宿屋にて
一度街に戻ろうということになったらしく(当然、俺に意志決定権はない)、高原を降りて麓の村へとやって来た。小麦畑に囲まれた石造りの家や舗装されていないボコボコの道。小ぢんまりとして素朴な感じの村だ。
「あー、お腹すいちゃったねえ」
村に着くや否や、テオが屈託のない笑顔で言う。
「そうね。少し早いけど、宿を見つけて食事にしましょうか」
レブランもまんざらではない様子。たしかにもう日暮れが近い。
「やった! 私もうお腹ペコペコ!」
と、リッカがお腹を擦った。
こうしてみると、みんな普通の女子だ。......っていうか、仕事終わりのトレンディーOLみたい(切り替えの早さも込みで)。
「あれ、宿屋じゃないかしら」
ミリィの指差す先には、そう言われればそうかもしれない建物が。
早速受付でチェックインすることに。
「えーと、4人なんだけど部屋空いてるかしら」
と、ミリィが慣れた様子でカウンター越しに尋ねている。......ん、4人?
「ちょ、ちょっと待てよ。俺は?」
心の声を言葉にすると、みんな「あっ」という顔になった。
「アンタも泊まるの?」
ミリィが深緑色の大きな瞳を虚ろにしながらこちらを見た。
「当たり前だろ! 俺だけ野宿しろってか!?」
当然俺は猛抗議だ。
「ミリィ、さすがにそれはかわいそうだよ」
優しいテオがフォローしてくれる。
「しまった。宿のことまで考えてなかったわ」
とかなんとかブツブツいいながら、ミリィは人数の変更を申し出た。すると、宿屋の主人は大変申し訳なさそうにしながら言った。
「お部屋は4人部屋1つしか空いておりませんが......」
なぬ。
「あら?」といった雰囲気で皆の視線が俺に集中する。
いやだ。俺も絶対屋根の下で眠るぞ。
断固たる決意を胸に秘めた俺に、ミリィが無情ともいえる宣告を下した。
「ああ、いいの。コイツは床にでも転がしておくから」
むーん......。まあ野宿じゃないだけマシとするか。
案内された部屋はダブルサイズのベッドが2つ。あとはちょっとしたテーブルやイスなどがあるだけでわりと殺風景だ。
そしてここにきてようやく俺はうら若き婦女子4人と同じ部屋で寝泊まりすることの重大さに気付き、突如訪れた緊張感でギクシャクしながら部屋の片隅に腰を下ろした。(こちとら絶賛思春期真っ只中だ)
そんな俺を見てミリィは何事かを察したらしく、眼光鋭く言い放った。
「アンタ、変なことしたら死ぬまで殺すわよ」
......ですよねー。これならいっそ野宿の方が良かったかもしれない。
俺は俯きながら小さく頷いた。
しばらくして、テオが少しためらうようにして言った。
「ねえ、ケイタくんの服買ってあげない?」
あっ! すっかり忘れてた! 俺、とんでもなく淫らな格好してたんだった。そういえば道中、道行く人がみんな怪訝そうな表情でこちらを見ていたし、宿屋の主人もだいぶ胡散臭そうな顔してたなぁ。
かなりの長考の末、ミリィが重い口を開いた。
「しょうがないか。コイツにいつまでもこんな格好させてたら、私たちまで疑われそうだし」
やった! サンキューテオ!
「でもさ、この村に服を扱うお店ってあるのかしら?」
レブランが疑問を呈す。
「今まで見てきた感じではなさそうでした」
確かにリッカの言う通りではある。
「あっ、そう。残念ね。じゃ、また今度にしましょ。」
あっさり。俺は当面の半裸状態が約束された。
やがて食事を済ませた女子たち4人は、各々疲れた体をお風呂で癒し、下着姿でしばし談笑の後、ベッドの上で眠りについた。
ああ、みんな俺のことなんて全く眼中にないんだなぁ。
そう思いつつ、俺は床の上に寝転がりながら目をギンギンに見開いていた。