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第19話 クラスメイト動向⑦【聖女と魔物使いの女子会】

「ん~っ! このスライムさん、ひんやりしてて気持ちいい~!」


「あはは、萌ちゃん埋まってるよー。まるで人をダメにするソファだねっ」


 離宮のテラスに、華やかな女子たちの笑い声が響いていた。


『魔物使い』小鳥遊萌が、クッションサイズに変身したスライムエンペラーに顔を埋めてとろけている。その横で、『聖女』天音莉乃が楽しそうに紅茶を啜っていた。


 かつては「魔王の監獄」と呼ばれたこの場所も、今や完全にクラスメイトたちの「放課後の溜まり場」と化していた。


「アリアちゃんも座りなよー。はい、ここ空いてるよ!」


 莉乃が自分の隣の椅子をポンポンと叩く。


「い、いえ……私は使用人ですので……」


 アリアが恐縮して首を振るが、莉乃はお構いなしにアリアの手を引いた。


「いいからいいから! 今は休憩時間ってことで! ね、黒峰くんもいいよね?」


 少し離れたベンチで本を読んでいた誠は、視線も上げずに手を振った。


「好きにしろ。ただし、うるさくするなよ」


「はーい! ……ほら、アリアちゃんも!」


「あ、あの……失礼いたします……」


 アリアは戸惑いながらも、聖女と魔物使いの間に腰を下ろした。


 目の前には、同年代の輝くような少女たち。かつての自分なら、視界に入ることすら許されなかった「光」側の存在だ。


 だが、彼女たちはアリアの白い髪を見ても、赤い目を見ても、眉一つ動かさない。


「ねえねえアリアちゃん。黒峰くんってさ、普段どんな感じなの?」


 莉乃が身を乗り出して聞いてきた。


「えっ? 誠様、ですか?」


「うんうん。学校だといつも寝てたし、あんまり喋ったことなかったんだよねー。やっぱり魔王だから、夜中にこっそり世界征服の計画とか練ってるの?」


「い、いえ……。夜はきちんと睡眠をとられていますし、計画といえば『どうすれば楽をして日本のお菓子を再現できるか』という研究なんかをされています」


「あはは! やっぱり黒峰くんらしいや!」


 莉乃がケラケラと笑う。


「でもさー、意外と優しいよね。アリアちゃんのこと、すっごく大事にしてるし」


「……え?」


「だって、アリアちゃんを見る目、全然怖くないもん。私の『聖女の勘』だけどね、黒峰くんはアリアちゃんのこと、自分の家族みたいに思ってるはずだよ」


「か、家族……」


 アリアの胸がドクンと跳ねた。


 主従ではなく、家族。


「いいなぁ、アリアちゃん。あんな最強の魔王様に守ってもらえるなんて、ちょっと羨ましいかも」


 萌がスライムをむにむにと揉みながら、うっとりと呟く。


「そ、そんな……。私はただのメイドで……」


「謙遜しないの! アリアちゃんの淹れる紅茶、すっごく美味しいし! 私、ファンになっちゃった!」


「ええっ!?」


 聖女からの直球の好意に、アリアは顔を真っ赤にして俯いた。


(……温かい)


 日差しのせいだけではない。この空間に満ちている空気が、アリアの冷え切っていた心を溶かしていくようだった。


 ***


 そんなほのぼのとした女子会のすぐ横、テラスの芝生の上で。


 一人の男が、白目を剥いて痙攣していた。


「……あ、あが……が……」


 魔王軍四天王No.2、デーモンロードである。


 彼は地面から這い出したものの、誠が書き捨てたメモ用紙を握りしめたまま、再起不能になっていた。


「……な、なんだこの術式は……『線膨張係数』……? 物質が熱によって体積を変える際の定数……だと?」


 彼はブツブツと譫言うわごとを呟いている。


「馬鹿な……。熱とは『火の精霊のダンス』ではないのか? それを、精霊の介在なしに、純粋な『数値』として定義し、世界に強制介入しているというのか……!?」


 彼にとって、誠の科学的アプローチは「魔法」の根底を覆す劇薬だった。


「わ、わからん……! 『分子振動』とはなんだ……! 深淵の知識をもってしても、理解が追いつかん……!」


 プシュゥゥゥ……。


 デーモンロードの耳から、漫画のように白い煙が噴き出した。知恵熱によるオーバーヒートだ。


「あらら、インテリ悪魔さん、また倒れてるー」


 莉乃が気の毒そうに見下ろす。


「アリアちゃん、氷枕ある?」


「はい、すぐに持ってきます。……あと、一応解熱剤も」


 アリアは慣れた手つきでデーモンロードを介抱し始めた。


「……ううっ、アリア君……。すまん……魔王様の叡智が、重すぎる……」


「無理になさらないでください。誠様の思考は、スライムに哲学を教えるようなものですから」


「……言い得て妙だね」


 テラスには、魔王、聖女、魔物使い、メイド、そして知恵熱の悪魔とスライム。


 奇妙だが、どこか優しい時間が流れていた。


 ***


 一方その頃。王城の訓練場では、全く優しくない空気が流れていた。


「くそっ……! くそぉぉぉぉッ!」


 剣を地面に叩きつけているのは、金髪の美少年――王太子だ。


 彼は荒い息を吐きながら、憎々しげに「勇者」の的(ダミー人形)を睨みつけていた。


「なぜだ! なぜ私が勇者ではない! なぜあの田舎者の異世界人が勇者なのだ!」


 王太子は、幼い頃から「自分こそが世界を救う英雄になる」と信じて育てられてきた。高い魔力を持ち、剣術も一流。


 だが、召喚された白金洸は、初日から王太子の実力を軽く凌駕していた。ステータスの桁が違うのだ。


 さらに、彼が想いを寄せる聖女・天音莉乃も、白金や、あろうことか魔王である黒峰誠とばかり仲良くしている。


「許せん……。私のプライドを傷つけた罪、万死に値する……!」


 王太子の瞳に、ドス黒い嫉妬の炎が宿る。


「おい、誰かあるか!」


「はッ!」


 影から側近が現れる。


「決闘状を用意せよ。相手は勇者・白金洸だ。……衆人環視の中で、あの偽物を叩き潰し、誰が真の英雄か教えてやる!」


「で、ですが殿下! 勇者様のステータスは……」


「黙れ! 私には王家の秘宝がある! 勝つのは私だ!」


 王太子の暴走。


 それは、魔王軍とは全く関係のないところで、新たなトラブルの火種となろうとしていた。


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