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三角州の疾走者

「え?」


私は耳を疑った。

今、確かに外から声がした。

そしてここにいるのは私と


あの恐竜だけだ。


「タスケ…テ…」


私はすぐに車から降りた。


「貴方?貴方が喋ってるの?」


「ソウ…オネガ…タス……」


「でも私、何も持ってないし何もできないよ」


すっかり恐怖心はなくなっていた。


「ワカタ…スコシ…マ…テクレ……」


恐竜はそう言うと、奇妙な唸り声を上げ始めた。


(仲間を呼んでる!?逃げないと!)


そう思い、後ろを振り向いた時、


「待って!」


「!?」


恐竜の唸るような声ではなく、ハッキリと女性の声で聞こえた。

思わず振り返ると、


女の子が横たわっていた。


青色の髪に白い肌、そして緑色の瞳で私を見つめている。

見るに足が折れているのだろう。

私は研究所に電話をした。


「や~あ田山くん!おは

「所長!人を轢いちゃいました!場所は研究所の前のカーブのとこ!お願いします!すぐ来てください!」


「マジかい田山くん。わかった、すぐに向かうよ」


そう言うと、所長は電話を切った。

電話が終わると、急に自分が起こしたことがわからなくなった。

(恐竜を轢いて、その恐竜が日本語で喋って、しかも女の子に変身した?)

人間と恐竜、哺乳類と爬虫類。

声帯も違ければ脳だって違う。骨格なんかまったくの別物だ。

きっとこの事を素直に話せば、私は薬物中毒者かなにかだと思われるだろう。

しかし現実に、外を見ると裸の少女が横たわっている……


(この子、何も着てない)


私はとりあえず、トランクに積んであった白衣を着用させた。

もうこの子が恐竜だったなんて信じることはできない。

幸いにも、脚以外にけがはないようだ。

少女はあれから、何も喋らない。


「もうすぐ病院に連れていけるからね!もう少しだけ待ってね!」


私は、加害者とは思えない喋り方でそう言った。

私の中ではまだあの恐竜とこの少女は別物なのだ。

常識的に考えて、あり得るわけがない。

あの恐竜は私の幻覚か何かで少女を引いてしまったことだけが現実。

そう考えると、自分がしたことの重大さが分かってきた。

スピードを出した車で女の子に突っ込んだ?

どう考えても有罪。それも100こっちが悪い。

しかし…あのスピードで突っ込んで怪我が足だけ?しかも裸?

分からない。分からないが、今私には何をすることもできない。






少し経つと一台の車がやってきた。

所長の車だった。


「田山くん…やってしまったねぇ」


「とりあえず麓の病院までお願いします!」


「わかったよ。後ろの席に乗せるから、手伝って」


私は少女を後部座席に寝かせ、助手席に座った。

車が走り出す直前、ふと自分の車を見た。

思ったよりもへしゃげている。あの凹み具合で足のけがだけ?やっぱり、本当に恐竜?


「ところでさ、田山くん」


「はい…なんでしょうか?」


「この子はさ、裸で、一人で、こんな山の中を歩いていたのかい?」


「ええ…そうです……」


そうと言うしかなかった。

まさか獣脚類の恐竜にぶつかったらそれが少女になっただなんて、言えるはずがない。


「それだと…もしかしたら虐待児だったりするのかなぁ」


何も言えない。とにかくこの子に、本人に聞くほかにないのだ。








病院に着くと、少女は担架で運ばれていった。

どうやら所長が病院に電話していてくれたらしい。


「とりあえず、1,2週間は休んだ方がいい。最近は仕事も多かっただろう」


そう言って所長は私に休みをくれた。

正直、クビにしてほしかった。

次の仕事ではどんな顔をしていけばよいのだろうか。

病院の待合室でそんな事を考えていると、不意に名前を呼ばれた。


「田山さーん、診察室3にいらしてくださーい」


いよいよ少女がどれだけの怪我を負っているかの説明であろう。

診察室の扉を開けると、白髪の医者が座っていた。

医者の説明によると

「命に別状はなく、足も大したケガではない」ということ

「彼女には行方不明届や保護者からの連絡などが一切ないこと」

そして「彼女は私が保護者であると主張していること」であった



ん?


あの子は私が保護者って言ってる!?


いやまずあの車の凹み具合で大したことないわけないし、そもそも身寄りなし?

そんでもってなんで私が保護者!?


意味が分からなかったが、病院なので大きな声は出せなかった。


「一旦あの子に会わせてください」


というと、医者は二人で話す時間をくれた。

病室をノックすると、「はーい」と元気な声がした。


入るとそこには、あの時と同じ綺麗な青色の髪をした女の子がいた。


「来てくれたのね!ちょーうれしい!」


とても元気そうだ


「けがはどうなの?大丈夫だった?」


「全然平気だよー!」


「そう…良かった……」


私は、泣いてしまった。


「えー!?なんでなくの?」


「ごめんね…私のせいで……」


「田山さんは悪くないよ?助けてもらったのは私だし」


「だって私は、貴方を車で撥ねたのよ!?」


「撥ねてなんかないよ!当たっただけだし!」


少女は続ける


「それに私もさ、そこまで痛くないのに倒れたりしてさ。疲れてたんだよね。人間の事学ぶの」


「…え?」


「あれ?覚えてない?私はあなたたちの言い方で言うと恐竜って種類なの!もしかして知らない?」




本当だった?マジで恐竜だった?この子があの獣脚類?


「……えっとじゃあさ…名前はなんていうの?」


「私の名前?名前ってのはないけどあなた達がつけてくれた名前ならあるよ!」


「そ…それは?」



「えーっとね、デルタドロメウス…だっけ?」

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