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第16話 クラスメイト動向⑥【遊び人と商人の企み】

「え~、マジ? この手鏡、覗いた相手の好感度が分かるの? 超便利じゃん!」


「え、ええ……。『真実の鏡』といって、魔界の貴婦人は皆持っているわ。貴女には安く譲ってあげてもよろしくてよ?」


 離宮の庭の片隅で、奇妙な商談が行われていた。


 泣き腫らした目を擦りながら手持ちの魔道具を広げるサキュバスと、それを値踏みする『遊び人』蝶野瑠奈だ。


「ん~、でもデザインがちょっとババくさいんだよね~。デコればワンチャンあるかな? とりまこれと、あとその『塗るだけでモテるクリーム』もセットで!」


「ババくさ……っ!? こ、これは伝統的なゴシック様式で……!」


「はいはい、商談成立ね! あざまる水産!」


 瑠奈はサキュバスの手から強引にアイテムを奪い取ると、ニシシと悪巧みの笑みを浮かべた。


「これで『異世界コスメ』ブランド立ち上げ確定っしょ。城のメイドとか貴族の女子に売り捌けば、大金持ち間違いなし!」


 彼女のジョブ『遊び人』は、ただ遊ぶだけではない。「流行」や「娯楽」を作り出し、人を惹きつけるカリスマ性を持つ。そして、その嗅覚はお金儲けにも鋭敏に反応するのだ。


「次は……あ、そこのトカゲちゃん!」


 瑠奈はターゲットを変え、昼寝中のエンシェントドラゴンに近づいた。


「ねえねえ、その落ちてる鱗、拾っていい? 磨けばアクセサリーになりそうだし」


『……む? 我の鱗か? 脱皮した残りカスだが、好きにするがよい』


「ラッキ~! 『竜王の鱗ペンダント・魔除け効果付き』で高値で売ろっと!」


 瑠奈はさらに、地面から生えているデーモンロードの元へしゃがみ込んだ。


「ねえ、インテリ君。あんたの知識、切り売りしない? 『賢者も知らない裏魔法講座』とか有料note……じゃなくて、羊皮紙で発行したらバズると思うんだよね」


「……有料……だと? 私の深淵の知識を、金儲けの道具にする気か……?」


 デーモンロードは不快げに眉をひそめたが、瑠奈は耳元で悪魔の囁きをした。


「売上の三割あげるよ。それでアリアちゃんの紅茶、飲み放題にできるかもよ?」


「……乗った」


 デーモンロードは即決した。


「よっしゃ! これで商品ラインナップは完璧! あとは城に戻って宣伝して、ボロ儲けだ~!」


 瑠奈がガッツポーズを決めた、その時だった。


「……お待ちください」


 氷点下の声が響いた。


「あ?」


 振り返ると、箒を持ったアリアが、ゴミを見るような冷ややかな目で立っていた。


「瑠奈様。ここを闇市場と勘違いされては困ります」


「え~? いいじゃんアリアちゃん、堅いこと言いっこなし! 売上の一部、ここの運営費に入れてあげるからさ!」


 瑠奈は軽いノリでウインクしたが、アリアの表情はピクリとも動かなかった。


「運営費? 必要ありません。誠様が必要とするものは、私が全てご用意します」


「いやいや、限度あるっしょ? 美味しいお肉とか、ふわふわのベッドとか……」


「ドラゴンに狩らせればタダです。ベッドは私が最高級の羽毛で作りました」


 アリアは淡々と論破していく。


「それに、貴女の商売が城で広まれば、『離宮の魔王が資金集めをして軍備を増強している』などと、宰相あたりがまた要らぬ勘ぐりをするでしょう」


「うっ……確かに」


「誠様は静穏を望んでおられます。騒ぎの種を撒くような真似は、私が許しません」


 アリアが一歩踏み出す。


 その瞬間、彼女の背後に冷気のような魔力が揺らめいた。


 ただのメイドではない。彼女は『魔王の側近』としての自覚と、主を守るための覚悟を完了しているのだ。


「……うわ、マジ顔じゃん」


 瑠奈は冷や汗をかいて後ずさった。サキュバスやドラゴンより、このメイドの方がよっぽど怒らせてはいけない相手だと、本能が告げていた。


「わ、分かったよ! 商売は他でやるから! 今日は帰るってば!」


「賢明なご判断です。お出口はこちら」


 アリアは無表情で門の方角を指し示した。


「ちぇ~っ、ケチ! ……ま、サキュバスちゃんのアイテムは確保したし、とりあえずこれだけで商売しよっと」


 瑠奈は捨て台詞を残し、逃げるように離宮を後にした。


「……ふぅ」


 アリアは小さく息を吐き、箒を握り直した。


「……誠様の平穏を乱す者は、たとえクラスメイトでも容赦しません」


 その背中は、かつての「怯える忌み子」ではなく、離宮を取り仕切る「鉄壁のメイド長」の威厳に満ちていた。


 地面に埋まったデーモンロードが、ボソリと呟く。


「……あのアリア君を敵に回すのだけは、やめておこう」


 ドラゴンとサキュバスも、無言で深く頷いた。


 魔王軍(仮)の序列において、アリアが実質的なNo.2に躍り出た瞬間だった。


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