第一話
まさか、私が転生するとは思わなかった。
しかも、よりにもよって、私の嫌いな漫画「婚約破棄されて追放された悪役令嬢ですが、精霊と力を合わせて復讐しますわ~」で悪役令嬢のパトリシア・フォンティーヌを嵌めて国外追放に追い込んで後に復讐される予定のヒロイン(笑)のルシア・フルニエに転生するなんて・・・・・・。
私は友人に勧められて「婚約破棄されて追放された悪役令嬢ですが、精霊と力を合わせて復讐しますわ~」とかいう婚約破棄物の漫画を読んだ事があった。友人からは大人気だと言われて読んでみたけど、私の肌には合わなかった。
とにかく、ざまぁされる側をムカつく感じに書いて主人公を超絶優秀に書いてるのに虫酸が走った。
やっぱりざまぁを好むのはいじめられっ子やクズや貧乏人ばかりだ。こんな物を好む人間性だからいじめられるんだよと言いたいわ。
私はざまぁやスカッと系がより嫌いになったのは言うまでもない。
「だけど、よりにもよってルシアなんかに転生するなんてね…」
私が転生したのはルシア・フルニエ。
彼女は主人公にして悪役令嬢のパトリシア・フォンティーヌを陥れて、ランベール王国の第一王子でパトリシアの婚約者のレスターに婚約破棄と国外追放をさせた憎まれ役。
性格がかなり悪くて才能に胡座をかいて終始油断してばかりで頭の悪い低能のろくでなし。
最終的にパトリシアに復讐される予定のキャラだ。
「つーか、何でルシアになんて転生したんだよ…もし私を転生させた神様が居たら私に詫びてから苦しんで死んでくれないかなぁ!ルシアなんかに転生させやがって!!殺すぞ!」
ろくでなしのクソッタレのルシアなんかに転生させやがって…ファッキンゴッドめ!!
「でも一応、才能だけは人一倍あるのよね。何とかなる可能性も無くは無いのよね~」
一応、設定上はルシアには剣も魔法も非凡なぐらいに才能がある。
ただ、こういう設定にしたのも恐らくは上げて落とす為にそうしたんだろう多分。
てか、やたらと頭が悪く書かれてて低能扱されてるから才能があると言われても説得力に欠けるのよね。つーか、そんな頭の悪い低能に嵌められたパトリシアの株も連動して下がるじゃないのよ。
無能扱いされてる奴にまんまと嵌められてる時点でパトリシアもあんまり賢くないな。うん。
ざまぁの為に深く考えずにキャラやストーリーを作るから、綻びや違和感が生じるんだよクソが。
妖精の協力とかいうチートとパトリシアの主人公補正が強いから復讐できるのね。
どっちみちパトリシアが手強くて油断できないのは間違いない。
パトリシアや王子に近付かなきゃいいと思うけど、何があるか分からないから油断できないわね。
あ~、憂鬱だわ。何でこんな世界に転生したのかしら。やってらんね~。
だけど泣き言ばかり言ってられないし、これから破滅しない為にもやる事が多いからめげてばかりではいられない。
これから色々と苦労するのが目に見えて憂鬱だけど今後の事を考えなきゃね。
私の家は男爵の家でそれなりに領地は優れてた。
家族はお父様とお母様とお姉様がいる。私を可愛がってくれるし領民の為に頑張ってるし、本当にいい人達ね。皆いい人だから大切にしたいわ。でも、我が身が一番かわいいから最悪見捨てて1人で逃げなきゃならないのが残念ね。
あの人達には申し訳ないけど、私の保身に関わるなら最悪の場合、見捨てなければ。
・・・・・これじゃあ、ルシアと同類かそれ以下ね。
でも、人生には割り切りも必要。ルシアと同等のクズかルシアにすら劣るクズ以下になってでも私は生きたいのよ。
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あれから私は10歳になった。とりあえず私は魔法の習得を頑張る事にした。魔法は属性系の魔法は全然だったけど、それ以外の魔法は一通り習得できたわ。
属性魔法が使えないのはかなり痛いわね。仮にパトリシアと戦うにしても、属性魔法が無いんじゃ心許ない。戦わないのが1番だけどね。
まあパトリシアや、王子と関わらない様に立ち回らなきゃ問題無いわ。多分。
でもこれからが不安ね。もし何やかんやあって王子とお近づきになったりしたら私があの悪役令嬢に断罪されるかもしれないし。
だから、いざという時の為に逃げる準備をしなくてはならないわね。それに魔法だけだと心許ないから色んな手段を持たなくちゃ。
私は剣も扱う事にした。お父様の部下に剣が得意な人がいたから、剣を習った。お父様は難色を示したけどいざというときに必要だから護身術として教えを頼んだ。最初は苦労したけど鍛えていると少しずつ様になってきた。だけどまだまだだからもっと頑張るわ!
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半年経った。魔法も剣も以前の倍以上の腕を身につけたわ。魔法を使えない兵士なら余裕で倒せるぐらいにはなったわ。上げて落とす為に盛られとはいえ、腐ってもヒロイン(笑)なのね。
今日は森に行った。お父様は心配したけど私は強くなったし、それに護衛もつけてるから問題無し。
そんな訳で森を散策していると、1人の少年がいた。
その少年は私と同い年で、何やら魔法の練習をしていた。私は気になったので眺めていると、少年は私の視線に気がつく。
「…誰?」
その子は私に気づくと声をかけてきた。
身なりは良くて恐らく貴族の子供だろうかしら。
髪は薄い緑色でどこかあどけない目をしている。
こういうのを母性本能をくすぐるっていうのかしらね。
男の子は少し驚いた感じの目で私を見ている。
「何をしてるのか気になってね、見ていたの」
私は思い切って声をかけた。
「…そう」
男の子はそういうと、再び魔法の練習に戻る。
「あの、見ていてもいいかしら?」
「いいよ」
男の子は再び魔法の練習に戻った。
それにしても魔法の腕はいい。かなりいいと言ってもいいわね。私の何十倍も優れているし、何なら私に魔法を教えた先生よりもよっぽど精度が良く見える。
私は彼の魔法の腕を見るのに夢中になった。
「僕はもう行くよ」
「待ってあなたの名前は」
「僕はフランツ。フランツ・ガルシア。」
「いい名前ね。あなたは貴族かしら?」
「そうだけど、どうしてそう思うの?」
「身なりがいいからね。私はルシア・フルニエ。私の家も貴族の端くれよ。」
「そうなんだ。」
「またここに来るのかしら」
「たまにここで練習するんだ。」
「なら、また見てもいいかしら。」
「…あんまし面白くないけど」
フランツは少しオドオドした様子で答えた。
それからしばらくフランツの魔法の練習を見学した。フランツの魔法は凄い。威力も凄いけど精度が並の魔術師より優れていると思えるぐらいに優れている。私に魔法を教えてくれる先生より凄くね?
私はフランツの魔法の腕に夢中になった。
「僕はそろそろ帰るよ」
「ええ、さよなら」
フランツは一通り練習を終えると帰路につく。
フランツが帰った後も私は森を見回った。
森には色んな植物や生き物がいた。私が転生する前の世界にはない物が多くて、これが中々楽しくて夢中になったわ。
これが私とこの世界のバグとも言える存在との初めての出会い。フランツとの出会いが私と他のバグと出会いに繋がるとはこの時の私はまだ知らなかったわ。