第五話
「何故、刺されたかを話すから聞いてね。」
私は早速、刺された理由を話した。ざまぁ系やスカッと系をいじめられっ子や負け犬向けと扱き下ろしたり、そんな物を好むからいじめられるんだとバカにしたのが原因で刺されて死んでそれが原因で断罪される予定のヒロイン(笑)に転生した事を話した。
2人はしばらく無言だったが私を見ながら口を開いた。
「理由はどうあれ殺しは殺し。君を刺し殺した女性が悪いのは間違いない。」
「ええ」
「ただ、僕としては君に同情する気持ちがあまり沸いてこないな」
「え?何で?」
何でそういう事言うの?私刺されてかわいそうなのに…
「確かに君の言う通り、ざまぁとかいう物を好んでいる人間が善良だとは思えない。そんな物を求める人間は客観的に見て性格が悪いと思う。」
「だが、君の様な人間がいるからそういう物が求められるんじゃないかな?」
「はあ?何でそうなるのよ?」
「ミーとしてはスカッと系は負け犬が好むジャンルだと思うヨ。だけどルシア、ユーはスカッと系で成敗されるタイプの人間に見えるネ」
「ハルトまで!?」
「ざまぁ系が負け犬の娯楽なのは否定できないが、君の様な人間がいじめをしたり助長すると思うな」
「酷くない!!?」
何か私が酷評されるんだけど!!!?おかしくないか!?
「原作のルシアとルシアに転生した君には共通点がある。」
「何よ?」
「どちらもざまぁされる側の存在という事だ」
「う、うるせー!!」
フランツの自分に対する酷評にルシアはキレる。
「それで、どうしてミーに鍛えて欲しいんだ?」
「もし、パトリシアと戦う事になっても逃げ切れるか最悪、倒すぐらいの実力を持ちたいのよ!!」
「それでミーに鍛えてもらいたいんだネ」
「その通りよ!それからパトリシアと戦う事になったら私の代わりにパトリシアをぶっ殺してよ!」
「はぁ?何を言ってるんだ?」
「ユーのブレインは大丈夫か?」
ルシアのトンデモ発言に2人は目が点になる。
「そんな物決まってるでしょ。ハルトはかなり強いと思うし、フランツもいずれ強くなるからパトリシアを殺してでも私を破滅から救ってほしいのよ。それに私はパトリシアには死んでほしいけど自分で殺したくないのよ。私の代わりに戦って。」
「ルシア。ユーは感動する程にカスだネ。」
「やはりルシアはどこに出しても恥ずかしくない立派なゴミ野郎だよ」
自分が助かる為とはいえ物語でしか知らない人物の死を願うだけでなく死なせようとする、しかも自分の手を汚さず他力本願で他人に手を汚させようとするルシアの人間性に2人は的確な批評を下す。
「それならユーが助けてやりなフランツ」
「いや、ここはドワーフの神たる貴方が僕の代わりにルシアを助けてあげてくれ」
「ルシアを助けるのか、ミーはちょっと…」
「何たらい回ししてんのよ!!?!!フランツも大切なガールフレンドの危機を救いたいと思わないの!?」
「ミーは他力本願な奴を助ける程sweetではないヨ」
「僕もその原作の騒動に巻き込まれるのは勘弁願いたいし君のようなろくでなしを助けるのは・・・」
「薄情にも程があるだろーが!ふざけんなお前ら道ずれにするからな!」
「そんな人間性だから君は刺されたんじゃないか…君が僕達に助けを求めたいのはわかるけど、僕は公爵令嬢や王子達との騒動に巻き込まれたくは無いんだ。」
「いーや、必ず巻き込んでみせる!お前らだけ穴蔵を決め込ませないしいっそ身代わりにするから覚悟しとけよ!」
私の事見捨てるぐらいなら少しは人様の役に立ちなさいよ!主に私とか私とか、それから私とか!
「ルシア。もし、僕を巻き込もう物なら僕は君を殺す」
「はぁ?殺すって、あんた大袈裟すぎ・・・は?殺す?」
ちょ、殺すってあんた…
私はフランツを見る。フランツは能面の様な表情で威圧感を放っていた。
「僕を公爵令嬢のいざこざに巻き込もう物なら、僕は君が殺す。だから僕を巻き込むなら殺される覚悟をしておいてくれ。」
「ひっ…」
な、何なのこいつ!めっちゃ怖いんだけど!?目がマジだから!人殺しの、それも何人も殺している様なそんな目をしてるんだけど!!まるでモンスターよ!
「ちょ、そんな目で見ないでよ…マジで人を殺す人間の目をしてるんだけど!!人見知りでコミュ障気味のいつものあんたはどこに行ったのよ!!?」
「フランツは面倒を避けたいんだネ」
「何、呑気に言ってんのよ!!あんたとんでもない化け物を育ててるじゃないの!」
「フランツはやる時はやる奴なのサ。」
「怖がらせて申し訳無い。僕はどうも、恋愛絡みのいざこざに巻き込まれたくないんだ。逃げる手段を一緒に考えるぐらいならしてもいいんだが」
「ありがとう。じゃあそれでお願いするわ。」
対パトリシアとの戦いの協力は得られなかったが、逃げる算段をかんがえてくれるのでルシアはひとまずはそれで良しとした。
「というか人を化け物呼ばわりするなんて君は口が悪いな。」
「ご、ごめん…マジで怪物染みてたから」
「君って奴は」
口の悪いルシアであった。
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「とにかくルシアはざまぁ系という物を嫌悪しているんだね。」
「そりゃそうよ!」
「僕もざまぁ系を好む人はいじめられて性格が歪んだ人や底辺が多いと思う。他にもクズや負け犬、コンプレックスを拗らせている痛い人がそういう物を好むだろうね。」
「あなたも大概、辛辣ね」
「彼らには失礼で申し訳無いが僕はそんな物を好む人を自分より下に見ている。僕からすれば格下でしかない。」
「ひっでぇなお前」
こんな小さい子供に見下されるなんて流石に負け犬やクズ達に同情するわね。
「だけど、それでもざまぁ系は必要だよ。」
フランツは自分の考えを語る。
「何でよ?」
「いじめられっ子や劣等感の強い出来損ない達がざまぁ系の作品を見る事で傷を舐めたり、ささやかな優越感に浸る事が出来るんだ。だから必要なんだ。」
「負け犬共の為に必要って事かしら?」
「その通り。彼ら負け犬にだって癒しは必要なんだよ。ざまぁ系で少しでもクズや底辺の心を癒して幸せになるなら、それだけで存在する価値はあるんだ。」
「いじめられっ子にクズに貧乏人、低能。彼らにだって幸せになる権利はあるんだ。」
フランツは優しげな眼差しをしている。負け犬や出来損ないの為にもざまぁは必要なんだ、と慈愛のある表情で語る。
「あんたは優しいのか傲慢なのかどっちよ?」
「フランツなりの優しさだと思うヨ。どこまでも高慢ではあるけど。そういえばルシア、ミー達は原作には出てきたのか?」
「あんた達は原作には出てきてないわよ。とはいっても私は1巻しか読んでないけど。それにあんた達は原作には存在しない、謂わばバグみたいな存在だと思ってるわ」
「バグか…確かにミー達はバグみたいな存在かもネ。で、ルシアよ。ミーは鍛えてほしいか?」
「そうね、お願いしてもいいかしら」
「了解した。ミーは後、3ヶ月はここに滞在するからそれまでは鍛えてあげるネ。ミーの修行は厳しいから逃げたければいつでも逃げナ。見込みの無い奴を鍛えても無駄でしかないヨ」
「上等よ。私は必ず強くなって見せるわよ!」
「なら明日またここに来なヨ」
やった!弟子にしてもらえたわ。明日から忙しくなるわね。
私は期待を胸に抱いて帰り支度に勤しむ。