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3.自殺志願者

3.

 俺たちはカフェに来ていた。カフェと言っても一風変わった内装で、ここには個室というものがあるようだ。

 とりあえずコーヒーを注文し、注文した品が届くまでお互い無言で待つ。ロボットが届けてくれるようで、愉快な音楽を鳴らしながらコーヒーはすぐに来た。

 テーブルに備えてあったミルクを少々、砂糖を多めに入れかき混ぜる。せっかく取っ手をもっていたのでそのまま飲むことにした。味は美味しいに決まっている。砂糖が入っているのだから。

俺は「何かの縁だ。名前ぐらいお互い知っておかないか?」と。

御堂(みどう)レキだ」

冴田(さえだ)ルルよ」

 冴田の不機嫌さは言葉尻からひしひしと伝わってきた。あのとき最初から反覚醒者だと知っていて、それを隠して接近したのだから、そのことに怒っているのだろう。だが、逆にそのことが彼女の素を垣間見せていた。

 冴田はため息をつく。すべてを諦めたかのように。

「なにから話す? ネタはつきないでしょ?」

 投げやりな感じでそう言う。

「……そうね、どうして私が反覚醒者だって分かったのか、それから聞かせてくれる?」

「知り合いにいるんだよ。そういう見つけるのが得意な奴が」

「ふうん……もしかして反覚醒者で徒党でも組んでいたりするの?」

「んや、知り合いにたまたまそういうやつがいるってだけだ。それに反覚醒者のあんたなら分かるだろ? 俺たちは群れることはできない。そりゃだって、俺たちは各々が思想を持ち、目的を遂行するんだ。統率なんちゃあったもんじゃない」

「それもそうね。それじゃ、あなたのそれはどういうこと? 今、群れようとしている真っ最中じゃない」

「例外があるだろ。もしも志が同じだったら」

「それで片っ端から興味本位で話しかけているのね。それに私は捕まったと」

 冴田はそう言って一応の納得はしたようだった。すんと鼻息を鳴らして腕を組む。考えているようで視線は右下にあり、それにつられて首をややかしげていた。

 コーヒーカップの背景で再び視線が通い合う。

「まあ、同士ができるってのは悪いことじゃないわ。とりあえずあなたの話は信じる」

 俺は慌てて口からカップを離し、きっと下手な笑顔で「お、サンキュー」と答えた。幾分か警戒心を解いてくれたことに一抹の安心を得る。

「それで、あなたのほうは? 聞きたいことがあったんでしょ?」

 その言葉はさっきより柔和で。

「ああ。反覚醒者のあんたが覚醒者機構のビルを見ていたその理由を――」

「テロを企てていたのよ」

 冴田は言葉を遮って一言だけそう言った。

「テロ?」

 俺は続けて声を低くし「勝算はあるのか」と。

「無い。無いから見ていることしかできなかったのよ。ああでもない、こうでもないってね。結局、セキュリティよね。内部に侵入できなくちゃどうしようもないわ」

「ま、現実的には難しい話だな」

 俺はそう呟いて天井を見、後頭部に手を回す。それから自分ならどうするか、その計算をした。それこそ徒党を組まないと不可能だろう。俺はすぐに思考を破棄する。

 弾みをつけて起き上がり、組んだ腕を机へと乗せた。

「ところで話は変わるが、あんたはどうしてるんだ? 反覚醒者の衝動、あるだろ? 対策とかせっかくだしよ、情報共有しようぜ」

「それも無いわね」

 苦笑いをする冴田。「あたしのほうが聞きたいくらい」と肩を竦める。

 俺はわざとらしくもったいぶって「もしその衝動が抑えられると言ったら?」と尋ねる。

 冴田は呆れたように「何通りの解決策があるのかしら」と言った。

「一通り」

「ダメじゃない」

「理不尽だよな」

「確かに理不尽ね。せっかく薬を開発してくれたのに、その薬を反覚醒者が飲みたがらないのだから」

「もしも今から一般人になれると言われたら?」

「なるべきなんでしょうね。でも身体は言うことを聞かないわ。頭では分かっているのよ。きっと普通に戻った方が良いって。でも反覚醒者の性ね。治療しないことが反社会的となる」

「あーあ、悲劇の主人公、哀れだね」

「その言葉も本心じゃないっていうんだからまた哀れなのよ」

 俺は「まあな」と笑った。自嘲ではない。これが反覚醒者の諧謔(かいぎゃく)だった。

 俺たちの思想は反社会方向へ傾倒しており、口から出る善の言葉は全て嘘になる。だから反覚醒者が一般人になるには第三者によって投薬されなければならない。もっとも一般人には超能力を持つ反覚醒者を相手にするのは不可能だ。したがって覚醒者によって制圧されなければ俺たちはこの病を治すことはできないということになる。

 ちなみに余談だが、これが覚醒者機構というやつの存在意義だった。

「んじゃ、雑談はここまでにしようぜ」

「あら、次は何が始まるのかしら」冗談めかしく言う冴田。

「メインディッシュさ。俺たち二人にとってのな」

「すてき。どんなお話を聞かせてくれるの?」

「聞いてびっくり……もし覚醒者機構ビルに侵入が可能だとこの俺が言ったら、あんたはどう出る?」

 この言葉がかなり効いたらしい。

 途端、冴田の肩が強張るのが分かった。力が入っているのだろう。ひょっとするとそれは怒りを体現しているのかもしれない。

「冗談よね?」

「いいや、本気さ」

「嘘をついたらあなた殺すわよ」

「過激だねえ。いや、それが反覚醒者のスタンダードか? まあいいさ。話を聞いてからでも遅くはない。言っただろ、反覚醒者が徒党を組むとき、志が同じであれば成立するってな」

「へえ、まさかあなたも覚醒者機構を?」

「そうさ。反覚醒者の敵は誰だ。覚醒者だ。それ以外に何がある。俺の目的は覚醒者の殲滅。それ以外にはない」

「そう……興味が湧いてきたわ。それで、どうするの? 具体的に、その先を教えてくれる?」


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