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エバーシンス  作者: k-ta
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 朝7時、天満近くのホテルに宿をとった福岡は、少し残った酒と眠気を取り払う為、シャワーを浴びた。あすか文具店の開店は10時だが、出社は8時や9時かもしれない。裏口で待つことにした。9時を過ぎても誰も来ない。気になって表に回って見たが、閉まったままだ。店休日が、水曜日と店先のガラス戸を見て気がついた。店舗は土日開いていても、製作は土日休みの可能性がある。そうかと頭を抱えたが、とりあえず、開店までは待って見ることにした。裏口に回るがなんの変化もない。しばらく待っていると、社長の香山が出勤してきた。

「ちょっと、いつから?」

「おはようございます。朝8時からです」

「今日、工場は休みやで」

「あっ、やっぱり。さっき気がつきました」

「昨日会えんかったんやな」

「はい」

「今日明日は、結城は休みやから、また出直しておいで」

「そうしたほうがいいですね」

香山に言われ、福岡は歩いて行ってしまった。香山も気になりながらも、裏口の鍵を開け、中に入り、店舗を開ける準備をした。表のガラス戸を開けると、香山は驚いた。福岡が昨日と同じ位置にいた。

「なぁ。今日はけーへんって」

「はい。わかってます」

「やったら、ここにおっても」

「はい。でも来るような気がするので、待ってます」

「だから、けーへんて」

「お構いなく」

「気になってしゃあないわ」

「視界に入らない場所に移動しますね」

香山も勝手にしろという気持ちになった。1時間ほどして、店から福岡を確認するとまだいた。1時間来ないとわかっていて、昨日の罪悪感が蘇った。昨日結城に頼まれ、裏口から帰ったと嘘をついてしまっていたからだ。二度も嘘をついてしまったことはどうも引っかかり、福岡はそれを見抜いているのか、しびれを切らして、連絡先を教えて貰おうとしているのか。さすがに本人の了解なく、連絡先も住所も教えるわけにはいかない。気になって、仕事に集中できなかった。店に誰もいなくなり、再び福岡の元に、ペットボトルのお茶と、店にあったいただきもののお菓子を持っていった。

「わぁ。嬉しいなぁ。ありがとうございます」

福岡の明るい笑顔に心が痛む。

「まだ待つの」

「はい。来るまで待ちます」

「今日明日は来ないって」

「でも僕明後日は東京に帰ってるので、会うなら明日までなんです」

「私は何もできひんよ」

「はい。何か頼むつもりもありません。大丈夫です。タブレットあるので、仕事できるし、動画みたりゲームしたりできるんで。明日帰るまで待ちます」

「そう」

そういって店に戻る。今から明日までずっといる気か。福岡の異常行動に怖さよりも、覚悟を感じた。

 店の並びの3件先にコンビニがあり、福岡も時々買い物に行っているようで、昼は弁当を食べていた。他にも店がある為ずっといる福岡に声を掛けたり、周囲も気づきはじめていた。午後2時前に、バイトの北原がやってきた。

「社長社長。えっ、またいますよ。あの人」

「朝からずっとや」

「朝から。気持ち悪」

「そうやろ」

「結城さんの何者なんですか?」

「前の会社の後輩みたい」

「後輩でそんなことします。尊敬しててもそこまでする神経がわかりません」

「今日明日来ないって言ってんねんけどね」

「えっ、なのに。何怖い。あっ、警察」

「えっ?」

「警察が来ましたよ」

「ちょっと待って」

「なんか言い合ってる」

香山は慌てて、店を出た。福岡の元に駆け寄る。一緒になって警察と話して、警察は帰っていった。香山は福岡を連れて店に戻ってきた。

「店の中におって」

「いえいえ、迷惑はかけられません」

「店の前にいることが迷惑やの。周りの人も不審に思ったから、警察呼んだんやろ。待つなら、奥で待ってて」

「すみません」

「もう」

応接に通して、店との仕切り扉を閉めた。福岡は座れたことに、心地よさを感じた。さすがに立ちっぱなしに疲れたからだ。荷物からノートとペンを取り出した。店内は多いとは言えないが、客があまり途切れることはないようだ。結城の作ったクレパスを手に取って見ている人もいる。結城が今この職場で生き生きと仕事をしていることに嬉しくなった。

 「もしもし。あっ、純、休みのとこ、ごめんな」

「はい。どうされました?」

「あの人が朝から来てるのよ」

「えっ、まさか福岡がですか?」

「そうやねん。ずっと。今日明日は休みって言うとんのやけど、明日東京帰るまで待つって」

「あいつは、何考えてるんですかね。迷惑かけて」

「迷惑かけてもいいから会いたいんやろ。会ってやったら?」

「会いません」

「会って、もう会わんって。伝えたりーや。私が言っても無駄やもん」

「会わないって決めたから」

「もう、ほんま頑固もんが、あほ」

スマホを切った。結城も頑固なら、福岡も頑固で2人は似てると思った。とりあえず、香山がやるべきことは終わった。後はどっちが折れるかだ。この際どうなるか見届けてやろうとさえ思った。

 北原は店内にいると、応接室が気になってしようがなかった。あの見た目いくつかわからないおじさんは北原にとって不可解しかない。店内を周りながらチラッと応接室を覗いて、何をしているのか見て見たりした。ちょうど椅子にもたれて、ノートの中身が見えて、北原は思わず笑ってしまった。福岡はそれに気づいた。北原も見つかったと思ったがもう遅い。それよりも、ノートの中身。応接室との仕切りを開けた。

「それ」

「あっ、これは」

「めっちゃ上手」

「そうですか」

「社長みたら怒りますよ」

「黙っててね」

「社長」

「待って待って」

「嘘ですよ。絵上手なんですね」

「まぁ。描くのは好きで」

「他にも見せて下さいよ」

「これ?」

「はい」

「描き殴ってるから汚いけど」

北原は興味深く、ノートを手にとり、福岡の向かいの椅子に腰かけた。芸能人の似顔絵や、ロゴ、街並みなど、描いているものは様々で、たしかに書き殴っているように見えるが、統一感があるとともに、整理されているように見え、見ていてわくわくするノートだった。

「絵の勉強とかしてたんですか?あっと、お客様だ」

北原は慌てて、行ってしまった。お客さんの接客を済ませて、すぐに戻ってきた。

「んで、絵の勉強は?」

「いや全く」

「それでこんなに上手なんですね」

再びノートをとった。開いているページは再び、最初に見たページだった。社長の似顔絵は、ボールペンにオマージュされていて、またそれが特徴を捉えていて、何度見ても笑えた。前のページをめくって、目を輝かせた。

「かわいい」

そのページに描かれていたものは、あすか文具店の店舗だった。

「社長社長」

事務所から社長が何事かと出てきた。

「何?」

「見てください。これ」

「ちょっと」

「いいじゃないですか。これ」

「わぁ。素敵やない」

「ですよね」

「これ。福岡さんが」

「まあ」

「スマホで撮ろ」

「よかったら、どうぞ」

「頂戴」

「はい」

リングノートから店舗の描いた紙を破って渡した。

「ありがとう。店に飾っとこ」

破いた後に香山はノートにふと目をやった。何?ノートも奪い取った。

「何やのん。これ」

「これは」

「あっ、ばれてもうたん」

「あんたが頼んだんか」

「私関係ない。この人が勝手に描いてた」

「何これ。失礼やけど、うまいやん」

「でしょ」

「あんたはでしょやあらへんがな。」

「福岡さん、絵ほんま上手やな。暇やろなんか描いて」

「じゃあ」

「これは私がもろうてええな」

と勝手にノートから破った。香山も北原も福岡がいることに違和感を感じなくなっていた。店が閉店するまで、店の中にいて、8時閉店で一緒に店を出た。

 「やっぱり待つの」

「はい」

「気持ち悪」

「なぁ」

「今日会えなかったら、明日もいるんでしょ」

「まぁ」

「じゃあ明日楽しみにしとこ。福岡さん面白いし」

「なぁ。うちの文具のイラストとかデザインして欲しいわ」

「いやいやそんな」

「じゃあ今日、会えないこと祈っとこ」

「な。でも警察にまた通報されたら、ちゃんとどっかいかなよ」

「わかりました」

「じゃあ、頑張って」

「またな」

2人は帰っていった。香山も北原も家は徒歩圏内のようだ。見送った後、また長い戦いにうんざりした。

 「何時までいるんですかね」

「さぁ。明日聞こ」

「はい。それでは」

「はい。お疲れ様。気をつけてな」

「はい。お疲れ様でした」

北原と別れ、香山はスマホを取り出し、結城にまだ福岡が店先にいることをメールで伝えた。


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