第13話 クラスメイト動向⑤【魔王デバフ大作戦】
「失礼するよ、魔王くん」
「……差し入れだ」
離宮のテラスに、白衣の錬金術師・円城寺創と、コックコートのシェフ・味沢譲二が現れた。
味沢の手には、湯気を立てる寸胴鍋と、美しい磁器のカップが握られている。
「……なんだお前ら。また変な実験か?」
誠が警戒心を露わにする。これまでの賢者たちの「知恵熱ダウン」や、勇者たちの「空の旅」を見た後では無理もない。
「心外だなぁ。僕らは君と友好を深めに来たんだよ」
円城寺が人の好さそうな(しかし目は笑っていない)笑顔を浮かべる。
「味沢くんが、君のために腕を振るって『特製スープ』を作ったんだ。故郷の味が恋しいだろうと思ってね」
「ほう……。味噌汁か?」
「……に近いものだ。出汁にはこだわった」
味沢が恭しく鍋の蓋を開ける。
ふわぁっ、と濃厚な香りが広がる。黄金色に透き通ったスープ。見た目は極上のコンソメスープだ。
だが、その中身は凶悪だった。
円城寺が精製した『猛毒・麻痺・睡眠・混乱』の複合状態異常ポーション。一滴で象すら即死させる劇薬が、味沢の技術によって完璧に「隠し味」として調和されているのだ。
「……毒見を」
アリアが前に出ようとするが、円城寺が制した。
「おっと、これは魔王級のエネルギーを補給するための特別製だ。人間が飲むと……鼻血が出るよ?」
「いいから寄越せ。腹減ってたんだ」
誠はアリアを制止し、カップを受け取った。
「いただきまーす」
ゴクリ。
誠がスープを一口、飲み込んだ。
円城寺と味沢が、息を呑んで見守る。
(かかった……! 即効性の神経毒だ! 3秒で麻痺し、5秒で意識を失う!)
(味わえ……! 俺の料理技術と化学の結晶を……!)
1秒。
2秒。
3秒。
誠がカップを置き、ふぅと息を吐いた。
「……ぬるいな」
「は?」
円城寺の声が裏返った。
「あと、なんか後味がピリピリする。山椒入れすぎじゃね?」
誠は平然と感想を述べ、残りのスープを一気に飲み干した。
「ご馳走さん。まあ、悪くはないけど、アリアのスープの方が美味いな」
「な……なな……っ!?」
円城寺がガタガタと震え出した。
「馬鹿な……! 致死量の100倍だぞ!? なんで平気なんだ!?」
彼は慌てて端末を取り出し、誠の状態を解析する。
【状態:正常】
【ログ:有害物質(毒)を検知 >> 『絶対不可侵』により無効化(分解・栄養変換)しました】
「栄養変換だとぉぉぉっ!?」
円城寺が絶叫する。
誠の身体は、毒だろうがウイルスだろうが、害あるものを自動的に「魔力」や「カロリー」に変換して取り込んでしまうのだ。
「くそっ、物理もダメ、化学もダメなら……これならどうだ!」
円城寺は錯乱し、懐から真っ赤なフラスコを取り出した。
「ニトログリセリンの濃縮液だ! これと魔石を混ぜて、内部から爆破――」
彼がフラスコの栓を抜いた、その瞬間。
「……あ、こら。危ないもん出すな」
誠が面倒くさそうに指を弾いた。
パチンッ。
微弱な魔力の弾丸が、フラスコに直撃する。
「あ」
カッ!!!!
ドカァァァァァァァンッ!!
離宮の庭に、本日二度目の爆音が響き渡った。
黒煙が上がり、アフロヘアになった円城寺と味沢が、真っ黒な顔でその場に崩れ落ちる。
「……爆発は……成功の、母……ガクッ」
「……素材の、選び方を……間違え、た……」
二人は仲良く気絶した。
「……はぁ。どいつもこいつも」
誠は呆れて首を振り、アリアを見た。
「アリア、あいつら庭の隅に転がしといて。あと、口直しにお茶頼む」
「かしこまりました」
アリアは慣れた手つきで、黒焦げの二人を引きずっていった。
***
一方その頃。王城、財務卿の執務室。
バチバチバチバチッ!!
鬼のような速度でそろばんを弾く音が響いていた。
「……離宮の門の修理費、金貨500枚」
「……エンシェントドラゴンによる庭園の損壊、金貨2000枚」
「……騎士団長の鎧の新調、および治療費、金貨800枚」
「……そして今、また新たな爆発による被害報告が……!!」
財務卿の男は、そろばんを机に叩きつけ、血走った目で立ち上がった。
「いい加減にしろぉぉぉぉッ!! 魔王に国を滅ぼされる前に、財政が破綻するわッ!!」
彼は巨大な電卓(魔道具)を片手に、怒髪天を衝く勢いで部屋を飛び出した。
「騎士団長! 宮廷魔術師! 貴様らの給料から天引きだぁぁッ! 逃がさんぞぉぉぉッ!」
王城の廊下で、新たな悲鳴が上がろうとしていた。




