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熱戦

そこだ、行けっ! ああっ、危ない! よし、いいぞ!



戦闘開始からもう小一時間くらい経っただろうか? いつかテレビで見たヨーロッパのどこかみたいなやたら風光明媚な草原で、俺以外の4人がライカンとかいう魔王の手先(?)と死闘を繰り広げている。戦斧を振るう巨大な2足歩行のライオンを相手に、4人の女子が汗まみれの大奮闘。ちょっと壮絶な光景だ。



そしてやっぱり、戦いが長引けば長引くほど無傷じゃいられないようだ。特に前衛のテオとレブランはしばしばライカンの攻撃を食らって負傷しているし、スタミナの消耗も激しい。だけどその都度リッカが素早く魔法で治癒している。



なるほど、ミリィの言う"リッカがこのパーティーの要"ってのはこういうことか。



ただ、俺の加入効果か全体的に見ると押し気味の様子ではある。結構、結構。



......ん? いや、ちょっと待てよ。テオが最初に付けたライカンのキズ、塞がってきてないか? 確か左肩だったはず.....あ、やっぱり! 明らかにキズ治ってきちゃってるよ! 



確信の瞬間、またもライカンは戦斧を投げつけてきた。



しまった......。



俺は咄嗟に身を躱したが、左腕が斧と一緒に遥か彼方へと吹き飛んで行った。



痛ってえ! 



だがそう感じたのも束の間、俺のちぎれた左腕は根本からズルリと再生した。



気持ち悪いが便利ではある。



「ケイタ、大丈夫!?」



必死の戦闘の最中、ミリィが声をかけてくれる。もしかしてコイツ、意外にいいやつなのか?



そう思った瞬間、ブーメランみたいに手元へと戻っていたライカンの戦斧が、今度はミリィに向かって投げ放たれた。



「あっ!」

ミリィは呪文の詠唱に夢中で反応が遅れた。



「危ねえ!」

俺は文字通り身を挺してミリィの前に立ちはだかり、真剣白羽取りよろしく顔の前で広げた腕を思いっきり閉じた。



だがしかし、斧は当然のようにざっくりと俺の頭蓋骨にめり込んで止まった。



スッ......。



脳みそをぶちまけつつ、微笑と共にミリィに向けてサムズアップを繰り出す俺の姿はどうみてもホラーそのものだろう。



「いけない!」



その時、テオの叫び声が響いた。



突き刺さっていた斧を投げ捨てて、治りかけの頭で振り向くと、ライカンはリッカ目掛けて一直線に突進していた。



あ、やば。



俺はキズの治癒もそこそこに、あわててライカンを阻止すべくその進路を塞ぎに走った。......なんか、ダンプに轢かれた時を思い出すけど、一度轢かれるのも二度轢かれるのも大差ないか。



「おりゃっ!」



掛け声一閃、ライカンに体当たりを仕掛けるも儚く吹き飛ばされるか弱い俺。



......このまま月まで飛んでくんじゃないか(笑)?



そんな予感が脳裏をよぎった直後、突如なんとしてもリッカを守らなければという謎の責任感に囚われた俺は空中で体を捻ると、ちょうど落下地点を駆けていたライカンの首もとにしがみついた。



ふと見ると、恐怖に凍りつくリッカの顔。



"大丈夫、お前は俺が守ってやるぜ"



そんな感じでウインクのひとつでも送ってやろうと思ったのも束の間、俺はライカンに掴み上げられ、まるでゴミクズのように地面に叩きつけられた。



あ、まずい!



このままじゃ、マジでリッカが殺られちまう。



ライカンがその鋭く尖った爪を今まさにリッカのか細い腹に突き立てようとしたその瞬間、勢いよく地面にバウンドした俺は自らの意思とは裏腹に、偶然2人の間に立ちはだかる形になった。



そして俺は真後ろにいたリッカとともに、再び蒼天へと舞い上がった。



なんなんだ一体。



しばらく後、頭から無様に落下した俺の背中にリッカが落ちてきた。



「ううっ」



呻き声をあげるリッカ。どうやら俺の体がクッションとなって致命傷は免れたみたいだが、完全に失神してしまっている。



「リッカ!」



テオとレブランが慌てて駆け戻って来る。



その様子から察するになかなかヤバい事態みたいだ。



「逃げろ!」



俺は叫んだ。



「コイツは俺に任せて逃げろ!」



あれ? 俺ってこんな熱血キャラだったか? だがどう贔屓目に見たって、この戦闘での俺はなんの役にも立ってない。いや、むしろ足を引っ張ってるまであるな。ここでなんとかしなきゃ永遠に虐げられかねん(笑)



そんな思いで無我夢中でライカンの足に絡み付く健気な俺。当然紙切れみたいに引き裂かれる。



「ケイタ!」



テオとレブランが心配そうに叫ぶ。



くっそ、やっぱダメか!?



殆ど肉片みたいになって諦めかけていると、開戦直後に見たイバラの蔓が再びライカンの足に絡み付いた。



「ケイタ! 少しでいい、時間稼いで!」



ミリィ、ナイス。



俺は気絶したリッカを支えつつ走り去る3人の後ろ姿を、ボロ雑巾のように踏みつけられながら眺めていた。

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