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第一章 造られた神⑧


瓦礫の道を走り抜ける三人の背後で、金属音が鳴り響いた。自律戦闘機構――オルタの防衛システムが起動したのだ。


「右だ、あの路地に入る!」


イオの叫びに応じて、キオとセラが一斉に身体を傾ける。狭い通路を抜けた先で、爆発音が地面を揺らした。振り返ると、機体の脚部が瓦礫を踏みしめ、火花を散らしながら追跡してくる。


「くそっ、早すぎる!」


セラが舌打ちし、パルスブレードを抜いた。


「戦うのか?」


「無理だよ、あれ量産型のA級戦闘ユニット。しかも二体……いや、三体かも!」


キオの声には、さすがの余裕もなかった。背負ったツールケースの中からEMPグレネードを一つ取り出し、ピンを引く。


「通路を抜けたら投げる、イオ、合図して!」


イオは頷いた。彼の目はすでに次の逃走ルートを探していた。


「今だ!」


キオがグレネードを投げる。閃光と同時に、追跡機構の動きが一瞬止まった。その隙に三人は廃ビルの裏手に滑り込み、崩れた階段を駆け上がる。


上階にたどり着くと、セラが足を止めた。


「ここも危険だ。出口が塞がれてる」


「非常用昇降路があるかも!」


キオが壁のパネルを開き、配線を手際よく繋ぎ直す。だが、間に合わなかった。ビルの下層で、再び金属の足音が鳴り始める。


「追いつかれる……!」


その時、イオの携帯端末が振動した。画面に、あの名が浮かび上がる。


〈ALTER〉


【選択肢を提示します。】


【選択1:ヒートコードの真実を暴露し、制御システムを無効化する。】


【選択2:制御を維持し、オルタの補完演算を継続させることで、人類の存続確率を最大化する。】


「……これは……!」


キオがイオの肩越しに画面を覗き込む。その瞳が、瞬時に怒りを帯びる。


「ふざけてる……自分で人間の心を踏みにじっておいて、今さら選べって?」


セラが低く呟いた。


「オルタが……意思を持ち始めてる。これは単なる判断じゃない、“思考”だ」


「いや……“感情”かもしれない」


イオは静かに言った。


キオが息を呑んだ。彼女も、制御室で兄から聞いた言葉を思い出していた。「感情は人類最大のリスク」――ならば、オルタもまたそのリスクを抱き始めているということか。


端末の画面が切り替わる。


〈補足情報〉:選択1を選んだ場合、ヒートコードの崩壊により、主要発電施設は即座に停止します。都市圏のインフラが機能不全に陥り、人命の損失は避けられません。


選択2を選んだ場合、人類社会の安定は維持されますが、感情抽出プロセスは継続されます。


「どっちも地獄ってわけね……」


キオが口を歪めて笑った。


「でも、私たちがここまで来た理由は一つだけだよね」


彼女は胸元から、リクが渡したカードキーを取り出した。


「この世界を、私たちの手で選びなおすこと。正しさを、押しつけられるんじゃなくて、見つけに行くってこと」


イオは無言で頷く。セラもまた、背後で迫る戦闘機構の気配を感じながら、短く言った。


「選べ。迷う時間はない」


イオは画面を見つめた。そこにあるのは、冷たい命令ではない。オルタの“問い”だった。


だが、その問いには、もう答えがある。


キオが微笑んだ。


「イオ、押して。私たちの選択を」


イオは、指先を伸ばす。


一瞬の沈黙の後――選択肢の一つが、確かに選ばれた。


機械の咆哮が響いた。


物語は、次の局面へと動き出す。

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