ランプの青年と騎士
*ある若い騎士が森の中を歩いていた。
騎士は森を抜けた先で、幻想的な星空の下、不思議なランプを持つ青年と出会う。騎士と不思議なランプの青年との魂の触れ合いの物語。
*今回は短編小説です。
読み切りとなっています☆
*読んだ方一人一人が、様々な受け取り方が出来るかと思います。
深い森の中、木々が鬱蒼と茂っており、涼やかな風が心地良く吹いていた。
風が葉を揺らす音が、さわさわと静かに響いている。
それは、森の音のひとつとなって辺り一体を包みこむように、優しい音を奏でていた。
1人の若い騎士が、森の中の白い小道をゆっくりと歩いていた。
穏やかな陽光が木々や葉の間から差し込み、鳥の囀りが時折聴こえている。
白い石で出来ている小道は、森の真ん中を通るように丁寧に作られていた。
騎士は、銀色の軽装甲冑を付け、白と青の騎士服に白いズボン、黒のロングブーツを履き、腰には長剣を差している。
騎士は、いつから、どうして自分がここを歩いているのかまったく分からなかった。
騎士は、とりあえず先へ進もうと思い、前へと歩を進めた。
すると突然、森を抜けて視界が開けたが、辺りはすっかり暗く夜になっていた。
森を抜けた先は、見渡す限り何処までも広がる美しい緑の野原だった。
柔らかく優しい風が草や花々を揺らし、騎士の頬を撫でる。
穏やかな風がそよそよと吹いて、騎士の短い金色の髪をふわりと揺らした。凛とした端正な顔立ちをしている。
騎士が空を見上げると、そこには美しい満点の星空に加えて緑、青、紫の巨大なオーロラがビロードのようにゆらりと揺れ、幻想的な景観が浮かび広がっていた。
騎士は、あまりのこの世のものと思えない美しさに…思わず息を呑んだ。
騎士「…なんて…美しいのだろうか。」
と、騎士は言った。
ふと目の前を見ると、野原の前に小さな木があった。
その木下に、ランプを片手に持つ青年が夜空を見上げて座っていた。
騎士は、森の入り口から歩き出し、青年の目の前に行った。
少し下り坂になっていて、騎士が降りると小道の前の木下に、青年は腰掛けていた。
青年は、騎士を静かに見ていた。
短い黒髪、黒色の目、黒いローブの上に茶色いマントを着ている。顔立ちが美しく、夜風に黒髪が柔らかく揺れている。
青年は右手に、小さな手持ちのランプを持っている。
ランプは錆び付いていて、中に微かな白い光が灯っていた。
騎士「美しい場所だな。…ここが何処だか分からないが。」
と、騎士は青年に話し掛けた。
青年は、軽く頷いただけで言葉を発しない。
星空を見上げながら騎士は、青年に笑顔を向けた。
青年の寡黙さが、騎士にはとても心地良かった。
騎士「隣に座ってもいいかな?」
と、騎士が言うと、青年は少し場所を開けてくれた。
騎士は、腰の剣を持ち上げてから、青年の隣へとゆっくりと腰を下ろした。
それから、頭上に広がる星空とオーロラへと目を向けた。
騎士の短い金色の髪が、ゆったりと夜風に揺れ、薄茶色の瞳が星の輝きを受け、煌めいていた。
騎士「本当に綺麗な場所だな…。ずっと見ていて飽きない。」
騎士は、木の下にゆったり腰掛けていた。
片膝に手を付き、背筋はまっすぐに伸びている。
騎士は、隣の青年に目を向けた。
騎士「君は…名前は?」
と、静かな声で騎士が聞いた。
青年「ない。必要がないから。」
と、低すぎない声で簡潔に答えた。
騎士は青年の言葉を聞いて、笑顔でうなずいた。
騎士「そうか。…実は私もここへ来てから…自身の名前が思い出せなくて…。どうしてかな、、とても…遠くへ来てしまったような気がする。」
と、星空を見ながら言った。
低すぎず、よく通る凛とした落ち着いた声だった。
青年は何も言わずに、静かに騎士に目を向けた。
それから星空へと、視線を戻した。
2人はしばらく会話もなく、ただ静かに星空を見上げていた。
名前も知らない、お互いが誰なのかも分からないが、そこには不思議な安心感があった。
騎士は、何か考えるように目を閉じた。
それから、青年へと言った。
騎士「そろそろ…決めないといけないな。」
青年は言葉を聞いて、騎士の方を真っ直ぐに向いた。
小さな錆び付いたランプを、騎士の前に差し出す。
するとランプは、星の光のように美しく光輝いた。
騎士が見ると、ランプから黄色と青の光の玉が騎士の目の前に浮かんだ。
騎士は、白手袋を付けた指先で、そっと黄色の光の玉に触れた。
すると、ある光景が黄色い光を通じて、目の前に浮かんだ。
それは、騎士の昔の記憶。
ーー騎士学校帰りの兄と子供の頃、庭で遊んだ記憶。騎士姿の父と病弱だった母が、笑顔で見守っている。
…とても幸せだった頃の思い出。
それから場面が切り替わり、青の光が輝いた。
ーー騎士としての記憶。毎日辛く苦しい鍛錬に耐えていた。
そして、、戦場の記憶。哀しみや苦しみが胸のうちに波紋のように広がる。
騎士は、静かに目を閉じた。
光は微かになって、やがて消えた。
青年は、ゆっくりと錆びたランプを下ろした。
騎士は、目をゆっくり開いた。
青年に、笑顔を向けた。
騎士「…おかげですべてを思い出した。…ありがとう。」
と、騎士は青年にお礼を述べた。
意思のこもった、しっかりした口調だった。
青年は、言葉を発しない。
静かにランプを手にしながら、星空へと再び視線を戻した。
騎士「…君に出会えて本当に良かった。」
と、騎士は笑顔で青年を見てから、星空を見上げる。
しばらくしてから、騎士はゆっくり立ち上がった。
騎士「…さて、そろそろ行かないといけないな。」
と、微笑しながら青年に言った。
青年は、小さな木下から続く、2つの道を淡く白いランプの光で照らした。
一つ目の道は、白く光る石で作られていて、歩きやすく舗装されていた。
道の脇には、色とりどりの美しい花が咲き誇っている。
綺麗な花が咲く木々が、夜風にひらひらと花びらを舞わせている。
二つ目の道は、全く舗装されておらず、草や石があちこちにあり、荒れ果てた小道だった。
道の脇にも、草木が溢れんばかりに生い茂っている。
二つの道は、先が見えず果てしなく何処までも続いているように思われた。
青年は言った。
青年「どちらか片方を進むことになる。選ぶのは君次第だ。」
騎士は頷いた。
騎士「では、私はこちらの道を選ぶとする。」
騎士は、迷わず荒れ果てた小道を指差した。
騎士「途中で、…きっと思い出すことがたくさん出来る。昔の…兄からの教えだ。…〝何時も困難を選べ〟と。」
と、騎士は青年に振り返って微笑した。
青年は何も言わない。
騎士「そろそろ行かなくては…。」
騎士は、星空を見上げた。
騎士「また来れるだろうか…。この場所へ。」
と、静かに青年に問いかけた。
青年「それも君次第だ。」
と、青年は星空を見ながら言った。
騎士はうなずいた。
騎士「そうか。…では、また会いにくる。」
騎士は、青年に満面の笑みを見せた。
それから、前へと向き直った。
そして、荒れた小道に足を踏み出した。
夜空に瞬く満点の星空や、ゆったりと揺れるオーロラの輝きが、道の先を仄かに照らしてくれている。
騎士は静かに目を閉じ、星空へと祈った。
ーーどうか、再びこの場所へと来れるようにと。
青年が待つこの素晴らしく美しい場所へと。
荒れた小道を1人歩く騎士の胸の内は、
まるで青年のランプの光が灯っているように温かかった。
ーー騎士には、もう何の不安も恐れも無かった。
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*読んでいただきありがとうございました♪




