プロローグ
遥かな昔。
この世界がまだ混沌として、魔と人とが栄え争いあっていた時代。
世界の全てを我がものにしようと目論む、悪がありました。
その悪は強大な力を以てして人も魔も飲み込み、征服し、蹂躙していきました。
悪の勢いはとどまるところを知らず、その通った道には屍と荒野、そして悪につき従う軍団が出来上がっていきます。
悪を良しとしない人と魔は協定を結び立ち向かいましたが、全く歯が立ちません。
瞬く間に世界は悪に覆われ、そして最後の砦となった町≪スフィア≫にも、その牙が突き立てられようとしました。
その時でした。
スフィアの町に住む一人の英雄が立ち上がり、悪の軍勢をその一太刀で退けたのです。
英雄の名は誰も知りません。
何故なら、その英雄は戦々恐々と死を待つばかりだった町人たちの只中に現れ、ただ一言、生まれ故郷を救う、とだけ残して悪の元に旅立ってしまったからです。
―――そして、それが英雄の最後の言葉だったからです。
それまでの悪の勢いを凌ぐように、その軍勢を一人で退けていく英雄は、ついに悪の元にたどり着きます。
英雄の後を追って行った人と魔の代表者たちは、悪と英雄のぶつかり合う地に一歩たりとも近付くことができませんでした。
目の前で繰り広げられる次元を超えた戦いに、誰もが手を出すことなどできなかったのです。
永遠にも、はたまた一瞬にも感じられたその戦いは、しかしやがては終結を迎えます。
人と魔の代表者たちが、激しい戦闘を物語る傷跡を残した大地に見付けたもの。
それは、息絶えた悪と安らかな微笑みを浮かべた英雄の亡骸でした。
生き残った者たちは英雄を讃え、その亡骸を永遠の棺に横たえました。
英雄は今でもこの世界のどこかにある永遠の棺の中、悪が再び栄えることが無いよう見守っていてくれるのです。
はじめましての方も、またお前かの方もどうぞよろしくお願いします。