災害級の群れと、燃え上がる勘違い
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「ヤベェ……あれは絶対に怒らせちゃいけねえヤツだ」
圧倒的な力でライトシェルの群れを薙ぎ払う僕の姿を見て、ドルクが思わず畏怖の声を漏らした。
「どうしてリューイ様は、あんなに怒り狂っているのかしらね?」
ライアさんが小首を傾げながら素朴な疑問を口にする。
しかし、きっと彼らには理解できないだろうし、理解できたとしても同情はしてもらえないだろう……。
僕はただ一人、ライトシェルの群れへと歩みを進める。一刻の猶予もないのだ、愛しのティーナをあのエロ駄竜から救い出すためには!
カイ達が遅れて僕の後に続く。
「ありえない……! 災害級の魔物があれほどの群れを成していたのに!」
無理もない。本来であれば、あの恐るべき溶解性の粘液で溶かされ、強力な光魔法で蹂躙され、鋼の牙で無残に噛み砕かれてもおかしくない絶望的な状況だ。しかし今、彼らの目の前で逆に無慈悲に薙ぎ倒されているのは、他でもないライトシェル達の方だった。
「信じられん、ここまで強いとは……!」
ドルクは感嘆の声を上げ、エルーサさんとライアさんも信じられないものを見るように目を丸くしている。僕がたった一人で、災害級の群れを次々と殲滅していく様を。
しかし、現れたのはライトシェルだけではなかった。
「ギギギ……ギギャァァッ!」
耳障りな鳴き声とともに、ライトシェルの親玉とも呼ぶべき『ジャイアントシェル』が姿を現した。
ライトシェルが蛍に似ているとするなら、こいつはさしずめ巨大なカブトムシだ。頭部には大剣のような鋭い一本角が生え、そのサイズたるや、重戦車の優に三倍はあろうかという途方もない巨体である。
「おもしろい……俺の行く手を阻むというのなら、それ相応の報いをくれてやる!」
怒りに任せて叫ぶと、僕は真っ直ぐジャイアントシェルへと斬りかかった。
ジャイアントシェルの巨角が唸りを上げる。
咄嗟にオーガソードで受け止めるが――。
ギギギギギギッ!!
「ぐっ……!?」
凄まじい膂力だった。
床石が砕け、僕の足が地面へめり込む。
押し返せない。
その瞬間、背後からドルクが叫んだ。
「避けろォ!!」
直後、ジャイアントシェルの背中が不気味に発光した。
次の瞬間――。
ドォォォォォン!!
超高熱の光線が一直線に通路を焼き払った。
凄まじい衝撃とともに身体が宙を舞い、石の壁に激突して土埃の中にめり込む。
背中に走る激痛に思わず咳き込みながら顔を上げると、ちょうどジャイアントシェルの巨体の向こう側が見えた。そこには、上へと続く階段がある。
「あそこか……こいつさえ抜ければ、まだ間に合うはずだ!」
痛みを堪えて立ち上がり、再びジャイアントシェルと向かい合う。しかし、あまりにも硬すぎる! オーガソードの斬撃が通らず、自然と防戦一方の展開へと追い込まれていく。
「あ、あのリューイ様でも防戦一方とは……!」
背後でカイ達が驚愕の声を上げる。
そんな中、コビンさんだけは冷静に敵の動きを観察し、打開策を練っているようだった。彼なら何か機転を利かせてくれるかもしれない、そう一縷の望みを抱いたその時。
ジャイアントシェルの向こう側に、不意に見覚えのある人影が現れた。
時は少しだけ遡る。僕たちが床の罠によって穴の底へと落とされた直後のこと。
分断されたティーナ達もまた、四方から迫り来る強大な魔物たちに襲われていた。
重装甲の鎧を纏った、巨大な熊の魔物たちだ。
ティーナとポチは背中合わせになって必死に応戦したが、多勢に無勢、防戦一方の状況に追い込まれていた。
十字路の中央までじりじりと後退し、もはやこれまでか……と覚悟を決めたその瞬間、再び四方を石の壁が塞いだ。
どうやらこの十字路には、一定の重みで作動する重量トラップが仕掛けられていたらしい。
僕たちと同じように、彼らもまた床を抜けて穴の中へと流されていった。唯一違ったのは、凶悪な熊の魔物たちも道連れだったということだ。
激しい水流の末、彼らが落ちた先は薄暗く狭い小部屋だった。周囲に僕たちの姿はない。どうやら別々のルートへと落とされてしまったようだ。暗闇を照らすため、ティーナが『ライト』の魔法を唱える。
「ライトシェル……!」
その光が照らし出したのは、数は少ないものの、確実に致死の脅威となるライトシェルの姿だった。ティーナとポチの顔から一気に血の気が引く。
凶暴な本能ゆえか、一緒に落ちてきた熊の魔物がライトシェルへ向かって猛然と突進していく。
しかし、ライトシェルが吐き出す溶解性の粘液を浴びて身体を溶かされ、硬い顎に頭から無残に噛み砕かれ、熊の魔物はあっけなくその命を散らした。
後に残されたのは、ティーナとポチの二人だけ。
ライトシェルが標的を変え、彼らへと飛びかかってくる。
ポチが咄嗟に盾を構えてガードするが、ライトシェルの牙は想像以上に鋭く凶悪だった。
頑強なはずの盾はいとも容易く押し潰され、ポチの左腕から嫌な破砕音が響く。
「くっ……!」
潰された左腕の激痛に耐え、なんとか敵を抑え込みながら、ポチは右手で剣を振るう。
しかし、その程度の斬撃がライトシェルの強固な殻に通じるはずもない。
背後からティーナも魔法で懸命な援護射撃を行うが、その全てが弾き返されてしまう。
そしてついに、ライトシェルの凶牙がポチの右腕を無情にも噛み砕いた。
――その瞬間。不意に、すべてのライトシェルの動きがピタリと止まった。
ライトシェル達は一斉に二人から離れ、慌ただしく部屋の外へと出て行ったのだ。
まるで、自分たちよりも遥かに恐ろしい『絶対的な脅威』が発生したことを本能で察知し、怯えながら逃げ去っていくかのように。
何はともあれ、九死に一生を得た。ティーナは両腕を複雑骨折し、激痛に顔を歪めるポチの身体を小さな肩に担ぎ上げると、決死の思いで部屋の外へと歩みを進めたのだった。
そして現在。
ジャイアントシェルに幾度となく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて地面に転がる僕の視界に、ついにその姿が映った。
「くそっ、時間がないのに……!」
そう毒づきながら顔を上げると、ジャイアントシェルの巨体の向こう側に、探していたティーナの姿があったのだ!
そう、ティーナは無事だった。無事だったのだが……その背後には、あの忌々しいエロ駄竜がぴったりとくっついているではないか!
「ヤツめ……絶対に許さない!」
僕の視界に信じられない光景が飛び込んできた。なんとあの駄竜め、薄ら笑いを浮かべながら背後からティーナを抱きしめ、あろうことか彼女の豊かな胸を直接揉みしだいているのだ!
当然ながら、ポチは両腕を複雑骨折している。
胸を揉むどころか、
指一本まともに動かせる状態ではない。
単に、
ぶら下がった腕の位置が最悪だっただけだ。
――だが。
そんな事情を、
今の僕が理解できるはずもなかった。
ナビさんが必死に何かを警告している。何か言っていると思う。おそらく何か真実を伝えようとしているのだろう。しかし……。
『警告。警告。
対象ポチ。
ティーナ胸部へ密着確認。
脅威判定更新。
害獣レベル:
E → SSSへ上昇』
「殺す」
敵の殲滅へと向かう僕の崇高な道を遮る、愚かな障害物が目の前にいる……。
僕は眼前のジャイアントシェルを完全に無視し、真っ直ぐにティーナ達の方へと歩き出した。
獲物に無視されたことに激昂し、ジャイアントシェルが狂気の雄叫びを上げて襲いかかってくる。
「邪魔をするな…。貴様、俺に対して本気で敵対する気なんだな!」
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