。

上座の椅子にイーリスが座っており、こちらに気付くと席を立って自らの隣の椅子を引いた。…座れってことか。


「ご足労くださってありがとうございますナルミ殿。どうぞ、こちらに。」


「ああ、ありがとうね。」


両開きの扉から一歩入った地点で足を止めた私に、イーリスはいつも以上に恭しく手で椅子を指し示した。

改めて室内を見渡すと、見知った顔ばかりが20名ほど、こちらに真摯な表情を向けている。

ホント、こういった空気を感じるたびに罪悪感が私を苛んでくれるから嫌いだ。


「では、議会からの返信を読みあげさせていただきます。『数多の神々により御身の栄光と恙無からんことをお祈りいたす。白銀を身に纏いし山々に守護されし英雄、ナルミ・オーカ殿のご意思は「ちょっとイーリス。先が読めるから言うが、そんな美辞麗句並べ立てた文章は読まなくていいから。要約したらどうだい。」……ナルミ殿…」


イーリスの持った羊皮紙らしき分厚い紙が5,6枚に渡っているのを見て嫌な予感がしたが、書き出しからして嫌な予感が的中する予感しかしない。

必要な時は必要な技術だが、今はいらないだろう。

私に遮られて困ったように眉を寄せたイーリスだが、仕方ありませんね、と笑って咳払いで間を取り直す。


「では、要約すると…ナルミ殿の意思はわかりましたが、悪が復活した以上誰かが倒さねばならないのは必至。ご意思を尊重したいが、ナルミ殿以外に悪を倒すことができる者は見つかっていない。悪と直接的に戦う以外にもお力を貸していただきたいため、一度連合議会本部までお越しいただきたい。…と、そういうことが書いてあります。」


ほら言わんこっちゃない。短いじゃないか。


「結局協力してほしいってのは変わらないんだね。戦わなくてもいい…いや、諦めてないようだけど、とりあえず味方になってくれ、と。」


別にイーリス達を皮肉ってるわけでも、連合議会からの返信に不満があったわけでもない、ただの確認のつもりで言った言葉なのに、室内に妙な空気が漂う。

なんて面倒な。

いや、最初の頃の私を考えれば仕方ないことともいえるが、


「嫌味じゃないんだよ。というか、そうだねぇ…ここ6日間皆と接してきて、悪い奴らじゃないってわかったからね。協力するのもやぶさかじゃないさ。友人を助けたいと思うのは当り前のことだろう?」


「…ナルミ様…ッ」


聞き覚えはあるが、名前までは思い出せない声が数人分、私の名前を呟いたのが聞こえた。

感無量、というように肩を震わせている兵士までいて、ホント、なんていうか、面倒な立場だ。


「…ありがとうございます、ナルミ殿…!つきましては、今日はもう遅いため明日の早朝神殿(ここ)を発ちたいと思います。いかがですか?」


いかがもなにも、地理は一通り覚えたが、実際を知っているイーリス達に任せた方が良いに決まってる。


「いいさ、早ければ早い方がいいんだろう。」


「わかりました。…皆、聞いた通りだ。明日北端の町・ノーケルへ向かう。各々出立の準備をしろ。それからザンツ、ローガン、リーンには少し残ってもらいたい。明日の道程と各隊の配置などを決める。…以上、何か質問はあるか?」


ノーケル、か。

6日間に詰め込んだ付け焼刃の知識では、転送陣がある主要都市として名前が挙がるくらいしか知っていることがない。

今日が最後だから一応お知り合いになった神殿の皆に挨拶と、ノーケルについて知っておいて…、…ん?


「イーリス、質問。」


「は、…どうぞ、ナルミ殿。」


ノリで挙手したら一瞬呆けられた。

どうもこの容姿と私の性格にギャップがありすぎるようだと気付いたのは最近。


「移動手段はなんなんだい?この国では主に馬か馬車、それに飛竜をつかうと聞いたが。」


「ああ…そうですね、ナルミ殿にはそれをご説明しなければなりませんでした――ザンツ。」


「はっ」


居並ぶ面々の頭上を漂ったイーリスの視線が、ツンツン黒髪の男にとまった。

ザンツと呼ばれたあの男は、今でこそ指揮官を前に真面目ぶっているが、その実女好き以外の何ものでもない。

さすがに私にちょっかい掛けるような馬鹿ではないが、侍女ズを、特にビビエラをからかうのが好きな軽い奴…で、その正体は斥候・補給部隊を率いる部隊長だというのだから…まあ…嫌な奴ではないし引き際を心得ているが、イーリスなんかと性格が合うのか少々気になる。

なんて評価を下されているのを知ってか知らずか、ザンツはいつもにやけている口元をここぞとばかりに引き締めて軽く礼をして立ち上がった。


「この神殿までの街道は舗装されておりますので、当面は馬車と馬を使うことになると思います。飛竜のほうが早い上、連合軍にも飛竜部隊はおります…が、彼らは寒さに弱い。この山の気候には耐えられないと思われますので、ナルミ様にはご不便をおかけしますが馬車でお願いいたします。」


…おお…。


空気を読める男なんだな、ザンツは。

いつもみているくだけた奴との違いにちょっと感動すら覚えてしまった。

しかしつまりいつもは読める空気をあえて読まない奴だってこともわかった。


「ふぅん…わかった。もとより移動手段がなんであろうと、それこそ徒歩でも文句なんてないから安心していいよ。」


私の発言に対し、ザンツとイーリスが一礼を返してくる。


その後は誰も質問はなかったようで、その場は解散となった。

ザンツやローガン、リーン、そしてイーリスが明日について話し合う席に私も参加しなくていいのか疑問に思ったが、イーリスが私の同席は不要と判断したならそれに従おう。

何を言われても肯定かわからないとしか返せないだろうし、なんとなく他人事のような、私はただ彼らの意思に従って運ばれるだけのような、そんな気がしていたから。




*****





またしても説明回…


おひさしぶりです。

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