地獄へようこそ
鋭く光る赤い色に目を瞑る。
ゆっくりと目を開けると、
そこには今の時代とは考えられない光景が広がっていた。
真っ白な壁、床は石の様な物で出来ていて冷たくてツルツルで光っている。
大きい空間に豪華な長い椅子がいくつも置いてあり、
無数の本が壁の中に埋め込まれている。
「なんだ…ここは…」
「ここは閻魔大王様の家だ。」
「は!?どういう事!?」
「海神になるんだろ?
じゃあ閻魔大王様に挨拶しないと。」
海音を置いて歩こうとする綿津見。
「で、でも…海の底に家が…?」
「あー、鍵だよ!
この鍵を自然エネルギーが溜まっている所で使うと、
俺の妖力で閻魔大王様の家に行き来できる。
ここは冥界だ、地獄へようこそ。」
鍵を海音に見せながら得意げに言う。
「地獄…。」
「安心しろ。
お前は死んだわけじゃないし、ちゃんと床もちゃんと歩ける。
行くぞ。」
「歩けるって言ったって…ヒレじゃ何も…」
足に目をやると、人間と同じような脚が生えていた。
床を冷たいと感じたのも足の感覚だろう。
不思議な感覚に足の指を動かしながら感動する海音。
「なんだこれ…凄い…。」
「そんなに脚が珍しいか?」
身体が氷つくような重く冷たい声…威圧的な視線を感じ動けなくなった。
「閻魔大王様!」
綿津見が少し焦りながら深々と頭を下げた。
「綿津見、ご苦労だった。」
「いえ。」
「お前が海音か。
どうだ決心はついたのか?」
海音は冷や汗をかきながらまっすぐ閻魔を見つめ震えた声で答えた。
「僕は…海神になる。
もっと強くなって…死んだ皆やお父様とお母様の為に僕の夢を叶える…
僕が死んだ時、お父様とお母様にしっかり顔向け出来るようにするんだ!」
「そうか…お前の夢とやらは…人間と共存できる世界だったな?
綿津見から色々聞いているだろうが、話さなければいけない事がある。
まあ、座れ。」
閻魔がパチンと指を鳴らすと、一瞬で違う空間に飛ばされた。
椅子の上に飛ばされ、
海音の目の先には綿津見と閻魔が座っている。
「禍無絽、茶を出してやれ。」
「はい。」
禍無絽と呼ばれた女性はすぐに返事をして部屋を出た。
「人間と共存する世界か…実に面白いな。
くだらないと言うべきか…はははっ!」
閻魔が大声で笑った。