急展開
「ほら、これ使いなさい」
俺はミリィから渡された革製のポンチョのようなものを身にまとった。
だが、これでは俺の俺自身とも言うべき肝心の部分が隠せない。
「プクク......」
リッカが笑いを堪えている。......こいつもあまり好きにはなれんな。
「あ、あのこれ......これも使って! さっき作っておいたの」
テオって言ったか? 唯一俺に優しいショートヘアの女の子が、2つの大きな穴の空いた布袋を手渡してきた。
......なるほど。
俺はもはや優雅ともいえるような所作で厳かにその布袋に足を通し、口紐を絞った。
滑稽である。腰から下は、まるで足の生えた洋梨だ。
「クッ!」
レブランが堪らず吹き出した。
こりゃ、ひでえ。なんで俺がこんな目に。生きているときにすら感じなかったほどの悲しみが俺を包んだ。
「え、えーと。もう大丈夫かな。あの、ケイタくん......ここが何処だか分かる?」
テオがどことなく申し訳なさそうに早口気味に言った。
ここがどこかだって?
俺は改めて周囲を見回した。
周囲を山に囲まれた、高原のような場所―――
「......軽井沢?」
俺は根拠はないがなぜかそこそこ自信ありげに答えた。
ざわっ......。4人の間に動揺が広がる。
「カ、カル......イ......?」
テオが困惑したように言った。
しまった! 清里だったか?
「仕方ないわ。これは《《そういう魔法》》だから」
横合いで、ミリィがため息混じりに首を振るのが見えた。
「そ、そうだよね。分かるわけないよね。それじゃ説明するね」
テオがその場を取り繕うように言う。どうやら違っていたらしい。
「ここはエルカディアと呼ばれる世界......なんだけど、今、復活した魔王によって滅亡の危機に瀕してるの。私たちはそんなエルカディアを救うため"大いなる意志"によって選ばれて世界を冒険中なの」
エル......なんだって? それに魔王?
なんだか、いきなり話が濃いな。
「ボクは勇者のテオ=ブレイズ。そして......」
混乱している俺に向かって、唐突にみんな自己紹介を始めた。
「私は僧侶のリッカ=レーベンゲルシュです」
と、おかっぱ少女。
「騎士のレブラン=ロンドよ」
これは、どことなく品のあるお姉さん。
「......ミリィ=ローゼン」
最後は当然、クソ生意気なチビガキだ。
それにしても、勇者とか騎士とか......。
!? あ......。
はっは~ん、なるほど分かった。さてはこれはあれだな。異世界転生だ。俺、異世界転生したんだぁ。へえー、本当にあるんだね、異世界転生。
「......で、俺は?」
ミーはどうしてエルカディアに? そうとなれば、話を進めよう。
「あんたはネクロマンサーである私が死霊術でこの世界に召還したのよ......間違えてね」
ミリィがつっけんどんに言った。
そういえばさっき失敗したとかなんとか言ってたな。
「どういうこと?」
え、どういうこと?
「本当はかつてこの世界に存在した偉大な魔法使いを召還しようとしたみたいなんだけど......」
レブランが残念そうに言う。
「次元の狭間で取り違えたみたいです。ミリィが」
と、リッカ。
なにそれ。そんなことあるん?
「あーあ、なんでこんなことになったのかしら。こんなの初めてだわ。よりによって肝心な時にミスするなんて」
ミリィは憮然とした表情でこちらを見ている。その顔のまた小憎らしいこと!
「そんなの俺に言われたって困るっての! だいたいなぁ、お前それが年上に向かってとる態度か? さっきからずーっと!」
俺はついつい声を荒げてしまう。
「あんたいくつよ」
「16」
「じゃ、私のほうが年上じゃない」
は?
「私、あんたを召還した時の魔法の影響でこんな姿になっただけで、年は21よ」
何を言ってるんだ、コイツは。そんな気持ちが顔に現れていたのか、レブランが補足するように言う。
「彼女の言っていることは本当よ。ミリィと私は同じ年なの。テオは17歳だから、あなたより年下なのは14歳のリッカだけね」
ほーん。そうなんだ。だからといってムカつくやつだってことに変わりはないし、正直さっぱり理解もできん。
「で、俺はこの世界でなにすりゃいいんだ?」
死んだ後って、こうも腹が立つものなんだろうか。そんな気持ちもあって、ついついぶっきらぼうな口調になってしまう。
「えと、さしあたってなんだけど、今から『四獣将』っていう魔王の親衛隊みたいな4体の直属の部下のうちの一人で"ライカン"っていう魔物が来るんだけど、そいつを私たちと一緒にやっつけてほしいの」
す、すごい情報量だぜ......。
「やっつけるって言ったって、俺にどうしろと......?」
「あんた私の魔法で"簡単には死なないカラダ"になってるから、ひたすら敵の攻撃を防ぐ盾になって」
と、ミリィ。この上から目線の物言いよ。
「......はあ」
俺は露骨な生返事で答える。
ダメだ、やっぱり。さっぱり分からん。
「あっ、来た!」
その時、リッカが叫んだ。
蒼天を見上げると、コウモリみたいな羽を生やした巨大なライオンがこちらへ飛来していた。